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「苦境の博物館 コロナに負けるな!」(みみより!くらし解説)

高橋 俊雄  解説委員

5月18日は「国際博物館の日」です。博物館の国際的な組織が、博物館が社会に果たす役割について広くアピールしようと定めた日で、国内の施設でも毎年、無料公開などが行われていますが、去年に続いて今年もコロナ禍でこの日を迎えました。

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【コロナ禍で深刻な状況に】

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緊急事態宣言が延長された東京の博物館や美術館は、開館か休館かで混乱も見られました。
東京国立博物館など都内にある国立の5つの施設は、いったんは再開を発表したものの、都からの要請を受けた文化庁の方針で休館を続けています。ほかの地域でも、緊急事態宣言の範囲の拡大などにともなって博物館や美術館の休館が相次ぎ、開いている所でもイベントの中止などさまざまな影響が出ています。
各地の博物館や美術館がコロナ禍ですでに深刻な状況にあることを、数字で見てみたいと思います。
日本博物館協会がことし2月から3月にかけて行った緊急アンケート調査の結果です。全国の497館が回答を寄せました。

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去年1年間の開館日数の平均は238日で、前の年の289日から18%減少しました。
一方、入館者数は平均で6万2097人となり、前の年(14万9772人)から59%
減少。さらに、有料の407施設の去年1年間の入館料収入は平均3526万円で、前の年(7933万円)と比べると56%減少していました。
休んだ日数以上に入館者が減り、収入減をもたらしているという結果となり、再開したあとも客足が戻っていないことがうかがえます。日本博物館協会は「このまま経営が成り立たない状況が続けば、博物館の役割自体が損なわれ、機能しなくなるリスクもある」と話しています。

【欠かせないファンからの支援】
特に入館料収入に頼る割合の高い私立の博物館や美術館にとって、館の運営を続けるためには、ファンからの幅広い支援が欠かせなくなっています。埼玉県東松山市にある「原爆の図 丸木美術館」は、その一例です。
この美術館は、画家の丸木位里と俊の夫妻が原爆投下直後の広島の惨状などを描いた連作の絵画「原爆の図」など、戦争をテーマとした作品を展示しています。
去年、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、4月9日から2か月におよぶ休館を余儀なくされました。館の運営には年間2500万円ほどが必要ですが、収入の大きな柱である入館料が休館中はなくなってしまいました。
そこで、ウェブサイト上で緊急支援を呼びかけたところ、2か月間に国内外から4986件、合わせて6800万円を超える寄付が寄せられ、2年分の運営経費がまかなえる見通しとなりました。
ただ、コロナの影響が今後どうなるかは不透明です。館は去年12月、持続的な運営のために「マンスリーサポーター」の制度を新たに設けました。毎月、決まった額を引き落とす形で継続した支援を募るというもので、これまでに200人近くが登録しているということです。

【公立の博物館も】
自治体からの予算がある公立の博物館や美術館も、ファンを増やすための取り組みが必要です。

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みずほ総合研究所がまとめた、地方自治体が博物館にかけている公費を博物館の数で割った博物館1館あたりの金額の推移を見てみますと、2015年度にはおよそ2590万円と、ピーク時の3分の1以下になっています。さらにこのあと、コロナ禍によって自治体の予算措置がいっそう厳しくなることは容易に予想されます。

【小さな博物館でもここまでできる】
ではどうすればよいのか。公立の小さな博物館が進めている取り組みに、ヒントを探ってみます。
岐阜県飛騨市の飛騨みやがわ考古民俗館。収蔵・展示されているのは、雪深いこの地域の人々の暮らしを伝える「かんじき」や「そり」などの民俗資料と、発掘調査で見つかった考古学の資料です。
中でも全国有数の数を誇るのが、縄文時代の「石棒」です。博物館のすぐ近くの遺跡で1074点が確認され、この地域で生産が行われていたことが明らかになりました。祈りをささげる儀式に使うために作っていたと考えられています。
博物館は、市の中心部から車で40分ほどの山間にあります。冬は雪に閉ざされるうえ、地元の人にお願いしている管理人のなり手が足りず、年間30日しか開館しません。その貴重な開館日のうち、昨年度はコロナ禍で、半分以上の16日を休館せざるをえませんでした。
そこで休館中の去年5月に開いたのが、オンラインツアーです。展示資料や学芸員による解説の様子をタブレットで撮影しながら紹介。ふだんは関係者しか入ることができない収蔵庫の様子もオンラインで公開しました。
取り組みは、その後も続きます。

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去年7月には小中学生向けのオンラインのクイズ大会を開催。
8月にはSNSで「石棒キャッチコピー」を募集。300件以上の投稿があり、最優秀の作品はポスターで使われました。

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さらに11月には現地とオンラインを組み合わせて7つのイベントを開催。ほかの博物館と連携した「石棒総選挙」や、誰でも参加できる石棒の撮影会などを行いました。
こうした取り組みは博物館が単独で行っているのではなく、ファンクラブとも言える「石棒クラブ」というグループとともに企画・実現させています。
撮影した石棒の画像は、SNSでおおむね1日に1点のペースで公開しています。出土した石棒は1000本を超えていますので、撮影・公開ともにまだ途中の段階で、このあとも博物館とファンの共同作業が続けられることになります。
飛騨市教育委員会の担当学芸員、三好清超さんは、「オンラインツアーなどで博物館の魅力を知ったら、本物が見たくなるはずだ」として、こうした取り組みを、来館者の増加につなげたい考えです。

【地域が抱える課題解決に貢献】
とはいえ、この博物館の開館は5月16日でいったん終了。次に開くのは8月なので、来館者はどうしても限られてしまいます。また、入館無料なので、収入に結びつくわけではありません。

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そこで三好さんが博物館のもう1つの役目として強調するのが、「飛騨市の関係人口の増加につなげる」という点です。
飛騨市は少子高齢化が急速に進み、現在およそ2万3000人の人口が、2045年には1万3000人になると予測されています。こうした中で市が重視しているのが、市の外に住んでいながら農作業や古民家の改築の手伝いなどを通じて地域と関わる「関係人口」を増やすことです。
石棒の撮影会は博物館に足を運んで館の情報発信を手伝うので、まさにこの取り組みの1つと言えます。三好さんは、市が抱える課題の解決に向けて博物館も貢献することで館自体を存続させ、ひいては収蔵資料を適切に管理して、今後も見てもらえる環境を守っていきたいと考えています。

博物館や美術館の大切な社会的役割は、後世に伝えるべき資料を集めて保存し、それを公開することです。コロナ禍の厳しい状況のなか、これらを少しでも確実に続けていけるよう、知恵を絞ってさまざまな取り組みを進めていくことが、今こそ求められていると思います。

(高橋 俊雄 解説委員)

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