世界的に木材の価格が上がっていることを受けて、国内の住宅建築などの現場に大きな影響が広がっています。今井解説委員。
【住宅建築の現場で、今、何が起きているのですか?】
日本では、新築の住宅のおよそ60%が木造ですが、それに使う木材の価格が高騰していす。このため、大手の住宅メーカーの間では、新たに契約する木造の住宅について、値上げに踏み切る動きが相次いでいます。
【どのくらいの値上げですか?】
メーカーによって違いますが、一戸あたり、数十万円程度の値上げになるところも出ています。
【大きな金額ですね】
さらに大きな影響がでているのは、一年に数戸から、数十戸程度を扱う、中小の工務店の現場です。こうした工務店は、地域に根付いて、修繕やリフォームに細やかに応じてくれることもあって、木造新築の半数を手掛けています。ですが、木材の値上げどころか、そもそも必要な木材が手に入らない、という声があがっています。
大手の住宅メーカーが安定的な調達先を持っているのと比べると、多くの工務店は、必要に応じて木材を購入しているため、調達力が弱いからです。
中小の工務店に対する5月末の調査を見てみると、
▼ 90%以上の工務店が「木材の調達に遅れが出ている」と答えていて、
▼ 「着工はしたけれど、工事に遅れが出ている」ところが30%
▼ 「木材調達のメドがつかず、その前の1か月に新たな契約の締結を見送った」と答えた工務店も25%に達しました。
【工事が途中で止まったり、そもそも契約ができないといった事態になっているのですね】
そうなのです。今、コロナの影響で、庭があったり、テレワークのスペースがあったりする、一戸建ての魅力が見直されています。それが、数十万円の値上げとなると、消費者には重い負担です。また、引き渡しの時期が予定より遅れると、賃貸に住んでいる場合、賃料などの出費が当初の想定より増える心配もあります。
【消費者の負担が増えますね】
はい。また、工事ができないと、影響は、大工などの職人から、電気などの工事会社、キッチンなどの設備会社にまで広く及びます。
さらに、住宅以外でも、
▼ テーブルやソファーなど、木で作る家具を値上げする動きもでています。
▼ ホームセンターでも、一部の木材について数量制限を設ける動きがでています。
【なぜ、木材の価格が上がったり品不足が起きたりしているのですか?】
はい。異変が起きたのは、輸入の木材です。日本は、住宅用の木材のおよそ50%を輸入していますが、
▼ その輸入価格。2015年を100とした指数のグラフを見てみると、今年に入って急激に上がっています。5月は、一年前と比べて23%上昇しています。
▼ そして、輸入量。例えば、4月の製材の輸入量は、一年前より23%減っています。
【輸入木材にこうした異変が起きているのは、なぜなのですか?】
最大の要因は、アメリカで住宅建築が急激に増えていることです。
新型コロナウイルスで在宅勤務が広がったこと。そして、歴史的な低金利が続いていることなどから、郊外に広い家を求める人が増え、住宅着工は歴史的に髙い水準になっています。その結果、木材の需要が増え、価格が高騰したのです。
また、コロナの感染からいち早く回復した中国でも、木材の需要が増え、これまで、日本が住宅向けに調達していたカナダやヨーロッパ産の木材が、高い値段でも買ってくれる、アメリカや中国に向かってしまった。つまり、日本は、買い負けて、その結果、輸入量が減ってしまったということです。
さらに、コロナの影響で、世界的に巣ごもり需要が増えたことから、貿易に使うコンテナが不足し、木材を運ぶ運賃が値上がりした。そのことも、価格の高騰に拍車をかけています。
【こうした状況はいつまで続くのでしょうか?】
アメリカの住宅需要や、巣ごもり需要は、コロナの影響という面があります。いずれ、落ち着くとみられています。ですが、木材を契約して日本に入ってくるまでには、数か月かかります。今の状況を見ると、少なくとも、年内は、輸入木材の価格高騰、そして品不足は続くというのが多くの専門家の見方です。さらに、極端な価格の高騰は収まったとしても、資源の価格は全体的に上がる傾向にあることから、木材の価格も高止まりするのではないか。という見方もあります。
【一戸建てを建てたいと考えている方は、困りますね】
そうですよね。今、住宅については、景気対策の一環で
▼ 住宅ローン減税を受けられる期間が、もともと10年だったところ、一時的に13年間受けられる特例措置や
▼ 太陽光パネルや断熱性の高い壁を使うなど、省エネにつながる住宅を購入したり、リフォームしたりする契約を結んだ場合、一定の要件を満たせば最大100万円分のポイントがもらえる制度があります。が、それぞれ、今年の秋までに契約しなければならないことになっています。今、木造新築の契約がしづらくなっている中、業界の中からは、期限を延長するよう求める声も出始めています。
【でも、日本はそもそも、山が多いですよね。国産の木材に切り替えることはできないのでしょうか?】
はい。日本の国土の3分の2が森林です。
かつては、第二次世界大戦中の軍事需要、そして、戦後の復興需要で、木が伐り倒され、山が荒廃した時期もありました。その結果、木材を輸入する動きが増えました。ですが、その後、植林された木が成長して、今、本格的に利用の適齢期になっています。
▼ ただ、長年、輸入木材に頼ってきたこともあり、林業に従事する人は減って、高齢化も進んでいます。
▼ 木を切って木材を運び出すための林道の整備や、木を乾燥したり加工したりする工場の設備も能力に限界があります。
▼ さらに、住宅の設計も、多くが輸入の木材の特性にあわせた設計になっています。
今、国産の木材も需要が増えていることから、価格が上がってはいます。ですが、だからといって、すぐに生産を増やすことはできません。また、事態が収まればすぐ、輸入木材に戻ってしまい、投資をしても無駄に終わるのではないかと考える事業者が多く、生産を増やす動きにもつながっていないのです。
【国産の木が適齢期になっているのに、利用されないのは、もったいないですね】
国は、今回の事態をきっかけに、大手の住宅メーカーだけでなく、中小の工務店がまとまって、国産の木材を安定して調達する仕組みをつくれないか、取り組みを進めようとしています。
安定した供給が見込めれば、工場の大規模化や林道の整備、伐採の機械化といった動きが進む可能性がありますし、若い人材にとって、林業の魅力が増すことも期待できます。コストが下がれば、消費者にもメリットがあります。
このようにして、適齢期の木を切って、若い木を植えることができれば、森林のよい循環につながります。また、若い木は、育つ段階で、より多くの二酸化炭素を吸収してくれますし、輸入するより運搬のエネルギーもかからないという意味で、地球温暖化対策にもつながります。
課題は多くありますが、今回の木材高騰をきっかけに、消費者、生産者、そして地球環境。様々な面にメリットが出る形で、国産の木の循環につながる。そのような取り組みが進むことを、期待したいと思います。
(今井 純子 解説委員)
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