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「デジタル法成立 くらしはどう変わる?」(みみより!くらし解説)

権藤 敏範  解説委員

デジタル庁の創設を柱とするデジタル改革関連法が12日に成立しました。これを契機に、遅れているとされる日本のデジタル化は進展するのでしょうか。

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現金10万円の一律給付では支給が滞り、雇用調整助成金の申請システムでも混乱がありました。今も高齢者のワクチン接種の予約をめぐって各地でトラブルが相次いでいます。
こうした事態を受けて国は行政のデジタル化を一気に進めようとしています。目標は、あらゆる行政手続きをスマートフォンだけでも60秒以内に行えるようにすることです。

【デジタル化でくらしが便利に⁉】
ただ、すぐに出来るものもあれば、時間がかかるものもあります。

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早いものでは、▽ことし9月から多くの行政手続きで押印の義務が廃止されます。結婚や離婚の際の押印も必要なくなりますが、「人生の節目だからハンコを押したい」という声などを受けて希望する人には引き続き認めることになりました。
また、▽ほかの自治体に引っ越す場合は、転入と転出の際にそれぞれの自治体の窓口に出向く必要がありますが、このうち転出届はマイナンバーカードを使ってオンラインで提出できるようになります。政府は来年度中の運用開始を目指しています。
さらに、▽マイナンバーカードの機能をスマートフォンに搭載できるようになるため、保育所の入所申請などの手続きがスマートフォンだけで行えるようになります。これも早くても来年度になりそうです。

【マイナンバーの扱い変更】
今回の法律ではマイナンバーの扱いそのものも変わります。

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これまで税、社会保障、災害対策の3分野でしか使えなかったマイナンバーが、給付金の支給作業にも使えるようになります。
そこで政府はマイナンバーを使って申請なしで給付金を支給する支援を初めて行います。コロナ対策では、住民税が非課税のふたり親世帯を対象に子ども1人あたり5万円の給付金が新たに支給されます。この際に本人からの申請がなくてもマイナンバーで課税情報を確認して、児童手当などを受け取っている口座があれば、直接支給します。早ければ来月にも一部の自治体で始まる見通しです。
また希望すればマイナンバーと金融機関の口座をひも付けることができるようになります。ひも付けることで、例えば、▽給付金などを速やかに受け取る事ができるようになりますし、▽相続で、亡くなった人の口座が分からないという場合にも確認できるようになります。

【デジタル庁の創設】
こうしたマイナンバーを使った政策を担うようになるのが、ことし9月に発足するデジタル庁です。

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総理大臣をトップに500人ほどの組織になります。国や自治体はそれぞれ個別にシステムを開発してきたため仕様がバラバラですが、デジタル庁が国の情報システムを一元的に管理し自治体のシステムの共通化に向けて整備していくことになります。こうしたシステムの統一で、政府は維持管理費などの大幅なコストの削減が期待されるとしています。
ただ、課題もあります。デジタルに詳しい優秀な民間人材を集められるかということです。

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デジタル庁の2割にあたる100人以上は民間から登用する方針で、すでに35人の非常勤職員が採用されました。ただ、待遇面では、民間人材の給与は年収で700万円から千数百万円程度で、通常の国家公務員より高い水準ですが民間の外資系企業などには及びません。また、海外では、政府でIT技術を扱った経験が民間でも高く評価されますが、日本では、官庁と民間を行き来しながらキャリアアップを図れる環境が整っていないという指摘もあります。
一方で、兼業も認められていますので、特定の民間企業との癒着を招かないようにどのように「距離感」を保つのかも課題となります。

【個人データの民間ビジネス活用】
政府には行政手続きのデジタル化とともにもう1つの狙いがあります。

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それが個人情報のデータを新たな民間のビジネスに活用することです。国や自治体が持つ膨大なデータを、例えば、医薬品の開発や商品のマーケティングに活用できるのではないかということです。

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このため国と地方自治体、民間で分かれていた個人情報保護のルールを国のつくる共通ルールに統一します。
個人情報保護のルールは全国の自治体が国に先駆けて取り組んできたため、それぞれ独自に条例があります。しかし、それがデータの利活用では「壁」になっているとして、個人情報保護のルールを統一することでデータをより提供しやすくなるという考えなのです。もちろん個人情報は個人が特定できないように匿名加工します。

【個人情報保護は?】
ただ、ここで問題になるのがそれだけで十分なのかということです。
国会でも、防衛省が民間に提供できるデータとして、アメリカ軍横田基地をめぐる訴訟の原告団の匿名加工情報をあげていたことが問題になり、国は対象から外すことにしました。
また、人種や思想、病歴などの「要配慮個人情報」については多くの自治体が原則として収集を禁止していましたが、専門家からは、「国のルールはより緩やかになるので個人情報保護が後退する」と懸念の声も出ています。
さらに、行政に情報が集まりやすくなり「監視社会」につながりかねないとか、情報を一元的に管理すれば漏洩の危険性が高まるのではないかという指摘も出ています。

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個人情報を適正に取り扱っているかどうかを、どう監視・監督していくのかも大きな課題です。

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これまでは、国は総務省、自治体は自治体自ら、民間は政府の個人情報保護委員会がそれぞれ監督してきましたが、これからは個人情報保護委員会がすべての情報を監督する仕組みになります。ただ、委員会の今の体制はおよそ150人。政府は体制を強化することにしていますが十分な機能が果たせるのか疑念の声も出ています。

【まとめ】

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9月にスタートするデジタル庁は、これまで見てきたように、まさに走りながら対応していくことになります。もちろん、デジタル機器の扱いに不慣れな人や高齢者や障害者らが取り残されることがあってはなりません。
新型コロナ対策に厳しい目が注がれる中、デジタル庁が、国民の利便性の向上と個人情報保護の両立という難しい課題にどのように取り組んでいくのか注目です。

(権藤 敏範 解説委員)

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