6月のNHK世論調査がまとまった。新型コロナウイルスのワクチン接種が進む一方で、東京オリンピック・パラリンピックの開催まで40日を切った。こうした現状を国民がどう感じ、政治にいま何が問われているのだろうか。
【内閣支持/新型コロナ 政府対応の評価】
菅内閣の支持率は6月、「支持する」は5月より2ポイント上がって37%、「支持しない」も2ポイント上がって45%だった。「支持しない」は菅内閣発足以降最も高い一方で、「支持する」は下げ止まり、若干回復してもいる。
また政府の新型コロナへの対応を「大いに」または「ある程度評価する」は38%、「あまり」または「まったく評価しない」は58%。5月に比べて「評価する」が5ポイント増えた。
この背景には新規感染者数が5月から大幅に減ったことが影響しているのではないか。これは菅政権が発足した9月以降の感染者数のグラフだ。世論調査期間中の感染者が1日当たり6000人から7000人前後だった5月と比べ、6月は2000人弱だった。
そしてこの感染者数のグラフに内閣支持率を合わせてみると、2つが連動して推移する傾向にあり、感染者数が増えると、「支持する」は減って、感染者数が減ると「支持する」は増えている。
【ワクチン接種 進捗の評価】
ワクチンの接種が進んでいる。国内の接種回数は13日現在、1回目と2回目あわせて2368万回余りだ。市区町村による接種に加え都道府県などの大規模接種が始まっているほか、企業や大学でも準備が進んでいる。
そこで接種の進み具合は順調だと思うか、それとも遅いと思うか聞いたところ、「順調だ」は24%、「遅い」は65%だった。菅総理は「接種回数が6月末には4000万回を超え、10月から11月にかけて、すべての希望者がワクチン接種を終えるよう取り組むとしている。そのためには政府と自治体が連携し、医療関係者をいかに確保するかがますます重要になる。
【ワクチンパスポート導入の是非/“ワクチン差別”の懸念】
ワクチン接種が進んだ国では経済活動が徐々に再開しているが、世界的に検討が進んでいるのが「ワクチンパスポート」だ。接種を受けたことを記録・証明し、国境を越えた移動などに役立てようというもので、すでに一部の国で活用が始まり日本政府も検討している。
そこでワクチンパスポートの導入について、どう思うか聞いたところ、「国内と海外の両方で使えるものを導入すべき」は56%、「海外でのみ使えるものを導入すべき」は16%、「導入すべきではない」は17%だった。海外への出張や旅行の再開など経済へのプラス効果が期待される一方で、接種を受けない人に不利益が生じ、プライバシーや権利の保護の点から慎重な対応を求める声もあり、今後議論となりそうだ。
そもそもワクチン接種の判断は個人に委ねられているが、接種しない人が差別されたり不利益な扱いを受けたりする懸念を感じるか、感じないか聞いたところ、「大いに」または「ある程度感じる」は55%、「あまり」または「まったく感じない」は40%だった。体調などへの不安からワクチンを打てない人、打ちたくない人もおり、差別などは決して許されないと考える。
【東京五輪・パラ 観客をどうすべきか】
ワクチンの接種と並んで政府のもうひとつの大きな課題が東京オリンピック・パラリンピックだ。公道での聖火リレーや、期間中のパブリックビューイングの中止を決めた自治体も相次いでいる。大会の観客の数について、IOC=国際オリンピック委員会などは6月判断する方針だ。
そこでどのような形で開催すべきだと思うか聞いたところ、「これまでと同様に行う」は3%、「観客の数を制限して行う」は32%、「無観客で行う」は29%、「中止する」は31%だった。
また地域別でみても「東京」は、全国とほぼ同様となった。
結果の背景には紆余曲折を経て開幕が近づきつつあること、そして一時の厳しい感染状況を脱したことが考えられるが、いずれにせよ大会をきっかけに医療体制が再び逼迫する事態だけは絶対に避けなければならない。組織委員会は海外からの選手や大会関係者を外部から隔離し、特に報道陣などはスマートホンのGPS機能を使って行動を管理するなどとしているが、すべての行動を厳格に管理するのは限界もあるという声もある。人の流れが増えることで感染リスクが高まるという懸念は根強くあり、政府分科会の尾身茂会長は「大会を開催するのであればリスクを十分考慮した運営が必要だ」などと繰り返し指摘している。
【大会開催意義などの説明納得度】
東京大会を開催する意義や感染対策について、政府や組織委員会などの説明にどの程度納得しているか聞いたところ、「大いに」または「ある程度納得している」は25%、「あまり」または「まったく納得していない」は68%だった。菅総理は主要7か国首脳会議でも「大きな困難に直面する今だからこそ、世界が団結し、難局を乗り越えていけることを日本から世界に発信したい」と表明した。
国内外から開催に理解を得るためにも、関係者は否定的な意見にもきちんと耳を傾け、説明も尽くしてほしい。
【今の支持政党/「政治とカネ」衆院選で考慮するか】
国会は16日会期末を迎えるが、延長のないまま閉会する運びで、各党は年内の衆院解散・総選挙に向けた準備を徐々に本格化させる。解散の行方をめぐり菅総理は、新型コロナ対策を最優先にワクチンの接種を急ぎつつ、世論の動向も見極めて判断していくことになるだろう。政府与党内には接種が進めば感染者数を抑え、支持率が回復する中で選挙を迎えることができるのではという期待がある一方で、接種が思うように進まず、オリンピックなどをきっかけに感染者数が再び増加に転じれば、世論の批判を招きかねないという懸念もある。また最近も自民議員による相次ぐ「政治とカネ」の問題を次の衆議院選挙で投票の際「考慮する」という人は7割近くに上っている。10月の衆院議員の任期満了までにワクチン接種はどこまで進み、解散のタイミングを菅総理がどう判断するのか。与野党が注視する展開となりそうだ。
(曽我 英弘 解説委員)
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