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コロナ下の皆既月食 新しい楽しみ方は

水野 倫之  解説委員

今年最大の天文ショーとなる皆既月食があす、全国で見られる。
今回は一般の人にとって観測しやすく見応えもあることから早くから注目されていたが、
新型コロナで観測会が中止されるなどの影響も広がっている。水野倫之解説委員の解説。

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皆既月食どのように見えるか。3年前に北海道の知床で撮影された映像を見ると、
月が左からだんだん欠けて暗くなっていき月全体が欠けると…。
赤っぽくなった。赤銅色と言われるが、
皆既の間は神秘的な赤黒い月を見ることができる。
その後月は左下から元に戻り始め、最後はまた満月となって天文ショーの終了となった。

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赤っぽく見えるのは地球の大気が影響。
皆既月食は、太陽と地球そして月が一直線に並んで月が地球の影に完全に隠されて
起こる現象なので暗くなるはずだが地球には大気の層がある。
太陽の光のうち青の成分は散乱されるが赤い成分が大気によって曲げられて
地球の影の部分に回り込んできて月を照らすため真っ暗にはならず、
赤銅色に見えるというわけ。
その赤黒い月、あすは天気さえよければ全国で見ることができる。

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国立天文台によると南東の空に顔を出した月が欠け始めるのは午後6時44分頃。
北海道東北の一部地域や西日本では欠けた状態で上ってくる。
そして欠ける割合が増えて8時9分頃に皆既状態となり19分間継続。
その後月は元に戻り始め、9時52分頃に満月となって終わる。

皆既月食は数年に1度の割合で起きているが、今回は見応えがあり、
子どもや一般の人にとっては観測しやすいということで早くから注目されていた。

まずは満月の中でも見かけの大きさが今年最も大きい、
いわゆるスーパームーンの皆既月食という点。月の軌道は円ではなく楕円形のため地球と月の距離は常に変化。
そして満月のうち1年で見かけ上最も大きく見えるのが「スーパームーン」と呼ばれ、
それが明日。

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月は地球に35万7000キロまで近づき、最も遠い12月の満月と比べると、
見かけの直径は14%大きく、30%明るくなる。

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また今回季節や時間帯がちょうどいい。
5月の夜は寒くも暑くもなく、皆既になる時間も真夜中ではなく、
午後8時台のゴールデンタイムなので、子どもにとっては観測しやすく、
観察会も開きやすい時間帯。
そして皆既が続く時間はおよそ19分。これは天文家にとっては短いかもしれないが、
子どもや一般の人にとってはむしろ長すぎず、
退屈せずに見られるちょうどいい時間と言えるのではないか。
さらに今回高度が低い点だが、南東の空が開けていないと見えないが、
逆に各地のランドマークとの競演も楽しむことができる。

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そして今回はさらに色にも注目したい。
国立天文台によると赤銅色と言っても毎回同じではないという。
大気の状況などによって
オレンジ色に近い色の時もあれば、月の場所がわからないほど暗い場合もあり、
例えば1993年の皆既月食はとても暗かったと言われるが、
その2年前に大噴火したフィリピンのピナツボ火山の噴煙の影響と考えられている。

今回は新型コロナの影響で経済活動が例年ほど活発ではなく、
大気が比較的澄んでいるため明るくなるのではと言われているが、
中国からの黄砂の影響がどうなるかもあり、ぜひ実際に見て確かめてもらえれば。

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こうした多くの特徴があることから今回は早くから注目され、
全国各地で様々観察会が計画されていた。
天文台やプラネタリウムはもちろん、例えば東京では、
東京スカイツリーや超高層ビルの展望階からの観測会や、
羽田空港からチャーター機を飛ばして上空から観測しようというツアーも計画。

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しかし新型コロナの感染拡大が収まらない。
こうした観測会は多くの人が集まることになるので、
特に緊急事態宣言が出されている地域を中心に中止が相次いでいる。
残念だがそのかわり、充実しているのがインターネット中継。
望遠鏡や高感度カメラなどでの撮影はもちろん、
専門家による解説を交えて月食の仕組みやどこに注目したら良いのかなどを
わかりやすく伝えようとしたり、音楽ライブを組み合わせて月食を楽しむなど工夫を凝らしている中継が多くある。
自宅付近が悪天候になってしまった場合に重宝するのはもちろん、生で見られる場合も
スマホ片手にネット中継の解説を聞きながら観測すればより楽しめる。

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さらに今回、このコロナ下だからこそ、
多くの人たちと天文ショーを共有して一体感を味わおうという企画も計画。
その企画、コロナ下で広まったWEB会議システムを使う。
天文ファン向けのWebメディアと望遠鏡メーカー共催の「皆既月食ライブリレー」では、全国から参加者を募り、皆既月食そのものや周りの景色込みの映像を生配信してもらうのに加えて、参加者自身が月食の観測を楽しんでいる様子もアップしてもらうことが計画。

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主催者の一人、天文愛好家の山口千宗さんは
「天体映像だけでなく観測の様子も共有すれば皆で笑顔になれるのではないでしょうか。
一体感を味わいコロナをふき飛ばしたい」とその狙いを話す。

企画の呼びかけに対し、愛好家や小学生、その保護者など全国の100人近くから
参加希望が寄せられた。
この企画、参加しなくてもユーチューブの中継で見ることもできる。

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いよいよ明日だが、やはり気になるのは天気。こちらは民間の気象予報会社が出している観測の可能性を色分けした日本地図。
赤はばっちり、黄色がチャンスあり、灰色は難しい地域。
予報では北日本や東日本は高気圧に覆われて晴れるところが多くなりそう。
九州や四国は梅雨前線の雲もかかり始めるため、難しいかも。
ただ予報は変わるので、あした最新の天気予報をチェックして、
今年最大の天文ショーをネット中継も含めそれぞれの方法で楽しんでもらえれば。

(水野 倫之 解説委員)


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