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「国宝『鳥獣戯画』のすべて 初の一挙公開」(みみより!くらし解説)

名越 章浩  解説委員

日本が世界に誇る絵巻物、国宝「鳥獣戯画」。
平安時代から鎌倉時代に制作された全4巻が、4月13日から東京国立博物館で初めて一挙に公開されます。
謎の多い絵巻物でもある鳥獣戯画の魅力を、入門編として名越章浩解説委員が解説します。

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【鳥獣戯画とは】

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水遊びをするウサギとサル。楽しそうに笑い合うカエルとウサギなど、擬人化した動物などが有名な「鳥獣戯画」は、今から800年ほど前の平安時代の終わりから鎌倉時代の初め頃にかけて段階的に描かれたと考えられている絵巻物です。

京都のお寺「高山寺」に伝わり、昭和27年に国宝に指定されました。
鳥獣戯画に限らず、絵巻は一定の大きさの紙を何枚も糊でつないで横長の巻物になっています。鳥獣戯画は、甲乙丙丁の合計4つの絵巻に分かれています。1つが10メートル前後の長い絵巻物で、4巻合計するとおよそ44メートルという長大な国宝です。

これまでも4巻揃う展示はありました。しかし、様々な事情で一部が見られないなど限定的な展示方法だったのです。今回は、4巻がすべて開いた状態で見られるということで、これは展示会史上、初めてのことなのです。
しかも、4巻それぞれ趣が異なる絵巻物になっているので、それを見比べられます。

【趣の異なる4巻】
では、どのように違うのでしょうか。

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まずは、皆さんおなじみの甲巻。
カエル、ウサギ、サルなど11種の動物たちが登場し、まるで人間のように生き生きと動き回る様子が描かれています。じっくり見ると、ネコやネズミも確認できます。

一方、乙巻。
16種の動物が描かれていますが、甲巻とは異なり、擬人化されず、動物そのままの姿で描かれています。
例えるならば動物図鑑のような絵巻です。ただ、中には「龍」や「獅子」なども描かれています。

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次に、丙巻。絵巻の前半に初めて人間が登場します。
後半は人間のように遊んでいる動物たちが描かれています。

そして、最後の丁巻。今度はまた人間が描かれています。
絵のタッチがほかと違うような感じがしませんか?

実は、最初の甲巻も、前半と後半で描き方が違うなど、ほかの巻もそれぞれ微妙に違っています。

【謎の多い鳥獣戯画】
では、誰が描いたのでしょうか。

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平安時代の天台宗の僧で、絵心のある鳥羽僧正が描いたのではないか、と伝えられてきたのですが、筆致が異なったり、紙の質が違ったり、年代にも幅があったりしているので、今では、複数の人によって描かれたと考えられています。
鳥獣戯画は、誰が何のために描いたのか、今もわかっていないのです。
東京国立博物館の土屋貴裕 絵画・彫刻室長によりますと、4巻合計で少なくとも5人以上が関わっていると考えられるという事です。
今回の展示は一挙公開なので、展示会場に行けば、それを見比べられるということです。

【「断簡」に注目すれば鳥獣戯画がより面白くなる】
そのうえで、私が注目しているのが「断簡」です。

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絵巻物は、紙を何枚も貼り合わせたものです。このため、長い時代を経る中で、つなぎ目が弱まってバラバラになってしまったり、茶室に「掛軸」として飾るために人為的に切り取られたりすることも、一般的にはあります。
その掛軸などに生まれ変わったものを「断簡」といいまして、別の作品として後の世に伝わるものですから、もともと、どの絵巻物の一場面だったのか、分からなくなってしまった作品も少なくないのです。
この「断簡」が、鳥獣戯画にもあります。
甲巻に4点、丁巻に1点、あわせて5点の断簡が確認されています。
その断簡も含め、今回の展示では全て公開されます。

そこで、「みみよりポイント」。
「断簡が、どの部分から切り取られたのかを知れば、もともと描かれた当時の姿が蘇ってきます!」

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甲巻から分かれた断簡の1つを例に説明しましょう。
現在は、掛け軸になっています。動物たちが祭礼の行列をしている様子が描かれているようですね。
この画の左端に黒い点々があって、これがポイントです。

次に、甲巻の別の部分の画を見てみましょう(画像の下の写真)
右と左の紙が貼り合わされていますが、左側の紙に描かれた画には、点々があります。
この点々は、風でほころぶ萩の花を表現していたんです。つまり2つはもともと繋がっていたのです。

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実際、鳥獣戯画の修復・調査の際に、紙の繊維や大きさなども一致することが判明したことから、この断簡は、鳥獣戯画と一連のものだと認められ、平成29年に国の重要文化財に指定されています。

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そして、もう1つ、注目して欲しいのは、紙のつなぎ目にある朱色のもの。
現在、国宝に指定されている4巻のそれぞれの紙のつなぎ目には、この「高山寺」の朱印がおされているんですが、先ほどの断簡にはありません。
つまり、朱印がおされる前、描きあげられた後の比較的早い時期に分断されたものと考えられているのです。
何百年も経過する中、断簡が現存することによって昔の姿が想像できるというわけです。

このほか鳥獣戯画には、現在の形になる以前に模写された「模本」も複数残されていて、その模本も今回、すべて展示されます。

【展示会は4月13日から】
展示会は4月13日から5月30日まで東京国立博物館で公開されます。
ただ、混雑緩和のため、チケットは予約が必要です。詳しくは、公式ホームページをご覧ください。

そして、会場まで観に行けないという人にも「みみより!」な話があります。
4月11日(日曜日)、まだ誰も見ていない会場の様子を、NHKのBS8KとEテレの番組「日曜美術館」で生中継することになっています。
1時間番組として、じっくりご覧いただけると思います。

鳥獣戯画が描かれはじめた平安時代の末期は、貴族と武士が対立し、都で衝突や混乱が続いた時代です。
鳥獣戯画が生まれた理由は、今でも分かりませんが、思わずクスッと笑ってしまう場面の数々からは、苦しい時代を少しでも楽しく生きようと思わせる不思議な力を感じるのは、私だけでは無いのではないでしょうか。この画を通して少しでも多くの方に癒しを感じてほしいと思います。

(名越 章浩 解説委員)

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