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「日銀も実験開始 どうなる?"デジタル円"」(みみより!くらし解説)

櫻井 玲子  解説委員

テーマは「デジタル通貨」です。
日本銀行は今年度から、現金を電子化する、いわゆる「デジタル円」の実験を始めました。
デジタル通貨とはなにか、そして、なぜ、日本でも実験が始まったのか?
背景や課題について、担当は櫻井玲子解説委員です。

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【デジタル通貨とは】
Q 櫻井さん、最近ニュースでも「デジタル通貨」という言葉、よく聞くようになった気がしますけれどでも、デジタル通貨ってそもそも、どういうものなんですか?

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A はい。デジタル通貨というのはおカネを、紙幣や硬貨ではなく、電子データの形で発行するものです。厳密には、「中央銀行デジタル通貨」と呼ばれるもので、民間企業ではなく、国が自らの責任で発行するのが特徴です。

Q 日本だとそれがいわゆる「デジタル円」になるわけですね。そして「現金」と「デジタル通貨」はまったく同じ価値をもつんですね。
A はい。そうです。
人口1600万人のカンボジアでは10月からデジタル通貨「バコン」の運用が始まりました。中央銀行が主導する形での世界初のデジタル通貨で、スマートフォンで瞬時に支払いをしたり、利用者同士の送金を手数料なしで行ったりできます。

Q お財布をもたずに買い物できるのは便利ですが、キャッシュレス決済とか、ビットコインのような暗号資産とはどう違うんですか?

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A  ▼大きな違いは、「いつでも、どこでも、誰でも」使える形になる、という点です。
暗号資産やキャッシュレス決済だと、このお店では使えるけれど、あの店では使えない、とか、使うのに手数料がかかる、といったことがありますが、それがないのがメリットです。
▼また、ビットコインの値段が乱高下したりするのに対して、デジタル通貨は国の信用を反映したものですので、たとえば日本政府に信用があれば、「デジタル円」の価値が急激には変わったりはしないという点も重要です。
「現金を使わずに支払いをできる」という点では、デジタル通貨も、キャッシュレス決済も、暗号資産も、ほとんど同じ、に感じられるかもしれません。
ですが、「便利」なだけでなく、通貨のもつ「信頼性」や「安定性」という観点から、
いっそ各国の中央銀行が発行するデジタル通貨があればいいのではないか?という議論になっているんです。

Q それで日本でも、日銀が「デジタル円」の実験をスタートさせているんですね。

【なぜ今、デジタル通貨を実験するのか】

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A はい。日銀は「現時点で具体的な発行の予定はない」としていますが、その一方で「社会的な要請があればいつでも準備が整っている形にしたい」としています。
一体、どういうことなのか。そしてなぜ、実験を始めたのか、3つ、理由があります。
▼最大の理由は、デジタル化が急速にすすんでいるから、です。

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日銀の神山一成(かみやま・かずしげ)決済機構局長は「スマートフォンなどの普及も著しい中、現金だけが紙のままでもいいのか?紙幣が果たして一番使い勝手のよい支払い手段なのか?といった問いに、日銀もきちんと考え、応える必要がある」と話しています。偽札対策などに悩むほかの国と違って、日本では現金に対する国民の信頼は根強いのですが、一方で、若い人を中心に現金離れが進んでいるのではないか?と言われています。

Q たしかに今は、ICカードやスマートフォンでも支払いができる時代ですものね。

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A ▼2番目の理由は、民間企業の動き、具体的には巨大IT企業の「フェイスブック」が多国籍デジタル通貨を発行しようとした動きです。フェイスブックはその後大幅な計画変更を余儀なくされましたが、「企業が通貨を発行する」という構想自体が、世界的な反響を呼びました。一握りの巨大企業が、「通貨」という「公共財」を独占してもいいのか?という声も高まったんです。

Q たしかに通貨が特定の企業に牛耳られるかもしれないときくと、不安も感じますね。

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A ▼それが3番目の理由にもつながるのですが、最新の調査では、世界の中央銀行の86パーセントが、デジタル通貨を検討中なんです。

Q 86パーセント!意外に多いですね。

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A この中で、特に注目されているのが、中国のデジタル人民元です。
2014年から研究をはじめ、今は地下鉄の駅やファーストフード店が参加した大規模な実験を、大都市を中心に行っています。キャッシュレスの普及や偽札対策が直接のきっかけでしたが、中国がその影響力をほかの国にも行使する手段の一つとしてデジタル人民元を使うのではないか?と警戒する声もあがっています。
来年の北京オリンピックでは、参加する外国人にもデジタル人民元を使ってもらう実験を考えているようです。

Q 中国は、ここまでで、7年、かかっているんですね。
A はい。そして、日本の判断材料の一つにもなる、ほかの先進国の動きですが、
▼ヨーロッパ中央銀行は夏までにデジタルユーロを発行するかを決める予定で、発行に向けて動き出す可能性は高い、とみられています。
▼また北欧のスウェーデンはeクローナを実験中で、先進国では最も早くデジタル通貨の発行に踏み切るかもしれません。
▼そしてアメリカも、中央銀行にあたる連邦準備制度理事会が夏に「デジタルドル」に関するリポートを発表します。

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こうした国々とも連携して、デジタル通貨をどうすべきか、考える時期にきています。

Q なるほど、世界的に動きが活発になっているんですね。それで、日銀は今、どんな実験をしているんですか?
A まずは第一段階として基本的なしくみの検証をしています。複数のコンピューターを使っておカネをデジタルの形で確実に送金したり記録できたりするかをテストしています。

Q 冒頭で、カンボジアのデジタル通貨の映像を見ましたが、日本でもデジタル円を使うことになれば、スマホを使うことになるんでしょうか?
A  その点は今後の検討課題となります。子供からお年寄りの方たちまで簡単に使えるしくみはなにか、スマホだけでなくカードのようなものを使ったほうがいいかなど、色々と、議論はされているようです。

【課題と見通し】
Q 「デジタル円」を発行すべきかどうかを考える上で、今後の課題はなんでしょうか?

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A はい、▼まずは技術的な課題があります。
1億人の国民が、支払いや送金が、正確に、瞬時にできて、それをきちんと記録できるか、です。また、いくら便利だからといっても、国の信用を反映するデジタル通貨が盗まれるようなことがあってはいけませんので、セキュリティを確保できるかどうかが最も大事です。

Q 通貨に対する信頼にかかわりますものね。

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A はい。▼そして制度面の課題としては個人情報をどう守るかが大きなテーマです。おカネがデジタル化されると、おカネがどう使われたか、その流れを追跡することが可能になります。犯罪行為を取り締まることができるメリットの一方で、現金がもっている「匿名性」が失われることに抵抗を感じる方も多いかもしれません。

Q 誰かに勝手にお財布の中身をのぞかれるようなのはイヤかもしれません。
A 現実的な方法としては、最初から、一気に現金をデジタル通貨で置き換えるのではなく、現金とあわせて使っていく。こちらはすでに日銀も、そのような考え方を打ち出しています。また、海外でも検討されている選択肢ですが▼一人あたりの利用金額の上限を決める限定的な運用にする。▼データの活用や閲覧は、本人の承諾や裁判所の許可がないとできなくする。という方法が考えられます。

Q これは、日銀だけでなく、私たち国民も一緒になって考えていく話かもしれないですね。
A そうですね。そしてさらには、デジタル通貨を、「単なる現金のかわり」として使うだけでなく、紙幣や硬貨では実現できなかった新しい機能をつけられないか。日銀が発行するデジタル通貨を土台にして、民間企業がこれまでにない新しいサービスを提供するチャンスにもできないか?といった話も、出ています。
デジタル時代における「通貨」を巡る議論の行方、今後も注目したいと思います。

(櫻井 玲子 解説委員)

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