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「雲仙・普賢岳火砕流から30年~教訓は生かされたか」(みみより!くらし解説)

松本 浩司  解説委員

43人が犠牲になった長崎県の雲仙・普賢岳の大火砕流からきょうで30年になりました。当時、戦後最悪となった噴火災害の教訓は生かされているのでしょうか。

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大火砕流が起きたのは30年前の6月3日でした。

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普賢岳山頂の溶岩ドームが崩れ落ちて火山ガスに石や灰が混じりあった数百度の火砕流が猛烈な速さで流れ下り、ふもとにいた消防団員や住民、撮影をしていた報道関係者など43人が亡くなったり、行方不明になったりしました。その後も住民が長期の避難を強いられるなど火山災害史上、稀にみる大災害でした。

Q)教訓は何だったのでしょうか。

A)ふたつあります。ひとつは「火砕流」の危険性が十分伝わらず、理解されなかったことです。

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「火砕流」の恐ろしさを火山学者はよく知っていましたが、知っているだけに当初はパニックを恐れ警戒呼びかけはとても抑え気味でした。火砕流は繰り返し発生して大きくなり、8日前に強制力はありませんが避難を呼びかけるエリアが設けられました。発生直前には測候所が強く避難を呼びかけたのですが、大きな被害が出てしまいました。

この災害で必要性が強く認識されたのがハザードマップです。火砕流や噴石などの被害が及ぶ範囲を推定した地図ですが、当時は全国で2火山にしかありませんでした。普賢岳では地元から依頼を受け研究機関が急遽、作成したのですが、完成して届けようとしていたとき大火砕流が起きてしまいました。コンピュータシミュレーションで被災した場所は明確に危険だと示されていて、研究機関の砂防・地すべり技術センターの記録には「間に合っていれば人的被害を防げたかもしれない」と無念の思いが記されています。

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この教訓から全国の火山でハザードマップの整備が進められ、2000年の北海道・有珠山の噴火ではハザードマップに基づいて事前に住民の避難が行われひとりの犠牲者も出ませんでした。

Q)いまはハザードマップはどこの火山にもあるのですか。

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A)
全国には防災上重要で気象庁が24時間監視している火山が50あり、住民のいない島の火山ひとつをのぞきハザードマップができています。さらに一歩進めて火山活動のレベルと防災対応を連動させる「噴火警戒レベル」が運用されています。

火山の活動度をレベル1~5で示し、火山周辺の自治体はそれに応じた防災対応を定めています。レベル2では火口周辺の立ち入り禁止、レベル3は入山規制、レベル4以上で麓の居住地域で避難が必要になります。火山活動の変化にすぐ対応できるようにする取り組みです。

Q)防災体制は進んだようですが課題は?

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A)
ひとつが火山周辺の集客施設や高齢者施設などの避難対策です。7年前の御嶽山の噴火災害のあと避難場所やルートなどを決める「避難確保計画」づくりが義務付けられました。しかし施設の指定が済んだ市町村は4分の1、計画を作ったのはその中の4分の3の施設にとどまっていて、国や自治体は計画づくりの支援を急ぐ必要があります。

Q)
雲仙・普賢岳の災害のもうひとつの教訓は?

A)
報道機関の取材のあり方です。

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今年3月、当時、報道陣が撮影ポイントにしていて記者、カメラマンやタクシー運転手などが巻き込まれた「定点」と呼ばれる場所が、災害の遺構として整備されました。掘り起こされた報道陣の車両と石のモニュメントが設置されています。整備をしたのは地元の町内会連絡協議会。遺族を含めた関係者で話し合いを重ね、犠牲者を追悼し噴火災害の教訓を後世に伝えようと整備したものです。

Q)整備するのに30年かかったのはなぜなのでしょうか。

A)
地元の人たちの間では報道陣の取材活動が地元の人たちを巻き込んだという厳しい視線が向けられてきたためです。
亡くなった12人の消防団員は、強制力はありませんが避難を呼びかけられたエリアで活動していました。エリア内にいたのは土石流を監視するのによい場所だったこと、住民に立ち入らないよう呼びかけるため、それに不審者対策のためですが、報道陣がエリア内で取材を続け、一部の民放クルーが無断で民家の電気を使うなどしてその対応のためでもありました。

一方、亡くなった記者やカメラマンたちは会社に命じられてエリア内で取材をしてたもので、NHKを含め報道各社の安全に対する認識の甘さが被害を招きました。

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協議会会長の阿南達也さんは「地元には報道関係者などが亡くなった場所に手を合わせる施設が必要だという思いがずっとありましたが、遺族の中には反感が強い人もいて実現しませんでした。30年が最後のチャンスだと考え整備を決めました。なぜ被害が出てしまったのか、全体像を語り継ぐ遺構にしたいと考えています」と話しています。

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消防団員だった父を亡くし、遺志を継いで消防士になった大町真樹さんは「遺構の整備は災害を後世に伝えるためによいことだと思います。長男が、自分が父を亡くしたときと同じ3歳になりましたが、こどもたちにも語り継いでいきたいと思います」と話しています。

Q)こうした教訓は生かされているのでしょうか?

A)
普賢岳災害から30年になるのを機会に、新聞労連と民間放送の労働組合が、取材をする側の記者、カメラマン、ディレクターなど530人にアンケート調査をしました。

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災害報道の現状についてどう考えるか尋ねたところ、
▼大いに改善の必要があるが37パーセント、
▼ある程度改善の必要があるが52パーセントで9割が改善の必要があると答えました。

改善が必要な報道手法を複数回答でたずねたところ
▼「多くの取材陣が取材対象に集中するメディアスクラムについて継続的なフォロー、つまり対策が十分でない」
▼「『感動的な話』や『絵』になる現場が優先され、必要な情報や被害の実態を必ずしも届けていない」と答えた人が、いずれも6割にのぼりました。

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さらに自由記述では
▼「避難指示が出る中、増水した川沿いの移動を命じられた」
▼「多くの記者が遺族取材に集中するが、必要とされているのは被災地の状況や被災者向け生活情報の取材が手薄になっている」
▼「本質に切り込めていない。安直なもの、美談が多い」
▼「取材者が十分準備をせず被災地入りすることで、コンビニの食料や宿泊先など、本来被災者や救助者に振り向けられるべきリソースを報道機関が使用してしまう」などと多くの課題があげられています。

Q)こうした問題にメディア側はどう取り組んでいるのでしょうか。

A)
アンケートではこうした問題にひとりひとりが悩みながら個人、組織として対策に取り組んでいることも記されていますが、それが十分ではない、続いていないという問題意識が大きいと思います。
NHKもこうした問題が起きないように取材方法について議論を重ね、対策をとってきています。最近では地域ごとに報道機関と専門家、一部行政も参加して災害報道の勉強会が組織されて、取材のあり方も議論されている。報道機関が連携してこの問題に向き合う時期に来ていると思います。

雲仙・普賢岳の大火砕流から30年になりましたが、教訓は決して過去のものではありません。焼け焦げた車と山に向かって手をあわせる遺構の「訴え」に向き合う必要があります。

(松本 浩司 解説委員)

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