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「家庭のトラブル 調停をオンラインで!?」(みみより!くらし解説)

山形 晶  解説委員

離婚や遺産相続など、家庭のトラブルを話し合いで解決する裁判所の「調停」で、オンラインで話し合う「ウェブ会議」が試験的に導入されることになりました。
私たちにとってどんなメリットがあるのでしょうか。

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Q:最近はオンラインで会社のウェブ会議に参加する人も多いと思いますが、裁判所でも導入されるのですね。

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A:刑事裁判や民事裁判の本格的なIT化は議論が始まったところですが、裁判所は、「調停」という手続きの一部で、試しにウェブ会議を導入することを決めました。
調停には「民事調停」と「家事調停」がありますが、今回、ウェブ会議が試行されるのは、家庭に関するトラブルを扱う「家事調停」です。
例えば、夫婦の離婚やそれに伴う財産分与とか、遺産を相続する人たちがどうやって分け合うかを話し合う遺産分割などです。
試行という形で、東京・大阪・名古屋・福岡の4か所の家庭裁判所で今年度中に始まる見通しです。

Q:調停というのは裁判所が当事者の間に入って話し合いを進める手続きですね。

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A:はい。裁判は公開の法廷で審理して、裁判官が結論を決めますが、調停は、当事者が裁判所に出向くのは同じですが、非公開で手続きが進み、結論は当事者の話し合いで決まります。
手続きは、当事者が裁判所に「調停を行いたい」と申し立てるところから始まります。
そして通常は、裁判官1人と民間から選ばれた調停委員2人が「調停委員会」というチームを作って話し合いを進めていきます。
調停委員は、弁護士や税理士、会社や団体の役員、地域で活動してきた人など、さまざまな社会経験や知識を持つ人の中から選ばれています。
話し合いは個室で行われ、調停委員が当事者からトラブルについての言い分を聞きます。
裁判官も法的な考え方を説明したりして、当事者が納得できるように、話し合いによる解決を手助けしていきます。
裁判と違って「白黒」をはっきりさせるわけではないので、感情的なしこりが残りにくいというメリットがあります。
裁判と比べると、費用が安く、期間が短いという面もあります。
一方で、裁判とは違って、片方が欠席し続けたり合意に達したりできなければそれで終わりになってしまいますが、合意に達すれば、その内容は書類にまとめられます。
これは裁判の判決と同じ効力を持ち、「強制執行」という形で取り立てを行うこともできます。

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ただ、この時期、調停には難点もあります。
個室での話し合いなので、コロナの感染が心配になるという点です。
今はマスクの着用やパーテーションの設置、換気といった対策が取られていますが、気になる方もいると思います。
そこで「みみよりポイント」です。

Q:「ウェブ会議で感染防止」。こういうメリットもあるのですね。

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A:はい。もともとは裁判手続きのIT化という大きな流れを受けての対応ですが、新型コロナの感染拡大を防ぐという狙いもあります。
調停は、調停委員と当事者がひざを突き合わせて話し合い、密な信頼関係を築いていって、うまく折り合える案をまとめるのが大切なのですが、逆に言えば、感染リスクが高い状況でもあります。
その点、ウェブ会議は、裁判官や調停委員は裁判所にいますが、当事者は自宅などからオンラインで参加できるので、お互いに感染させるリスクを抑えることができます。
調停は平日の日中に行われるので、これまでは裁判所へ出向くためのスケジュールの調整も必要でしたが、自宅などから参加できれば調整しやすくなるし、裁判所から離れた場所に住んでいる人にとっては、より調整しやすくなります。
まだ試行段階なので、案件によってウェブ会議を使うものと使わないものを分けたり、あるいは1つの案件の中でウェブ会議と対面を組み合わせたり、さまざまな形を試しながら、効率的・効果的なやり方を探っていくことになりそうです。

Q:こうしたメリットはリモートワークと同じですね。

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A:はい。そしてもう1つ大きなメリットがあります。
それは、当事者どうしが顔を合わせる機会が減るので、口論になるといったトラブルを防ぎやすくなるという点です。
家事調停は、離婚や遺産相続といった感情的になりやすい案件を扱うので、この点は重要です。
特に、当事者間でDVがあったようなケースは深刻です。
これまでも、裁判所で話をする際は、当事者が顔を合わせないように、別々に対応してきました。
それでも、相手に裁判所で待ち伏せされるのではないかという不安を感じる人は少なくありません。
ウェブ会議であれば、そもそも裁判所へ行かなくてもいいので、その心配はありません。

Q: 顔を合わせる機会が少なくなれば安心ですね。

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A:そうですね。一方で課題もあります。
調停は、トラブルが起きている当事者どうしの話し合いですから、間に立つ調停委員や裁判官がそれぞれの意向をくみながら信頼関係を作っていくことが大切です。
画面越しの会話で、どこまで意思の疎通を図れるかが課題です。
これは一般のウェブ会議とも共通する点かもしれません。

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それと、ルールに違反する行為を防げるかどうか、ということも課題です。
調停はプライバシーが守られなければなりません。法律でも「非公開で行う」と定められています。
第三者に話を聞かれないような場所かどうか、実際に第三者がいないかどうかをどうやって確認するかが課題です。
第三者といっても、弁護士であれば同席できます。
弁護士は、法的な知識を持ち、ルールに基づいて助言するから問題ないのですが、
問題は、弁護士の資格を持たない人です。
資格を持たない人が営利目的で他人の法的な行為に関わることは法律で禁止されています。
ウェブ会議で、画面から見えないように隠れて助言する人物がいないかどうかを確認する方法を考えなければなりません。
そして、もう1つ。
調停委員が当事者の顔を覚える前にウェブ会議をしたら、「なりすまし」の問題も出てくるかもしれません。
こうしたルール違反をどう防ぐのかが課題です。

家事調停は、毎年14万件ほど申し立てられていますが、裁判所としては、一気に全面的に導入するのではなく、まずは一部の地域で試行して課題を検証することにしています。
色々試しながら、私たち利用者のメリットが大きくなるようなやり方を考えていってもらいたいですね。

(山形 晶 解説委員)

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