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新型コロナ 自民総裁選 国民の意識は

曽我 英弘  解説委員

9月のNHK世論調査がまとまった。菅総理大臣が10月上旬には退任する一方で、19都道府県では緊急事態宣言が9月末まで、またも延長された。こうした状況を国民がどう感じ、いま政治に何が問われているのだろうか。

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【内閣支持率】

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「菅総理、総裁選立候補せず」の一報が流れ、退任する意向が明らかになったのは9月3日。それから1週間余り経って行われた調査で、菅内閣の最後の支持率は「支持する」は8月より1ポイント上がって30%、「支持しない」は2ポイント下がって50%と、ほとんど変化がなかった。菅内閣で最高は発足時の去年9月の62%、最低は東京オリンピック直後の8月の29%と、1年でおよそ30ポイント下がった。

【菅内閣の1年の取り組み】
この1年の菅内閣の取り組みを国民はどう見ているのだろうか。

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これまでの取り組みをどの程度評価するか聞いたところ、「評価する」と答えたのは「大いに」「ある程度」あわせて55%、「評価しない」は「あまり」「まったく」あわせて41%だった。
「評価する」が半数を超えた理由として、新型コロナのワクチン接種を加速化させ、9月1日にはデジタル庁の発足にもこぎつけたほか、脱炭素社会の実現に向けて一歩前に踏み出したことに評価する声も出ていた点が挙げられる。
にもかかわらず支持率が低迷したのは、医療体制の整備が遅れたほか、専門家の意見を軽視し、楽観的すぎ、国民に説明、説得し、納得してもらおうという姿勢にかけるという評価がついて回ったからと言える。それを裏付けるようにワクチン接種を2回終えた人が5割を超え、欧米諸国に追いつきつつあるにも関わらず6割余りが進み具合は「遅い」と考えている。また政府の新型コロナへの対応を5割余りが「評価しない」と答えている。

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ただ総理交代までまだ1か月弱ある。地震や大雨など自然災害はいつ起きてもおかしくなく、新型コロナや安全保障も先行きに予断を許さない状況が続く。それだけに政治的な空白が生じて、必要な備えや対策が疎かになることのないよう最後まで緊張感をもって取り組んでもらいたい。

【自民総裁選の議論への期待】

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自民党総裁選には14日現在、岸田前政務調査会長、河野規制改革担当大臣、高市前総務大臣が立候補を表明し、支持拡大に向けた動きが活発になっている。そこで総裁選でどんな政策をめぐる議論を最も期待するか聞いたところ、新型コロナ対策は44%、経済・財政政策は33%、エネルギー政策は4%、外交・安全保障政策は8%、ジェンダーや多様性は2%だった。新型コロナ対策を巡って岸田氏は司令塔となる「健康危機管理庁」の創設、河野氏は3回目のワクチン接種準備、高市氏は「ロックダウン」を可能にする法整備の検討を主張している。

【野党側は】

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これに対し野党側は一連の自民党の動きを批判し、次の衆院選をにらんで立憲民主党など野党4党は市民グループと共通政策を締結した。枝野代表は政権を獲得したら直ちに、30兆円以上の新型コロナ対策の補正予算案を編成し、官邸に司令塔となる部署を新設するとしている。
自分や家族が感染する不安を感じる人が8割を超えているだけに、与野党ともに対策の強化に向けた議論を深めてもらいたい。

【緊急事態宣言延長の効果】

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緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が適用されていた大半の地域で延長され、緊急事態宣言について政府は、東京や大阪など19都道府県で9月末まで延長した。これが感染拡大防止にどの程度効果があると思うか聞いたところ、「効果がある」と答えたのは「大いに」「ある程度」あわせて47%、「効果がない」は「あまり」「まったく」あわせて49%だった。これは地域を問わずほぼ同様の結果で、宣言の効果をめぐって見方が分かれている。
感染者数はここにきてすべての都道府県で減少傾向にあるものの、年代別でみると20歳未満の占める割合は増加傾向が続き、20%を超えている。また若者のワクチン接種が遅れるなか、人出は増える傾向にあり対面授業を再開する学校もあるだけに、油断は禁物と言えそうだ。

【行動制限緩和のタイミング】
一方宣言延長と合わせて政府が示したのが行動制限の緩和に向けた方針だ。今後のワクチン接種の進み具合を踏まえ、一定の条件のもと段階的に緩和する考えだ。具体的には、ワクチンを接種した人や検査で陰性が証明された人は、緊急事態宣言などの対象地域でも飲食店の利用や県をまたぐ移動の制限を緩和していくとしている。

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そこでこれを決めたタイミングをどう思うか聞いたところ、「適切だ」は18%、「早すぎる」は37%、「遅すぎた」は36%だった。政府は「社会経済活動の正常化に向けた道筋をつけたい」考えだ。これに対し専門家などは制限緩和の必要性には理解を示しつつも、「宣言下では感染再拡大を招きかねず、時期尚早だ」という懸念も出ていて、今後国民的な議論が必要となりそうだ。

【政党支持率】

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9月の政党支持率で自民党が4ポイント余り増加した。総裁選を通じて次の総理への関心が高まった効果が表れた形だ。ただ総裁選で誰が勝利するかという結果とともにその決まり方、つまり派閥による締め付けなどの動きが強まり、それを国民がどう受け止めるかによっては支持も変化していく可能性がある。一方立憲民主党など野党各党は埋没を避け、どう存在感を示していくかが課題となりそうだ。

【衆院選で与野党の議席は】

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次の衆議院選挙で与党と野党の議席がどのようになればよいと思うか聞いた結果、「与党の議席が増えたほうがよい」は22%、「野党の議席が増えたほうがよい」は26%、「どちらともいえない」は47%。このうち全体の4割を占める「無党派層」の半数を超える人が「どちらともいえない」と答えていて、この人たちの支持をいかに取り込むかが各党の課題だ。
さらに今回目を引くのは与党支持層であっても最も多い答えが「どちらともいえない」という点で47%だった。「与党の議席が増えたほうがよい」の39%を上回っている。政権の安定とともに、政治に緊張感を求める声が与党支持層にも根強くあることがうかがえる。

【政治の行方は】

最後に今後の政治の行方について考えたい。次の衆院選はどんなに遅くても11月28日までには行われる。「官邸主導」「1強」という安倍政権、その後を継いだ菅政権まで9年近く続いた今の政治の流れが今後も継続するのか、それとも転換するのかが、政策論戦とともに大きな焦点だ。
新型コロナ対策をめぐって日本の政治は今後も難しい対応が迫られる。それだけに、どの政党、どの議員が情報をオープンにすることで、国民の理解と協力を得られるだけの力があるのかが問われることになりそうだ。

(曽我英弘 解説委員)


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