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東京五輪・パラ開幕まもなく1か月 選手たちの行動ルールは?

小澤 正修  解説委員

東京オリンピックの開幕まで、まもなく1か月です。オリンピック・パラリンピック開催への不安の声が大きい中で、来日する選手のコロナ対策や行動ルールを定めた「プレーブック」の最新版が公表されました。小澤正修解説委員です。

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【どのくらいの人が来日?】
変異ウイルスの影響もあって感染状況の先行きが不透明で、日常生活の制限が続いています。こうした中、海外から多くの人が来日し、国内の人の動きも大きくなることが予想される大会開催への不安や矛盾を感じている人は多いと思います。

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東京大会全体で選手は1万5千人が参加予定ですが、それを除いて来日する大会関係者の数は、延期前の計画の半数以下に削減されたとはいえ、およそ7万8千人。海外からのメディア関係者だけでもおよそ2万8千人が予定されています。

【選手らの行動ルールを定めた「プレーブック」】

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来日した人たちは、行動ルールを定めた「プレーブック」を守って滞在することが求められます。IOC・国際オリンピック委員会と組織委員会などが専門家からのアドバイスを取り入れて、選手やメディアなど関係者ごとに作成した、コロナ対策のいわば手引書です。2月の初版の発表後、内容の更新作業が続いてきました。今月15日、このうちの選手向けの最新版が公表されました。その内容について、「検査」、「行動管理」、「制裁措置」の3つから、具体的にみていきたいと思います。

【検査:入国後は毎日実施】

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まずは検査について、出国前96時間以内に2回行い、到着後に陰性証明書を提出。入国時の空港でももう1回検査を行います。各選手団などにはコロナ対策の責任者がおかれ、選手は入国した後も毎日、この責任者らのもとで唾液を採取して行う、抗原定量検査を受けることになっています。選手はこれを条件に、初日から限定された場所での練習も認められます。広くスクリーニング検査を行い、これで陽性や、結果が不明確だった場合に、改めてPCR検査が行われます。ただ、厚生労働省のガイドラインでは、唾液を採取する場合に、その直前に飲食や歯磨きなどを行うとウイルスの検出に影響を与える可能性があることが指摘されています。このため最新版のプレーブックでは「30分以上間をあけてから採取する」として、検査までの注意事項についても記載しています。

【行動制限:禁止事項が並ぶ】

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入国後も厳しい行動制限が求められます。選手村の滞在期間はこれまでは各選手団の判断でしたが、今回は滞在に制限が設けられ、競技が終わった2日後までには退村しなければなりません。選手と外部の人たちとを遮断する「バブル方式」が採用され、選手が選手村などの宿泊先から外出できるのは、原則、練習会場と競技会場に限られます。またその間の移動も公共交通機関は使えず、専用の車両を利用することになります。観光地や飲食店、買い物にいくことは禁止。食事は競技会場や選手村など宿泊先のレストラン、または自分の部屋でルームサービスなどを利用することに限られます。

【制裁措置:参加資格のはく奪なども】
ただ、プレーブックはいわば「性善説」に基づいて作成されているだけに、行動ルールの実効性をどう担保するかが問われます。このため最新版では「制裁措置」も盛り込まれました。具体的にはスマートフォンのGPS機能を利用して行動を管理し、組織委員会などにルール違反の情報があれば、その履歴などをもとに事実関係の調査が行われます。とはいえ、GPSによる行動管理はリアルタイムではなく、通報を受けたあとの行動証明であることや、ウェアラブル端末と違って、スマートフォンは常に体に身につけているわけではないことなどから、課題も指摘されています。重大な違反が確認されれば、IOCや組織委員会などが協議の上で、参加資格のはく奪や国外退去、それに制裁金などの厳しい措置をとるとしています。

【選手以外の行動ルールは?】

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選手以外にも同様に入国後14日間は、選手とほぼ同じ形の行動ルールが求められる予定です。関係者ごとのプレーブックは今月中に最新版が出そろう予定ですが、現時点では、入国までの検査は選手と同じ手順で、GPS機能を利用した行動管理が行われ、公共交通機関の利用や観光地・飲食店などの訪問はできません。食事も宿泊先内のレストランなどに限っていますが、ただし、それが難しい場合は、組織委員会が指定したコンビニエンスストアやテイクアウトの店は利用できるとしています。入国後の検査については、3日間は毎日実施し、4日目以降の検査は選手と接触する程度によって、毎日の人、4日ごとの人、7日ごとの人、にわけて実施するとしています。その上で、事前に提出していた行動計画書に基づいて競技会場など限定された場所で、活動が認められます。15日目以降は公共交通機関の利用ができるようになります。組織委員会はメディア関係者の宿泊先をおよそ150か所に集約し、行動管理につなげる狙いです。しかし、来日した人たちの行動管理は人権への配慮もあって完全に行うことは難しいとの指摘もあります。組織委員会では、今後も変異ウイルスなど感染状況をみて選手を含めたプレーブックの内容を変更する可能性があるとしていますが、コロナ禍で開催するのであれば、行動ルールをいかに周知し徹底してもらうかが大切だと思います。

【選手のワクチン接種も進む】

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また、選手をはじめとした大会関係者へのワクチンの接種について、プレーブックでは義務化はしていませんが、強く勧めるとしています。IOCはファイザーなどから提供を受けたワクチンを各国・地域のオリンピック・パラリンピック委員会を通して選手らへの接種を進めています。また南北アメリカの41のオリンピック委員会が加盟するパンアメリカンスポーツ機構も、およそ4000人の選手や関係者にジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンを無償で提供することを決めました。日本もIOCからのワクチンの提供を受け、選手団への接種を開始していますが、ワクチンの提供が4万人ぶんに増え、大会スタッフやボランティア、国内のメディア関係者にも接種の対象を広げることになりました。IOCは選手村に入る選手・関係者のうち80%以上、メディア関係者の70から80%はワクチンを接種予定だとしています。

【感染拡大につなげないことを第一に】
感染拡大を防ぐには、プレーブックを守るだけでは完全ではありません。専門家からは、海外から来日する人が感染拡大に与える影響は限定的で、むしろ、国内での人の動きの抑制が必要だという指摘もあり、政府の分科会の尾身会長も近く提言を出す考えを示しています。組織委員会などは、開催による感染拡大のリスクを少しでも小さくする、あらゆる努力を続けながら、不安や懸念を感じる人たちの声にも耳を傾け、具体的な情報発信を丁寧に繰り返すことが求められると思います。

(小澤 正修 解説委員)


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