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ここが変わる!土地の相続に新ルール

山形 晶  解説委員

私たちが土地や建物を相続した場合、法務局で登記をすることが義務化されるなど、相続に関する手続きの一部が大きく変わります。
なぜ制度が変わるのか。そしてどう変わるのか。私たちが注意すべき点も含めてお伝えします。

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【何が変わる?】
私たちにとって一番影響が大きいのは、「この土地や建物の所有者は私です」ということを法務局に申請して公に示す「登記」が、相続と住所を変更した場合については義務化されることです。

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私たちが親などから土地や建物を相続したことを知ってから3年以内に申請しなければ、行政上の罰として10万円以下の「過料」が科されます。
これとあわせて、登記に記されている自分の住所が変わった場合の変更の申請も義務化されます。
これは住所変更から2年以内に申請しないと5万円以下の過料になります。
先月、関連する法律が公布されて、相続登記は2024年、住所変更は2026年までに施行され、義務化されます。

【なぜ罰則が?】
ある土地を誰かが利用したいと思って法務局で登記の情報を確認しても、所有者がわからない、あるいは住所がわからなくて連絡が取れない、という土地が増えていて、土地の利用に支障が出ているからです。
こうした土地は年々増えていて、国土交通省などの調査では、今や国内の土地の2割にのぼっています。

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例えば事業者が商業施設や宅地を造成したいと思っている場所に所有者不明の土地があると、買い取りの交渉ができないので、開発が進みません。
さらに、災害対策にも影響が出ています。
住宅地の近くで土砂崩れが起きて対策工事が必要な場合でも、その場所に所有者不明の土地があると、危険な状態がいつまでも続くことになります。

【なぜ増える?所有者不明の土地】
人口が都市部に集中したり、高齢化が進んだりして、地方を中心に、土地を所有したり活用したりしたい、というニーズが減っているからです。
典型的なケースは、地方に住む親の土地です。
子どもが都市部に移り住んで生活の基盤が出来上がっていれば、親が亡くなっても、登記をしないままになることがあります。
本来なら登記は「自分の土地だ」ということをアピールするための手続きですが、特に欲しいわけでもない土地を相続すると、その意欲がわきません。
そうすると、登記上は親が所有者のままですが、実際は複数の人に相続されていて、所有者不明の土地ということになってしまいます。
これが原因の3分の2を占めています。
また、住所が変わるたびに登記の内容を変更するのが手間だということで変更せず、連絡が取れなくなる場合も少なくありません。
これが残りの3分の1を占めていて、この2つの原因を解消したいというのが今回の改正の狙いです。

【私たちの負担軽減は?】
ただし、「正当な理由」があれば義務が猶予されることもあります。

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例えば、相続の対象になる人が多くて時間がかるとか、自分が重い病気になってしまった場合などです。
DVの被害を受けていて、登記をすると相手に住所が知られてしまう場合も猶予されます。
ここで、「みみよりポイント」。
今後、金銭的な負担を減らすことも検討される見通しです。
土地の登記をする時には「登録免許税」という税金を納めなければなりません。
土地の資産価値にもよりますが、数万円ほどかかりますし、司法書士に登記を頼めば、別途、報酬も必要です。
そこで、法務省は、来年度の税制改正で登録免許税の軽減策を盛り込むよう財務省などに要望することにしています。
国会での付帯決議にも盛り込まれましたので、税制改正の議論の中で軽減策が検討される見通しです。
そしてもう1つ、負担の軽減策があります。

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売れる見込みのない土地を相続した場合でも、国に引き取ってもらえる「相続土地の国庫帰属」という制度が設けられました。
例えば、遺産相続を放棄したいわけではないけれど、売れる見込みがない土地は手放したい、という場合に使えます。
ただ、国に引き取ってもらうには、いくつかの要件があります。
建物がある場合は「さら地」にするとか、土壌が汚染されていないとか、敷地の中に急な崖が含まれないとか、権利関係に争いがないとか、「管理や処分に費用や労力がかからない」ことが必要とされます。
なぜ要件があるのか。
管理にかかる費用は税金で賄われるので、むやみに利用されるのを防ぎたいという考えがあるからです。
さらに、要件を満たした場合でも、土地を手放す人が国に対して一定の負担金を納める必要があります。
その額は、「土地管理費用の10年分」と定められていて、例えば、市街地の200平方メートルの宅地だと80万円ほどと試算されています。

【「国庫帰属制度」利用は進むのか?】
実はこの制度が固まる前、何らかの形で土地の所有権を放棄できる制度の導入が検討されていた時に、法務省がインターネットを通じて、土地を所有している人たちに調査を行いました。

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「土地の所有権を放棄する制度ができたら利用しますか?」と尋ねたところ、「利用したい」という世帯は全体のおよそ20%でした。
この時すでに、さきほど挙げた「さら地にする」といった要件とほぼ同じものが考えられていましたが、その要件を満たす人は4%あまりでした。
回答者全体で見ると、わずか0.95%です。
この制度は2年以内に始まることになっていますが、どれだけ利用されるのかわからないので、国は、運用状況を見ながら、制度開始から5年後に見直しを検討することになっています。

【所有者不明の土地問題 これで解決?】
登記が義務化されたといっても、結局は、私たちが実行していかなければ意味がありません。
利便性の低い土地は、「負け」の動産と書いて「負動産」と呼ばれるような時代ですから、義務や罰則を強調すると、かえって混乱を招くことになるかもしれません。
私たちが登記をしようと思うような負担の軽減策や要件の緩和をこれからも考えていってもらいたいと思います。
そして私たちも、日頃から相続について考えておく必要があります。
遺言を準備したり相続について話し合いをしたりして、遺産相続がきちんと行われるようにして、その上で、正しく登記をする必要があります。
引っ越すたびに登記の住所を変更するのも手間ではありますが、忘れないうちに済ませて、所有者不明の土地が増えないようにしたいですね。

(山形 晶 解説委員)


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