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「変わる避難情報~いち早い避難のために」(みみより!くらし解説)

松本 浩司  解説委員

沖縄地方と奄美地方が梅雨入りしましたが、今年から大雨のとき住民に避難を呼びかける情報が大きく変わることになりました。

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【避難指示への一本化】
Q)何が変わるのか?

A)
ふたつあります。ひとつは「住民への避難の呼びかけ方」が大きく変わります。
もうひとつは「線状降水帯」の情報が新たに出るようになります。

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自治体が住民に避難を呼びかける情報は、これまで「避難指示」と「避難勧告」がありました。このうち「避難勧告」を廃止して、「避難指示」に一本化します。6月中には運用が始まります。

Q)なぜいま一本化するのですか?

A)
「避難指示」と「避難勧告」ができたのは60年前です。見直しは初めてです。
一本化のきっかけが、おととし始まった防災情報の5段階のレベル化です。

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大雨のときさまざまな防災情報が出されます。雨の降り方そのもの、川の氾濫や土砂災害の危険性を示す情報、そして避難の呼びかけ。技術が進んでいろいろな情報が出せるようになったのですが、多くなりすぎて重みがわかりにくいという問題が出てきました。そこで災害の切迫度を5段階に分けて、ひとつひとつの情報をそこに位置付けて整理することにしたのです。

数字が多くなるほど切迫度が高くなり、レベル4は危険な場所にいるすべての人が避難をする情報です。このレベル4に「避難指示」と「避難勧告」が入っていました。「避難指示」は「避難勧告」より一層強く避難を促す情報ですが、レベル4にふたつあるのは紛らわしいという声が自治体などから強まりました。

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そこで、あらためてアンケートをすると2つの意味を正しく理解している人は18パーセント足らず。そこで思い切って「避難勧告」をなくして「避難指示」に一本化することになったのです。

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これまで「避難勧告」が出されていたタイミングで「避難指示」が出され、ハザードマップの危険な場所=土砂災害の警戒区域や浸水が想定される区域などにいる人は全員避難が必要になります。

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あわせてレベル3は「避難準備・高齢者等避難開始」という長い名前ですが、シンプルに
「高齢者等避難」に変わります。高齢者や体の不自由な人など移動に時間のかかる人は避難を始める段階です。

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さらにレベル5は従来の名称、「災害発生情報」では「取るべき行動がわかりにくい」として「緊急安全確保」に変わります。災害が発生しているか、切迫している状況で発表されます。
ただ必ず発表されるわけではありません。レベル4までの段階で避難を終えることが重要です。もし「緊急安全確保」の情報が出たときにまだ避難をしていなかったら、建物の2階以上やがけの反対側の部屋など少しでも安全な場所に移動して身を守ることが求められます。

【線状降水帯の新情報】

この梅雨時期から変わる情報、もうひとつが「線状降水帯」の新情報です。

Q)毎年、大雨のときに「線状降水帯」という言葉をよく聞くようになりました。

A)あらためてどういう現象か説明。

線状降水帯による最近の被害の例が去年7月の熊本県の豪雨災害です。
球磨川が氾濫するなど65人が死亡し、2人が行方不明になりました。
平成27年の関東・東北豪雨や3年前の西日本豪雨など毎年のように発生し、大きな被害をもたらしています。

熊本豪雨のときの雨雲レーダー画面。熊本県の球磨川流域の東西に細長い地域に、赤色の強い雨雲がかかり続けました。これが線状降水帯です。

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大量の湿った空気が同じ場所に流れ込んで次々に積乱雲が発生。それが上空の強い風に流されて移動し、同じ地域に激しい雨を継続して降らせるのです。

Q)どんな情報が出るようになるのですか?

いまの技術では線状降水帯の発生を事前に予測することはできません。
気象庁は線状降水帯による大雨が確認されたら直ちに発表することにしました。

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基準は
▼3時間の降水量が100ミリ以上の地域の面積が500平方キロメートル以上で、
▼幅に対して長さが2.5倍以上など。

基準を超えたら「顕著な大雨に関する情報」という新しい情報を発表し、「線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続き、災害発生の危険性が急激に高まっている」と呼びかけます。
同時にレーダー画面などに発生場所を楕円で示します。こちらも6月中には運用が始まります。

Q)この情報が出たらどうしたらよいのでしょうか?

A)

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さきほどの警戒レベルにあてはめると、この情報はレベル4以上の状況になっているときに出されます。すでにその地域は避難が必要になっていて、さらに状況が悪化していることを示す情報です。

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どういうタイミングで発表されるのかを考えるために、去年の熊本豪雨の例にあてはめてみます。
▼レベル4にあたる土砂災害警戒情報と避難勧告が出たのが前夜10時前後。
▼レベル5の大雨特別警報が出たのが翌朝5時前で、球磨川が氾濫したのが6時頃でした。もしこのとき線状降水帯の情報があったとしたら、発生したという情報は、その間の午前2時半頃に出ることが想定されます。

これは一例ですが、線状降水帯発生の情報が出たときは、すでにレベル4か5になっている。危険な場所にいる人はそれまでに避難を終えている必要がある。

もしまだ危険な場所にいたら、安全に避難できるなら避難。そうでなければ、レベル5の対応と同じ、2階以上にあがったり、山の斜面から離れるなど命を守る最善の行動をとる必要があります。

Q)警戒レベルや「避難指示」への1本化は情報を整理してわかりやすくするのが目的。
新しい情報は必要なのでしょうか?

A)
この情報の新設をめぐっては気象庁が設けた専門家の検討会でも「情報を増やす必要があるのか」という意見が出て議論になりました。しかし毎年のように線状降水帯が発生して、大きな被害につながっています。発生を確認したら、事態がさらに悪化したことを知ってもらうために伝えることになりました。

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また内閣府や気象庁の検討会では防災情報がひんぱんに変わることへの懸念も指摘されました。「避難指示」への一本化や「線状降水帯」に関する新たな情報は大きな変更になるので、国や自治体は住民にていねいに説明をして、訓練などを通じて理解を深めてもらう必要があります。

【まとめ】
毎年、豪雨で大きな被害が出ていて、災害が発生する雨の時期も早まる傾向がみられています。住民の側も、大雨のときどういう情報が出るのか、どのタイミングでどこへ避難をするのかなどいまから確認をしておいてほしいと思います。

(松本 浩司 解説委員)

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