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「何のため? 『こども庁』」(みみより!くらし解説)

藤野 優子  解説委員

子どもに関わる政策を担当する国の省庁をまとめ、司令塔として「こども庁」を新たに設置しようという議論が自民党内で始まっています。なぜ今、この議論が始まったのか、そして課題は何か、藤野解説委員です。

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【どうして、急に「こども庁」をつくろうという話が出てきたのか?】
これは、自民党内の若手の国会議員がまとめた提言を受けて、菅総理大臣が検討を指示したものだが、実は以前から、国の子どもに関わる施策はいくつもの省にまたがっていて、子どもの育ちの環境の改善や子育て支援のための対策の総合調整がしっかりできてない、縦割り行政だと指摘されてきたことがあるのです。

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子どもの施策の担当は、
保健、福祉、保育などを担うのが厚生労働省             
教育は文部科学省
貧困や自殺への対策、少子化対策などを担当するのは内閣府となっています。

特に、深刻な社会問題になっている虐待や貧困の対応も分かれている。

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虐待に対応する児童相談所は厚生労働省。貧困やDV・ドメスティックバイオレンスの問題は内閣府。
貧困や虐待などの兆候を早く察知するためには、文部科学省が担当する学校などとの連携も不可欠になります。警察庁や法務省の介入も必要になるケースもあります。虐待などでは迅速な対応が求められるケースも相次いでいますが、関係機関の間の情報共有や連携が不十分で、最悪の事態になってしまう事案も出ています。

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このため、こうした問題を含めて、様々な子どもに関わる政策を包括的に進める司令塔として、「こども庁」を新たに設置して総合的な調整役にしてはどうか、と自民党内の検討が始まったわけです。

【どんな組織に?論点は?】
こども庁がどんな組織の形になるはまだ見えてきていません。

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論点は、対象となる子どもの年齢をどう考えるか。切れ目のない対策をと考えると、できるだけ年齢層は広い方がいいと思いますが、難しいのは教育部門です。幼児教育から高等教育まで幅広いので、これをどこまで統合するのかが難しい課題なんです。
自民党は、今年6月にも方針をまとめて次の衆議院選挙の公約に盛り込みたいとしていますが、拙速で選挙目当てではないかという批判が出ていて、関係する省の抵抗も強くて、具体案をまとめるのは時間がかかるのではないかとの見方も出ています。

【子どものための対策は進むのか】
これは、今後の議論をよく見ておく必要があります。
ポイントは、▼こども庁をつくることでどんな対策が強化されるのか、▼実現のための財源をどう確保するのか、▼子どもの政策を重視するなら、職員配置も増やす必要も出てくるかもしれません。そうなれば、役所の肥大化にならないようスクラップする部署も検討が必要になります。また、児童相談所など専門人材の育成をどうするかという問題もあります。
司令塔を作って子どものための対策をもっと進めようという狙いは良いと思うが、もし組織を変えるだけで終わってしまえば、屋上屋を重ねるだけで、新たな縦割りを生むことにつながりかねないと思います。

【今、どんな対策の強化が必要なのか】
子どもが直面している課題は山積みです。虐待対策、地域に応じた待機児童対策、子ども達からのSOSを受け付ける窓口の一本化、性犯罪から子どもを守るための仕組みづくり、教育格差の問題などたくさんありますが、やはり様々な問題との関連が深い貧困対策がまずは重要だと思います。

【大阪 箕面市の貧困対策~すべての子どもを見守るシステム】
そこで、担当部署を再編して、対策の強化に取り組んだ大阪・箕面市の例をみていきたいと思います。

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ここは15年ほど前から段階的に教育委員会と福祉部門を統合しました。
最初は、子育て支援の窓口のワンストップ化を進めましたが、
その後は子どもの貧困の連鎖を食い止めるための対策を最重要課題に掲げました。
中でも政策の柱は、市内の0歳から18歳までの子ども、およそ2万7000人の成長を継続して見守るシステムの整備なんです。

これまで部署ごとに分散・管理していた子どもや家庭に関する情報、例えば、学校での給食費の補助を受けているかどうか、乳幼児健診の時に寄せられた相談内容、子どもの学力や体力、非課税世帯かどうかなどの情報を、個人情報保護条例を改正して、「こども」ごとに集約してデータベース化し、心配な子どもを判定するシステムを整備、市内のすべての子どもたちを見守っています。
そして、限られた人数の専任の職員がコントロールタワーとなって、学校の先生などと連絡を取り合いながら、子どもの生活状況に心配な点がないかを確認し、支援が必要な場合は、必要最低限の情報だけを共有して、支援につなげているのです。また、すでに支援を受けている子どもの状況も変化がないかフォローを続けています。

例えば、父子家庭のお子さんで不登校気味の中学生がいて、どうも最近父親が入院して生活が苦しくなっているようだ、と学校から相談を受け、専任の職員がデータを調べると、継続した見守りが必要な家庭だとわかったそうです。それで困窮世帯を支援する窓口につなぎ、生活保護の手続きをしたケースもあったそうです。

子どもへの支援、深刻になってからの事後対応が多いんです。
この箕面市のシステムは、深刻な状態に陥る前に、支援が必要な子どもをいち早く見つけ、確実に支援を届けようという狙いなんです。

そして、学校との連携も進みました。やはり学校は保護者と連絡を取り合う場面が多くあります。ここでは、学校と福祉の部門が接点を持つ回数が増える中で、子どもたちの色んな情報が入ってきて相談や支援につなげることができるようになったそうです。

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ただ、課題もあります。高校生になると、市の外の学校に通うお子さんが増えて、情報が少なくなり、市だけでは対応できないということです。
ここは、国が先導して、都道府県と連携して中学校卒業後の子どもたちもフォローできるようにしてほしいし、継続して支援を続けていくためにも財政支援をしてほしいと話していました。

この箕面市の例は貧困対策の一つの例だが、この他にも、子どもたちを支えるために必要な対策はまだまだ多くあります。少子化も進んでいます。
子どものために今何が必要で、組織を変えることで何が良くなるのか。実現のための財源案も示して、子どもや子育て家庭の視点にたった改革につなげてほしいと思います。

(藤野 優子 解説委員)

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