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「コメ余り!?なぜ?どうする?」(みみより!くらし解説)

佐藤 庸介  解説委員

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全国的に田植えが一段落し、コメ作りのシーズンを迎えています。本来は秋に向けて豊作が期待されるところですが、関係者の表情は複雑です。

それはいま、「コメ余り」が起きているからです。生産者への打撃が懸念される一方で、消費者への影響もどうなのか気になります。

そうした中で、北海道の生産者団体などはあるPR動画を制作しました。

その動画、「ご炊こうチャレンジ」と銘打ったキャンペーンで、マツコ・デラックスさんをはじめ、著名人が北海道のお米のおいしさを訴えています。これを見た人が、少しでもお米の消費アップにつなげたいという狙いです。

◆「コメ余り」どの程度、深刻?

それではどのくらいのコメが余っているのでしょうか。

農林水産省によりますと、ことし4月時点でのコメの民間在庫量は、玄米換算で231万トン。去年の同じ月より1割以上増えて、平成26年以来、6年ぶりに多い水準まで積み上がっています。

この数字、去年の主食用米の生産量と比較すると、3割を超えます。このため、このままでは「コメの価格が値崩れを起こし、経営難に陥る生産者も増えるのではないか」という不安が広がっています。

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◆余った背景には何が

それではどうしてここまで余っているのでしょうか。

余るのは、もちろん、作る量より消費が少なくなっているからです。では、主食用のコメの生産量と消費量の推移を見てみましょう。

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過去15年の推移です。新しいコメが出回る、毎年7月からよくとしの6月を1年として数字をとっています。

生産量は、でこぼこはありますが、減少傾向にあります。
ですが、消費量をみるともっと少ない年が目立ちます。この差が積み重なって、在庫が増えました。

そして、直近の2019年から2020年の消費量に着目すると、大きく落ち込みました。量にして20万トン。ここまでの落ち込みは2012年から2013年にかけて以来です。

この減少は、新型コロナウイルスの感染拡大が影響を及ぼしました。この間、いわゆる「巣ごもり需要」で家庭用の消費は増えましたが、外食を中心に業務用の消費がそれ以上に減りました。

しかし、もう1度、グラフに目をこらすと、消費が減っているのはもっと長期的な傾向です。その理由は、人口の減少、高齢化があるのはもちろんですが、さらに最近の減少は「『中高年世代』の消費激減が影響している」という指摘が出ています。


◆最近の減少は「中高年のコメ離れ」一因

分析では、米類を摂取、つまり食べた量について、2001年の20代の量を100とした指数で比較しました。

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指数をみると、15歳から19歳の層はずっと120くらいで2018年でも125くらいです。20代もだいたい100。いずれも2001年の水準と変わりありません。
若い世代では、牛丼などの外食、コンビニのおにぎりをはじめとした中食でのコメ消費が堅調なことが背景にあるとみられます。

ところが上の世代になると減っていきます。

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一番顕著なのは、60代です。2001年は20代より多かったのに、どんどん減っています。70歳以上も大きく落ち込んでいます。とくに2008年くらいから減少のスピードが加速しているように見えます。


◆コメ離れの原因は「食の多様化」

そのために世代ごとに主な食品、どんな種類をどのくらいとったか、2001年と2018年を比べました。2001年の量が100です。

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20歳から29歳までの世代をみると、米類で100、変わっていません。パンやパスタなどの小麦類はむしろ、減っています。

しかし、60代以上をみると、米類は80程度と、2割減っています。その一方で小麦類が増加。肉類に至っては、60%以上、増えています。

つまり、高齢者がパンや麺、パスタ、さらには肉を多く食べるようになって、その分、コメを食べなくなったと解釈できます。

この分析を行った新潟大学の青柳斉名誉教授は、「正直驚いた。人口が減っているうえに、これまでコメをたくさん食べていた中高年世代が食べなくなって、1人あたりの消費量が少なくなり、コメ消費の落ち込みが加速している」と話していました。


◆「コメ余り」なら値段は安くなっている?

コメが余っているのなら、値段はどうなっているのか、知りたくなります。

農林水産省が調べた、ことし4月のコメの小売価格は、5キロの価格でみると、全国の銘柄の平均で1998円。去年の4月の価格が2082円ですから、確かに安くなってはいますが、1年で率にして4%ほどです。

巣ごもりで家庭用の販売は堅調なこともあり、それほど大きく値段が下がっているわけではないようです。これでは安くなっているという実感はないかもしれません。


◆「コメ余り」解消に向けた対策は

コメ余りを解消するためには、「作る量を抑える」か「消費を増やす」、どちらかが必要になります。

このうち、すぐに消費を増やすのは難しいとみて、作る量を抑えようとしているのが農林水産省です。

コメの価格の暴落を防ぐには、去年、主食用のコメを作付けした水田の5%分、およそ6万7000ヘクタールを、家畜のエサなどの主食用以外のコメや別の作物の生産に切り替えることが必要だとしています。

先月から今月にかけて、主な産地の道や県ごとにオンラインで意見交換会を開いて、「ここが正念場だ」と関係者に強く転換を訴えました。

一方で、本来大事なのは消費を増やすこと。この点について、新潟大学の青柳名誉教授は、中高年世代の消費を回復させることが重要だと指摘しています。

具体的な対策としては、1つ目に中高年のパンの消費が増えていることを受けて、「小麦粉に代わる米粉の需要開拓」、2つ目に健康志向の中高年にニーズがある、「減塩、高栄養など健康に配慮した弁当などの商品の開発」を挙げています。

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実際に和歌山県の米穀メーカーでは、食べやすく加工した玄米の販売が昨年度は30%ほど伸びたということです。
会社の社長は、コメは栄養価が高く「素晴らしい食品だ」として商品開発次第で、さらに増える可能性があると自信を示していました。

コメは主食ですし、国内で米作りを持続させることも大事です。生産を抑えるという方法だけでなく、もっと需要が引っ張る形でコメ余りが解消に向かうことを望みたいと思います。

(札幌放送局 佐藤 庸介 解説委員)

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