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「子どものスポーツ 早生まれって不利なの?」(みみより!くらし解説)

小澤 正修  解説委員

新年度がスタートし「スポーツ頑張るぞ」、とはりきっているお子さんも多いと思います。しかし、早生まれの子どもは同級生より体が小さかったり、思うようにプレーできなかったりして、不利だと感じるという声も聞かれます。実際はどうなのでしょうか?小澤正修解説委員です。

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【早生まれの松山選手が快挙】

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早生まれは、1月1日から4月1日生まれのことを指します。成長期の小学生や中学生にとって同級生との1年近い差は大きく、もちろん個人差はありますが、スポーツには不利だと言われることがあります。しかし、その「早生まれ」からプロになったゴルファーが歴史的な快挙を成し遂げました。2月25日が誕生日の松山英樹選手。ゴルフの4つの海外メジャー大会のひとつ、マスターズ・トーナメントで日本選手初優勝を果たしたのです。マスターズには、世界各地のツアーの賞金ランキング上位など限られた選手しか招待されませんので、出場するだけでも大変名誉な大会なのですが、松山選手は10回目の挑戦での快挙達成でした。松山選手の誕生日が注目されることはあまりありませんが、私は、スポーツで思うような結果が出ず、悩んでいる「早生まれ」の子どもには、勇気を与えたのではないかと思います。

【実際に早生まれはどうなのか?】

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プロ野球選手の生まれ月を調べたデータをみてみます。12球団に在籍したプロ野球選手およそ2200人を調べたところ、4月から6月に生まれた選手が34%と最も多かったのに対し、1月から3月の生まれはその半分にも満たない15%でした。プロ野球選手の実に3分の2近くが、年度の前半に生まれた選手だったのです。また1月から3月生まれの選手は小学生で23%なのですが、高校生では18%にまで低下してしまいます。トップ選手の生まれた月を調べてみると、野球だけでなく、サッカーやバレーボール、バスケットボールなど他のスポーツでも同じような結果が出ているそうです。

【こうしたデータが出る背景は】

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ではここで、みみよりポイントです。「スポーツの能力と何月に生まれたかは、関係がない」。当たり前のことですが、早生まれの子どもでも時間が経てば体格は同級生に追いつき、技術も向上します。ではなぜ、先ほどのようなデータが出るのでしょうか。スポーツ科学で子どもの発育と発達を専門とする東京農業大学の勝亦陽一准教授は、考えられることのひとつとして「大人の評価と選手起用の方法、そこから生じる子供自身の勘違いという環境の要因」をあげています。

【環境による好循環と悪循環】

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例えば野球では身長が1センチ伸びるとボールを投げるスピードも1キロ速くなるとされています。するとチームの指導者は、4月から6月に生まれたりして成長が早く、体格や技術が目立つ子どもを試合に優先的に起用し、ピッチャーなどを任せたいと考えます。大人から評価された子どもはやる気がアップして練習に取り組み、さらに上達してチームを引っ張るリーダーにもなっていく、そして上のレベルでも競技を続けていきます。その逆に、早生まれなどで同級生に比べて体格も技術もまだ成熟していない子どもは、試合への出場機会が限られ、要のポジションも任せてもらえない、すると劣等感を覚えて競技が楽しくない、やる気があがらず上達もしにくい、最後は競技をやめてしまう、という流れになっているのではないか、というのです。体の成長がピークを迎えるのは、一般的に高校生以降だと言われています。生まれた月も判断材料に、まずは簡単にあきらめないことが大切だと思います。

【早生まれにも大きな可能性】

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早生まれの子どもが夢を感じることができるデータもあります。プロ野球選手の生まれ月の中で、どのくらいの選手がタイトルを獲得したのか、調べたデータです。プロ野球で大成した選手の割合とも言い換えられると思います。すると、4月から6月生まれのプロ野球選手のうち、タイトルを獲得したのは8%だったのに対し、1月から3月生まれの選手では14%と、その割合が大きくなっています。こうした中には大リーグでも活躍したヤクルトの青木宣親選手や巨人で通算173勝をあげた桑田真澄さんもいます。桑田さんは高校1年生でいきなり夏の甲子園優勝を経験しましたが、4月1日生まれで、誕生日があと1日遅ければ優勝した時はまだ中学生でした。

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オリンピックで金メダルを獲得した日本選手も、実は早生まれが多く、モントリオールオリンピックの柔道無差別で金メダルを獲得した上村春樹さんは2月14日生まれ。「運動は苦手だったが負けず嫌いでどうしたら勝てるのか必死に考えた。そして、ただ技をかけにいくのではなく、相手の重心をどうコントロールするかがカギだと気づいた」と振り返ります。もちろん本人の性格もありますし、早生まれの子どもが必ず選手として成功するというわけではありません。ですが、勝亦准教授は「早生まれの子どもは自分ができないことに気づいて、できるようになるための工夫をすることが多いのではないか。なので、好きな競技を継続し、適切な努力をしていけば“逆転”する可能性も高いと思う」と指摘しています。

【大切な指導者の役割】

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なにより大切なのは、指導者のあり方だと思います。スポーツは競争がベースにあり、「うまい選手」が試合に出ることが公平につながるという考え方もあります。しかしその一方で、早生まれの子どもへの対処の仕方は、指導者が何を目指しているのか、ということにもかかわります。スポーツに「勝利」という価値観は欠かせないものですが、小学生からプロに至るすべてで「勝利」が最終目標ではなく、本来は年代別に、そして選手1人1人に求めるものが違うはずです。特に子どものスポーツでは、「今の姿」にだけ着目するのではなく、その成長の度合いも考慮して、起用方法も含めた指導をすることが必要なのではないかと思います。機会の均等を前提に、子どもが競技や上達を楽しんで、好きなスポーツをあきらめることなく自信を持って続けていけるような指導をして欲しいと思います。

【早生まれは不利、と思いこまずに!】
スポーツと早生まれの関係をみていくと、スポーツをするのはなぜなのか、ということにもつながります。子ども本人も自分が好きなこと、やりたいことをあきらめずにチャレンジしてほしいですし、家族も、指導者もあせらずに、子どもを支えてあげてほしいと思います。

(小澤 正修 解説委員)

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