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「夫婦別姓を選びたい 司法の判断は?」(みみより!くらし解説)

山形 晶  解説委員

夫婦は同じ名字にすべきか、別々の名字も選べるようにすべきか。
長年、議論されているこのテーマが、再び注目を集めています。
先週示された最高裁の判断や今後の注目点について解説します。

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【今の制度の仕組み】
まずは今の制度がどうなっているか見てみます。

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日本人どうしが結婚する場合、それぞれ親の戸籍から除外され、新たに1つの戸籍を作ることになります。
戸籍法の規定で、夫婦の名字を届け出なければなりません。
名字は、民法の規定で、夫または妻の名字を選ぶ、つまり、同じにしなければなりません。
そして夫婦の間に生まれた子どもも同じ戸籍に入り、同じ名字になります。
名字を1つにして、家族だということを対外的に示す形です。
これが明治以来120年あまり続く、今の制度です。
ただ、同じ名字にするか、別々の名字にするか、選べるようにしてほしいという声が上がっています。

【「選択的夫婦別姓」めぐる論点は】
同姓か別姓か選べるように、ということで「選択的夫婦別姓」と呼ばれますが、賛否は分かれています。

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まず、賛成意見です。
背景には、夫の名字にする人が全体の96%にのぼっているという現実があります。男女の不平等という問題です。
女性の社会進出が進む中で、自分の名前で積み上げてきた実績や評価が途切れるなど、仕事上の不利益や不便さが避けられないことが問題になりました。
職場で旧姓を通称として使用できるようにする動きも広がっていますが、2016年に内閣府が行った委託調査では、使用を認めている企業は49.2%。
半分にとどまっています。
今も旧姓の使用が認められていない手続きも多くあります。

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さらに、今までの自分が失われるというアイデンティティーの問題、結婚や離婚といったプライベートな事情が周りに知られてしまうという問題もあります。
今では、夫婦に同じ名字を義務づけている国は日本だけだとみられます。
中には婚姻届を出さず、事実婚を選択する夫婦もいますが、事実婚は、配偶者控除を受けられないなど、法的にさまざまな不利益があります。 

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一方、反対意見は、家族の一体感を重視しています。
「名字が異なると家族の絆が弱まる」、「日本人の家族観を一変させる」、「親の名字が異なると子どもに好ましくない影響が出る」といった考えです。
名字が変わると仕事上の不利益や不便があるという問題については、住民票やマイナンバーカードに旧姓を併記できるようになるなど、不便さを解消する動きが進んでいることを挙げ、旧姓の通称使用をさらに拡大する法改正を求めています。

【具体的な見直し案は?】

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法務大臣の諮問機関である法制審議会は、今から25年前に「選択的夫婦別姓」を導入するという法改正の案を提言しています。
夫婦は同じ名字にするか別々の名字にするか選ぶことができ、子どもの名字については、結婚する時に、夫と妻の名字のどちらにするか決めておくこととされました。子どもたちの名字は全員同じです。
そして戸籍については、仕組みを変えず、これまでは1つの名字しか記されていなかった戸籍に、2つの名字を記すことができるようにするという案が示されました。
しかし、与党の自民党の中で反対意見があり、この改正案は国会に提出されませんでした。
当時、国が行った世論調査でも、選択的夫婦別姓のための法改正について、「必要ない」が39.8%と、「改正してもかまわない」を上回っていました。
その後も与野党の議員が改正を模索する動きがありましたが、改正には至りませんでした。

【司法判断を求める動き】
こうした中、今の制度ではあまりにも自由や権利が侵害されているという理由で、是正を求める裁判が起こされるようになりました。
論点はいくつかありますが、今の制度が、憲法で保障された「婚姻の自由」に対する不合理な制約にあたるかどうかが大きな論点になりました。
これは、今の制度の意義や、逆に、制度のせいで法的な結婚をあきらめた人たちもいる状況を踏まえた上で、総合的にどう判断するかという問題です。

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最高裁は2015年に初めて判断を示しました。
15人全員が参加する大法廷で審理して、10対5で「憲法に違反しない」という結論になりました。
「夫婦が同じ名字にする制度は社会に定着してきたもので、集団の単位である家族の呼称を1つにするのは合理性がある」という理由でした。
制度の意義を重視した形です。

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しかし、その後も同じ趣旨の申し立てが相次ぎ、先週、最高裁が改めて判断を示しました。
今回も大法廷で審理しましたが、内訳は、男性が13人。女性は2人だけでした。
その審理の結果、11対4で今回も「合憲」でした。
理由を見ると、ほぼ2015年の判決の引用で、ごく短い内容にとどまりました。
仕事を持つ女性が増えたことや、選択的夫婦別姓に賛成する人が増えていることなど最近の事情を踏まえても、判断を変更すべきとは認められないというものでした。
さらに、「制度の是非と憲法判断は次元が違う」と強調していて、選択的夫婦別姓については否定も肯定もせず、国会で判断すべきだとボールを投げた形になりました。
「合憲」の裁判官の個別の意見を見てみると、今後の事情の変化によっては違憲判断もあり得るという含みを持たせていますが、今は判断を変更すべきではないという考えでした。
一方で「違憲」と判断した裁判官は、今の制度は「婚姻の自由」の制約にあたり合理性を欠くという意見でした。
いわば個人の側に立って、不利益の大きさを重視する立場と言えます。

【裁判では制度は変わらない?】
個別の意見とはいえ、「違憲」という含みも持たせた意見が示されたので、裁判で制度が変わるかどうかは、今後の世論や社会の状況が影響すると言えます。
そこで、今の世論を見てみます。

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これは、NHKがことし(2021年)3月に実施した世論調査の結果です。
「夫婦の姓はどうするべきか」尋ねたところ、「夫婦は、同じ名字を名乗るべきだ」という人は40%、「同じ名字か、別の名字か、選べるようにすべきだ」と答えた人は57%で、「選択的夫婦別姓」を望む人は、半数を超えています。

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調査方法が異なるので単純に比較することはできませんが、6年前(2015年)に実施した世論調査では、「夫婦は、同じ名字を名乗るべきだ」が50%、「同じ名字か、別の名字か、選べるようにすべきだ」という人は46%でした。
名字を選べるようにすべきだと考える人は、大きく増えています。

【今後の議論は?】

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今後は、やはり国会の動きに注目です。
これまで選択的夫婦別姓の導入に反対する声が上がっていた自民党の中で作業部会が立ち上がっています。
ただ、意見は分かれていて、自民党の幹部は「衆議院選挙が終わってから本格的に議論したい」と話しています。
一方で、ほかの政党が衆議院選挙の公約として案を示す動きも出ていて、議論になりそうです。

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この問題は、大きく意見が分かれていますが、多くの女性がさまざまな形で不利益を受けていることは確かです。
それを解消するにはどうすればいいのか、国会の場で議論してもらいたいと思います。
そして私たち自身も、「もし自分の名字が変わったらどう感じるか」といった風に、見方を変えながら考えていく必要があると思います。

(山形 晶 解説委員)

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