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「星出船長に期待!」(みみより!くらし解説)【取材後記あり】

水野 倫之  解説委員

宇宙飛行士の星出彰彦さんが、あす、国際宇宙ステーションでの半年間の長期滞在に向けて打ち上げに臨む。今回の最大の注目点は星出さんがステーションのコマンダー・船長を務めること。水野倫之解説委員の解説。

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星出さんはすでに発射場があるアメリカフロリダ州のケネディ宇宙センターに移動し、
ウイルス感染などしないよう隔離された状態。
星出飛行士はJAXAでロケット開発に携わったあと宇宙飛行士に選ばれ、
今回が3回目の宇宙飛行。
今回星出さんがつとめる船長はステーションの現場の最高責任者で、
ミッション期間中7人の飛行士の中から1人任命。
ただ誰もがなれるわけではなく、リーダーシップや危機管理能力が求められ、
今、世界にいるおよそ100人の現役の飛行士の中でも船長を担うことができるのは一握りで、
いわば宇宙飛行士の代表。
その代表に日本人としては7年前の若田飛行士に続いて星出飛行士が今回任命。

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役割は大きく2つあって。
まずクルー全員の健康状態や作業状況を把握し、
船内の実験や宇宙ステーションの運用がスムーズに進むよう全体を調整する。
例えばある飛行士が疲れているようであればその作業量を減らし、
別の飛行士に負担してもらうなど作業計画の変更を地上の管制官に提案して調整します。

Q:もう一つの役割は?

A:緊急事態への対応で、実はこれが最も重要な役割です。
ステーションからの空気漏れや火災が発生すれば、
消火活動を指揮し、飛行士を避難させるなどして全員の安全を確保。地上と連絡がとれない場合は、「地球に戻るかどうか」という難しい判断も求められ、
飛行士全員の命を預かることに。
ステーション全体の複雑なシステムに関する知識や、
予測不能な状況にも臨機応変に対応できる危機管理能力、経験が求められる。

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そのため宇宙ステーションの船長、これまで51人が就任しているがそのほとんどは
米露の宇宙大国の飛行士、中でも危機管理を専門としてきた軍出身者が多く務めてきた。

そうした中、星出さんが船長になれたのは星出さんの能力と、日本の有人宇宙活動が実績を積み重ね信頼が高まってきたことこの2つがポイント。

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まず星出さん、各国の飛行士の間では‘気配りの人’として有名で、
訓練で雰囲気が悪くなった時にもウィットに富んだことを言って笑いを取るなどして
チームをまとめるのがうまく、信頼が厚い。
また技術面では‘船外活動のスペシャリスト’として知られる。
前回の長期滞在中3回船外活動をしているが、時間内にきっちり難しい作業をやりとげ、
NASAで船外活動の教官の認定を受け、新人飛行士の訓練を指導するほど。

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そして日本も、実験棟きぼうを安定して運用し、
飛行士の宇宙滞在日数も米露に次いで世界3位。
また物資の輸送も9回連続で成功させるなど実績を積み重ね。
各国から重要なパートナーと認められ、
ステーションの指揮権をゆだねてもいいと評価された、その証と言える。

その証拠に船長2人目を出すのは米露以外では日本が初。
日本はこの先アメリカが主導する月探査に参加し、
日本人が月面で活動することを目指すが、星出さんの船長就任はこの月探査に向けても追い風になると見られる。

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船長としての役割以外には無重力を利用した基礎的な実験や小型衛星の放出など様々予定されるが、私が最も注目したいのが、尿からの水の再生実験。
宇宙では水は超高級品だから。

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地上の水道水であればコップ1杯分は1円もないが、
宇宙で飲む水は以前はそのほとんどを地上からロケットで運んでいた。その輸送費から計算するとコップ1杯でも30~40万円。
そこでNASAは飛行士の尿や汗を集めて蒸留ろ過することで飲み水を再生する装置を開発し、10年前から宇宙ステーションに設置。
実際飛行士たちは自分たちの尿などから再生された水も飲んで生活。

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ただこの再生装置にも様々な課題が。
▽大きさも冷蔵庫2つ分もあって場所をとる、
▽水への再生率も当初計画より低く70%程度にとどまっている
▽尿に含まれるカルシウムがフィルターにつまって定期的に交換しなければならず
手間がかかる。
今後より遠くの月などでの利用を考えると、もっと小さく高性能なものが必要。
そこでJAXAが大手メーカーと共同で、月探査時代も見据えた水再生システムを開発中。
特徴は小型で、再生率も高く、しかもメンテナンスフリー。
NASAの装置とは仕組みが違い、
▽まず樹脂で尿の中のカルシウムやマグネシウムを除去し
▽電気分解で発生させた酸素で有機物を分解
▽さらに水質を調整する過程で出てくる副産物で樹脂を洗うため、交換の必要がしばらくない。

地上試験では再生率は85%を超え、
3年間はメンテナンスフリーで使える見通しが立っているという。
ただ無重力の宇宙できちんとシステムが機能するかどうか確認する必要があり、
今回模擬の尿と実際に飛行士の尿を使って本格的に実験を行う計画。

ただターゲットは何も宇宙だけではない。
ここでみみより情報。

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宇宙の技術が地上でも役立つかもしれない。
この水再生装置は省エネ性能も高く太陽電池で稼働させることが出来ると言うことで、
開発に参加したメーカーでは、将来的には水が不足しがちな地上の災害現場の避難所などで
飲料水を供給することを目指している。

そしてもう一つ今回のミッションで注目されるのは日本人2人の同時滞在。
現在野口聡一飛行と星出さん、1週間程度同居することになる。軌道上で日本人が協力して任務にあたることもありそうで、2人そろっての軌道上で記者会見も予定される。
まずは22日午後7時11分の星出飛行士の打ち上げに注目。

 (水野 倫之 解説委員)


■取材後記

星出さんは宇宙飛行士になる前は若田飛行士の補佐役を務めていて、当時若田飛行士の取材をしていた私は星出さんと何度も連絡をとっていました。その時から宇宙飛行士に対する並々ならぬ意欲を感じていましたが、その予想通り宇宙飛行士に選ばれ、いよいよ今回コマンダーを務めることになり、今回のミッションは個人的にも特に注目しています。打ち上げ前の取材に対し、「安全に、そして楽しくやっていきたい」と抱負を語っていた星出さん、月探査など次につながる活躍を期待します。

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