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プラごみ対策 なにが変わる?

土屋 敏之  解説委員

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◆去年のレジ袋有料化義務化に続き、プラごみ対策の新たな国の方針が打ち出された

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まずこちらの12品目、プラスチック製のフォークやスプーン、ストローなどが「特定プラスチック使用製品」に指定され、これらを大量に提供している事業者は、有料化などの方法で削減に取り組むことが義務づけられます。
先月、経済産業省と環境省の合同会議で示された案で、なぜこの12品目か?と言うと、無料で提供されている量が多く削減効果が大きい、EUなどで既に規制対象になっている等が理由とされます。例えばコンビニでアイスを買った時にもらえるスプーンやホテルに泊まった時の歯ブラシやシャワーキャップなどが対象として考えられます。

◆有料化が義務化される?

今回は有料化の義務化ではなく、有料化も選択肢の1つという位置づけです。事業者はプラスチックのスプーンを木や紙などの素材に変更したり、無料のプラのままでも、お客に必要かどうかを尋ね、辞退した人にはポイントを還元しておトクになるようにする、などの方法で削減に取り組むこともできます。
そこで、きょうの「みみよりポイント」は、「辞退すればポイントなどをもらえる場合も」です。例えば既に大手クリーニングチェーンで、衣類を引き取る際にもらえるハンガーを辞退すると、ポイントカードにスタンプを押して、これをためると洗剤やバッグと交換できる、という方法で削減できたというところもあり、こうした方法でもよいとされます。

◆いつから変わる?

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これは今年成立した「プラスチック資源循環法」の下の具体的ルールにあたるもので、 国は来年4月からの施行をめざしています。

◆この法律では他にも変わることがある?

変わることは色々あって、身近なところでは「自治体によるプラごみの一括回収」というのがあります。
ごみのルールは市町村ごとに異なりますが、法律上は現在プラごみで分別回収の対象 なのは「容器包装プラスチック」と呼ばれるお菓子の袋やカップ麺の容器など、目安としてはプラスチック・リサイクルのマークがついているものになります。製品そのものがプラスチックのおもちゃや歯ブラシなどは、法律上は分別の対象外で、自治体によって燃えるごみだったり燃えないごみだったりとまちまちです。
新法では、容器包装もプラ製品もまとめて「プラごみ」として分別回収するのが自治体の努力義務になります。
また、企業の役割も新たに設けられます。プラ製品のメーカーは、商品を設計製造する段階から、プラの使用量を減らしたり分別しやすい作りにしたりすることが求められます。 
国はこうしたプラごみ削減につながる設計の基準を作り、それを満たすプラ製品は認定して、消費者が選べるよう公表する制度を作ります。

◆なぜこうしてプラごみを減らそうとしている?

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背景には、世界で増え続けている海洋プラスチックの問題があります。このままでは、 2050年には海の魚の量をプラごみの量が超えるとも見積もられています。
今や水や大気にも小さなマイクロプラスチックが含まれていて、海の魚などからも見つかっています。こうしたことから既に私たちは水や食事などを通じて毎週5グラム、クレジットカード1枚分のプラを体内に入れているとの推計もあり、これが私たちの健康に長期的にどう影響するかはまだよくわかっていませんが、一昨年、主要20か国は「2050年までに新たな海洋プラごみ汚染をゼロにすることを目指す」と合意しています。

◆私たちは海にプラごみを捨てたりしていないと思うが?

直接海に捨てなくても陸上で出たごみの一部は最終的には海に流出します。そして実は日本は、1人あたりの使い捨てプラの量がアメリカに次いで世界で2番目に多いとの推計もありますし、日本のプラごみは8割以上が「有効利用」されていることになっていますが、大半は燃やして熱の一部を利用しているだけの「熱回収」と言われるものです。
石油から出来たプラスチックを燃やせばCO2を出し、温暖化につながります。そういうことからもプラごみ自体の発生を減らす必要もあります。

◆こうした新しいルールでプラごみの削減はどれぐらい進みそう?

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例えば、「プラごみ一括回収」を実証事業として行った7都市では、分別回収されたプラの量が容器包装だけの時に比べ35%増えました。回収量が増えた分、燃えるごみや埋め立てごみに混じっていた分が減ったとすると効果はありそうです。
またスプーンなど12品目の削減効果はまだこれからですが、レジ袋の場合、辞退する人の割合がスーパーでは有料化が義務化される前の57%から80%に、コンビニでは23%から75%と増えたとされますので、今回の制度は少し異なりますが、これも「日本のプラごみ削減」という意味では、一定の効果はありそうです。ただし、海洋プラスチックという大きな問題に対しては、まだささやかな一歩かもしれません。

◆なぜ海洋プラ問題の解決は難しい?

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海岸に漂着したごみの調査では、特に個数が多いのはボトルやポリ袋などの他に、プラ製の漁業用の網やロープなども多くを占めています。また、回収されたペットボトルに印刷された言語から、外国由来のものが半分以上を占める海岸もいくつもあります。
さらに、日本の東の太平洋上には世界でも特に多くのごみが漂う「太平洋ごみベルト」 と呼ばれる海域があるとわかっていて、ここには黒潮に乗ってアジア各国のごみなども流れ込んでいると見られます。つまり、日本が国内のプラごみをきちんと対策することは大前提ですが、海洋プラ問題はひとつの国だけでは解決出来ない地球規模の課題とも言えます。
そこで、7月に開かれた主要20か国の環境大臣の会合で、今後、海洋プラごみ削減に向けた国際条約などを作る議論を進めることが合意されました。

◆今後はなにが求められるでしょう?

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条約を作るにしても議論の土台となる科学的データ収集や分析は欠かせません。というのも今はまだ、海洋プラがどこからどれだけの量、どんなルートで流れ込んでいるのかなど基本的なことも、健康への影響なども正確にわかっていないためです。とは言え、一旦海にマイクロプラが拡散してしまうと後から回収するのは困難ですから、これ以上増やさないよう並行して対策も急ぐ必要があります。
そして私たちにできることは、新たな分別ルールなどができたらそれに沿ってきちんと 出すことや、やはり使い捨てプラの使用を減らすこと、マイバッグやマイボトル持参などできることから積み重ねることも大切だと思います。
一方で、レジ袋の次はストローやスプーンの有料化などと、次々消費者負担が増えるようにも見える状況に対し、国はどう「脱使い捨てプラ」の循環型社会を実現しようとして いるのか?ビジョンをわかりやすく示す必要があります。

(土屋 敏之 解説委員)


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