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「東京五輪開幕まで3か月 開催への課題は?」(みみより!くらし解説)

小澤 正修  解説委員

東京オリンピックの開幕まで3か月を切りました。新型コロナウイルスの感染状況の先行きが不透明な中、開幕までの時間が少なくなっています。開催実現への課題について、小澤正修解説委員です。

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【厳しい感染状況と迫る開幕】

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開幕まで3か月を切っても、いまだに厳しい感染状況が続いています。変異ウイルスの影響もあって、東京などに3回目の緊急事態宣言が出され、まん延防止等重点措置の期間を延長したところもあります。3月にスタートした聖火リレーも大阪府や愛媛県松山市では公道での実施が中止され、公園内を走ったり、セレモニーだけを行ったり、という形に変更されました。オリンピック本番に向けても、感染状況が見通せないこともあって、依然、開催実現に否定的な声は根強く、課題が残されたまま、7月23日の開会式が近づいてきています。組織委員会や政府などは28日に5者会談を行って、課題解消へ話し合いを行う予定です。

【課題①観客の上限は】
開催実現への課題はたくさんありますが、今回は次の3つをみていきたいと思います。

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「観客数の上限」、「代表選手の選考」、そして「感染対策」です。

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まずは、観客数の上限をどうするか。海外からの観客は、3月に受け入れを断念することを決め、国内在住の人を対象とした観客数の上限について、4月中に方向性を示したいとしていました。しかし、その後も、改めて緊急事態宣言が出されるなど、感染状況の先行きが見えず、決断は先送りされる見通しです。感染状況に加えて、観客数の上限が大会の収支に与える影響が大きいことも、決断の難しさの背景として指摘されています。チケット収入はスポンサー収入と並ぶ組織委員会の財源の柱で、コロナ禍の前は900憶円が予定されていました。開催都市契約に基づけば組織委員会が赤字になった場合、東京都、さらには政府がその赤字ぶんを負担する可能性も出てきます。緊急事態宣言が解除されていた時期は、国内のスポーツイベントで制限を設けながらも観客を入れて実施していたこともあり、結論を出すにはもう少し時間が欲しい、という声もあるのです。組織委員会の武藤事務総長は「最終判断は場合によっては6月ということもあり得る」としています。

【無観客となる可能性もある?】

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無観客となれば、人の動きは少しでも抑えられますし、医療体制の一定程度の縮小も可能だと思います。ただ、無観客は、大会の収支だけではなく、観客からの応援が力になるというアスリートや、多くの人が集うことがベースになっているオリンピックの理念にも影響を与えます。ですので、無観客はできれば避けたいというのが大会関係者の本音だとは思います。しかしワクチンの接種が進まない中、コロナ禍での開催実現を目指すのであれば、完全な形は求められません。具体的、かつ効果的な対策が多くはない中で、残された時間を考えると、多くの人の納得を得るためには無観客は選択肢としてあり得るのではないかと思います。無観客を含めた観客数の上限は大会運営の根幹にかかわるもので、特に医療従事者への影響は大きく、少しでも早く方向性を示してほしいと思います。

【課題②代表選考は】

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国際大会の相次ぐ中止などの影響で、この1年、代表選考は思うように進まず、33競技およそ600人の日本代表のうち、ことし1月の時点では、内定を得た選手は20%程度でした。各国・地域の状況ははっきりとはわからないのですが、日本代表の選考に関しては、ここにきてようやく本格化してきています。今月行われた競泳の日本選手権では32人が代表に内定し、白血病から競技に復帰した池江璃花子選手が4種目で優勝する驚異的な成績で、リレーのメンバーとしてオリンピック代表に内定しました。オリンピック開幕まで100日の時点では、およそ30%が内定。今後も6月に陸上の日本選手権が予定されるなど、オリンピック本番までコロナ禍での代表選考は急ピッチで進められることになっています。

【選考は少しずつ進むが・・・】

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ただ、競技によっては、オリンピックに出場する権利を得るために予選としての国際大会を経なければならないものもあります。例えばボクシングでは世界最終予選が6月にパリで行われる予定でしたが、感染拡大の影響で中止になり、急遽、IOC・国際オリンピック委員会の特別チームが設けたランキングに基づいて決める方法に変更されました。このランキングは2017年以降に出場した国際大会の成績などが反映されることから、まだ実績が少ない若手選手には厳しいものとなり、日本でもオリンピック代表になることが極めて難しくなった選手も出ています。また、世界的な感染拡大の中、オーストラリアが5月に東京で行われる飛び込みのオリンピック予選への選手の派遣を取りやめました。オーストラリアの連盟は「現時点では公正で安全な予選の実施は不可能だというのが私たちの立場だ」としています。コロナ禍で完全な形での大会運営が目指せないのはやむを得ないのですが、選手にとっては公平性にかけているのではないかと、割り切れない気持ちも出ているように思います。

【課題③感染対策】

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続いて、その選手たちの感染対策をみていきます。組織委員会とIOCなどが策定する、選手らのコロナ対策をまとめた「プレーブック」の改定版が28日に公表される見込みです。プレーブックでは「バブル」という概念を取り入れて、入国から出国に至るまで、選手らを「泡」の中に置くようなイメージで、滞在場所を選手村や競技会場に限定し、専用の車両で移動することを原則としています。さらに追加の対策として、出国前96時間以内に2回と、入国時の空港でPCR検査や抗原検査を行い、入国後は原則として毎日検査を実施することなどが検討されています。ただ、ことし行われたテニスの全豪オープンでは、コロナ対策のためチャーター機が使われましたが、機内で検査を受けた人の中から陽性者が確認され、同じ便に乗っていた選手ら全体が隔離されるケースも出るなど、対策の難しさも明らかになっています。現時点では東京大会に選手を派遣しないと非公式も含めて明らかにしているのは、北朝鮮以外はありませんが、こうしてコロナ禍での大会開催で起きたことをプレーブックにどう反映させていくのか、今後も検討が続けられていく予定です。

【多くの人の納得を!】
感染状況がすべてなので、状況によっては今後、開催実現への道のりがより厳しくなる可能性はもちろんあると思います。刻々と変わる感染状況にあわせて対策を模索し続けていくのは非常に困難な作業です。しかし、東京大会への逆風が吹く中で開催実現を目指すのであれば、「安全安心」という言葉だけでなく、多くの人が納得できる対策・方法を提示する努力を続けなければならないと思います。

(小澤 正修 解説委員)

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