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「教師の質は保てるか?教員免許更新制の見直し」(みみより!くらし解説)

二宮 徹  解説委員

今、学校教育は、教師の長時間労働など、厳しい労働環境が大きな課題になっています。こうした教師の負担軽減策の一つとして検討されている教員免許更新制の見直しについてお伝えします。

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<教員免許とは?>

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学校の教師になるには、幼稚園、小学校、中学校、高校など、それぞれ種類に応じた教員免許が必要です。中学校と高校は、国語や理科などの教科ごとにも分かれています。有効期間は10年で、更新しなければ失効してしまいます。有効期間があり、更新しないと失効してしまうというのは車の運転免許に似ていて、同様に、更新するには講習を受ける必要があります。この更新について、今、文部科学大臣の諮問機関・中央教育審議会の特別部会で、廃止するか、講習を大幅に減らすかなど、見直しの議論が進んでいるのです。

<教員免許更新制とは>

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もともと期限がなかった教員免許が更新制になったのは12年前の2009年度です。10年ごとに講習を受けることで、最新の知識や技能を修得してもらう。たとえば、いじめや不登校への対応、デジタル化や英語教育の最新事情など、さまざまな内容を学びます。講習は主に大学で行われるので、現場を離れて、ほかの学校の先生たちとも交流することで、自分の授業や指導の改善に役立てる機会にもなります。

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最新の知識やスキルを学ぶというのは良いですが、更新制には課題があります。
まずは、更新講習の負担です。期限前の2年の間に30時間以上の講習を受ける必要があります。夏休みに5日間など、まとめて受ける人が多いようです。それに、3万円程度の受講料などは自己負担です。講習を受ける大学が遠い先生は、その交通費やホテルの宿泊費も自己負担です。
そして、こうした直接の負担はもちろん、講習でいない間の部活動の顧問など、自分の業務を同僚の先生に代わってもらうことなども重荷で、職場の忙しさにも拍車をかけているといいます。
また、更新をうっかり忘れていて失効してしまう先生が、全国で年間数十人いると見られますが、これを防ぐために教育委員会や校長・教頭が先生たちの期限や申請状況を管理しているケースも多く、意外に大きな事務の負担を招いています。失効しても、多くの場合、30時間の講習を受ければ再取得できますが、すぐに講習を受けられない場合もあり、手続きを含めてかなり大変なのです。
教師の質を高めるために導入された更新制ですが、授業の改善などに役立つと一定の評価はあるものの、一方で、現場の負担を増やして、教育の質に影響しているという皮肉な状況と言えます。
10年ごとに5日間の講習というと、それほどの負担ではないかもと思うかもしれませんが、その事務や管理を含め、教育現場に影響が出ているということなのです。
しかも更新制が別の深刻な問題につながっていることから、急いで議論が進んでいるのです。

<採用や人材確保に影響>

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その深刻な問題とは、教員の採用や人材活用に影響していることです。
産休や病気休職の先生がいた場合、定年退職した人や出産や介護で教壇を離れた人が、代わりに臨時教員などで復職するケースがあります。また、教員免許を持っていて民間企業などから転職を考える人もいます。これらのケースでも、講習を受けるなど、失効しないようにしておく必要があります。
このように免許の更新制が人材の確保や活用の邪魔になっている面があるのです。

休職した人の分が欠員のままだと、ほかの先生たちの仕事がますます増えてしまいます。
しかも、最近は教師の長時間労働が問題になっていて、若者の就職先として人気が下がっています。

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こちらのグラフは、公立小学校の教員の採用倍率です。この10年下がり続けていて、昨年度は2.7倍と、過去最低にまで落ち込んでしまいました。採用倍率は3倍を下回ると、人数や質の確保に影響するとされますが、2倍を割る自治体もあるほどです。教師の質の向上どころか、人材の確保すら危うくなってきているといえます。
文部科学省や各地の教育委員会は、労働環境の改善を急いで進め、就職先としての魅力を高めることが求められていますが、教員免許の見直しもその改善策の一つです。

<どう見直すのか? 資質向上が重要>
具体的にどのように見直すのか。更新制を廃止するか、または講習を大幅に減らすかなど、近く具体的な方向性が示される予定です。どのように見直すにしても、教師の負担を減らすことと、教育の質を高めることを両立させる必要があります。

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実は、更新制が導入される前から、各地の教育委員会が先生たちの研修をしていて、新任の時や3年目、10年目など、随時、行われています。これが10年ごとの更新講習と重なる内容が多いので、この研修と更新講習の良い部分を生かしながら整理・統合する案が挙げられています。また、講習をオンラインにして、職場や自宅で受講できるようにするという案も出ています。このほか、2年の間に受講しなければならない条件を5年間などに延長する案などもあります。
ただ、安易に講習や研修を減らすことには心配の声もあります。教師教育の専門家ら1200人あまりでつくる、日本教師教育学会は「更新制の廃止が検討されるのはよいことだが、お仕着せの研修やオンラインで動画を見るだけの研修ばかりになってしまうことが懸念される。教師が自ら学ぶ研修を充実させるとともに、労働環境の抜本的な改善を進めるべきだ」と要望しています。見直しには教師の質の向上という視点が重要だということです。

<まとめ>
コロナ禍の今、教師はデジタル化や多様化などへの対応を迫られているうえ、コロナ禍で修学旅行や遠足の行き先を変えるなどの対応も加わり、厳しい状況が続いています。少しでも負担が減ることで、わかりやすい授業や子どもとの関わりにつながってほしいと思います。教員免許の見直しだけで大きく改善できるわけではないので、文部科学省や教育委員会、学校現場それぞれが、できることを積み重ねることが求められます。そうして人材の確保と教育の質の両立を図りながら、先生と子どもたちがもっと生き生きと過ごせる学校になってほしいと期待します。

(二宮 徹 解説委員)

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