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「いま注目!LNGで動く船」(みみより!くらし解説)

関口 博之  解説委員

7000台の車を一度に運べる大型自動車運搬船。
この船、これまでの重油の代わりにLNG=液化天然ガスで航行しています。
新しい「LNGで動く船」を取り上げます。

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(岩)
LNGで動く船がなぜいま、注目されているんですか?

(関)
ずばり温暖化対策、CO2・二酸化炭素の削減につながる船だからだ。
LNGを燃やした時に出るCO2は石炭の6割、化石燃料では一番少ないので、船の燃料もこれにシフトし始めている。

(岩)
それって「LNG船」ではないんですか?

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(関)
ふつうLNG船と呼ぶのはLNGを運ぶタンカー。
こうした丸いタンクが特徴。ただエンジンを動かすのは重油。
一方、重油ではなくLNGを燃料にするのがLNG燃料船というわけ。
そのLNG燃料船が、今月発表の「シップ・オブ・ザ・イヤー2020」に選ばれた。
この賞、日本船舶海洋工学会が最新技術や新しいコンセプトを盛り込んだ船を毎年選んでいるもの。

それがこの船、「SAKURA LEADER」だ。
初めて国内の造船所で作られたLNG燃料船で、去年10月に竣工した。
新来島どっくで建造され、日本郵船が運航している。
全長およそ200メートル、幅38メートル、乗用車なら7000台を運べる。

(岩)
見るからに巨大で、なんか四角い船ですね。

(関)
自動車運搬船特有の形だ。
ここでまず、最初のポイント。この船のCO2の排出量は、LNG燃料にしたことで、従来の重油に比べ実に43%削減できたという。

(岩)
それは効果大ですね。

(関)
さらに硫黄酸化物は99%、窒素酸化物も86%削減できていて、まさに環境にやさしい船。
船の後ろには「LNG powered」=LNGで動いていると書いてある。

(岩)
LNG燃料船、国内初ということだが、世界ではどうなっているの?

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(関)
ヨーロッパが先行している。2000年にはノルウェーでフェリーが登場し、その後、2010年代後半から大型のコンテナ船やクルーズ船も出てきた。
すでに世界では120隻以上が就航している。
残念ながら日本は出遅れていた。
それなりに建造費がかかることもあったかもしれない。
そのため今回の船「SAKURA LEADER」には船主(ふなぬし)と造船所、それに船舶機器メーカーなどがオールジャパン体制で取り組んだ。

(岩)
まさに船でもCO2削減が欠かせないというわけですね。
考えてみれば、食糧にしても衣類や工業製品でも輸出や輸入で運んでいるのは船ですからね。

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(関)
そう。「脱炭素社会」の姿を、たとえば車を例に考えてみると、単に車をEV・電気自動車にすればいいわけではない。
確かに使う段階でのCO2削減にはなるが、それで十分ではない。

鉄など材料を作るところから、車の製造・組み立て、完成車を運ぶ物流、それぞれの段階で出るCO2も削減していかないといけない。

(岩)
LNG燃料船もそのための一歩なんですね。

(関)
その通り。
ところでちょっと脇道にそれるが、「SAKURA LEADER」にはこんな工夫もある。

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この写真見て、わかります?

(岩)
自動車運搬船の中ですよね。2色になっていますが、なぜだろう?

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(関)
これ「赤」が、運搬船の偶数階のデッキに行くスロープで、「緑」は奇数階のデッキに登るスロープと、塗分けられているのだ。
今まで積み込まれる車は1階から2階、3階と順に登っていたが、2つのルートに分けることで、車の積み下ろしの荷役(にやく)時間が10%短縮できたそうだ。

(岩)
環境面だけでなく、そんなところにも効率化のアイデアが盛り込まれているんですね。

(関)
はい。さて本題にもどって、次は二つ目のポイント、「LNGで動く船には大事な“相棒”がいる!」だ。
それがバンカリング船なのだ。

(岩)
バンカリング船?

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(関)
船に燃料のLNGを供給する船のこと。
こちらが日本初のバンカリング船、「かぐや」。川崎重工業が建造し、実はこの船も今回「シップ・オブ・ザ・イヤー」の部門賞に選ばれた。

画面の大きな船はさっき紹介した「SAKURA LEADER」それに「かぐや」が横付けして、給油ならぬLNG注入をしているところ。
こう見ると「かぐや」が小さく見えるが、3500立方メートルの大型タンクを積んでいる。
巨大自動車運搬船の燃料タンクを一回で満杯にできる量だ。
この「かぐや」は三河湾、伊勢湾の港で活動することになっている。

(岩)
この2隻が今年の賞を「ペア受賞」したわけですね。

(関)
そう。

(岩)
それにしても、なぜ船から船なんですか?

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(関)
LNGの供給の仕方としては、3つの方法がある。
一つは、タンクローリーからいれる方法だが、これには何十台ものローリーが必要だ。
LNG基地のタンクから入れるやり方なら、大量に入れられるが、船をわざわざその基地に入港させないといけないし、接岸の場所や、専用の設備も作らなければならない。
その点、事前に基地でLNGを積み込んだバンカリング船を使えば、船が荷物の積み下ろしをしている間に燃料補給が済む。
これが最大のメリットだ。

(岩)
だから大事な“相棒”なわけですね。

(関)
バンカリング船が増えれば、LNG燃料船も増やせるわけで、バンカリング船は、まさに重要なインフラだ。
LNGの燃料供給の体制ができれば、日本の港の国際競争力を上げることにもなる。

(岩)
なるほど。
ただ脱炭素という点からいえば、LNGもやはりCO2は出る、ゼロにはなりませんよね。

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(関)
それがきょう最後のポイント。
「LNG燃料船はいわば“つなぎ役”の技術」なのだ。

これまでの重油燃料の船をまずLNGの船に置き換えていく、そして将来はさらにCO2を出さないゼロエミッション船に替えていく、こういう長期戦略になる。

(岩)
CO2を出さない船というと?

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(関)
例えば水素やアンモニアを燃料にする船が考えられている。
水素やアンモニアは燃やしてもCO2を出ないクリーンエネルギー。
でも、例えば再生可能エネルギーから作った電気を使って水素を作ろうとすると、今はまだコストが高くつく。
どう安く水素を作るか、さらに水素のためのインフラも作る必要がある。
国土交通省では、「2028年以降に実現」というのを水素・アンモニア船の一つの目標に置いているが、実用化には、まだまだ課題が多いのも事実だ。
となると、2030年代から40年代にかけては、しばらくはLNG燃料船が現実的な答というわけ。

なので、例えば日本郵船は、今後10年につくる約40隻の新しい自動車運搬船は全てLNG燃料船にする計画だという。
このLNGで動く船が、日本の海運業にとっても、造船業にとっても大事なテクノロジーになるということが分かって頂けると思う。

(関口 博之 解説委員)

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