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「どう考える? 広がる 価格変動制」(みみより!くらし解説)

今井 純子  解説委員

鉄道やタクシーなどで、曜日や時間帯などによって料金を変える価格変動制の導入に向けた動きが広がっています。今井解説委員。

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【飛行機の航空券やホテルの宿泊料金は、年末年始が高いなど、「いつ利用するのか」「いつ買うか」で、料金が違いますよね?価格変動制というのは、そのことですか?】
そうです。飛行機やホテルは、すでに多くが価格変動制になっています。改めて、この価格変動制を一言で言うと、モノやサービスの「需要が多い場合」は、価格を高く設定し、「需要が少ない場合」は、価格を下げる仕組みです。最近は、「ダイナミックプライシング」という言葉も使われます。

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ただ、実際の仕組みについては、単純なものから、複雑なものまで、幅広いものがあります。例えば、さきほど話に出た飛行機は、ざっと、真ん中くらいというところでしょうか。
▼ 季節や時間帯。それから、利用日から何日前に買うか。によって、チケットの料金は違いますよね。基本的には、早く買った方が安く買えますが、路線によっては、直前に空席があった場合、満席をめざすために安くするケースもあります。

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【それが真ん中。では、単純な仕組みのものは?】
例えば、東京ディズニーランドと東京ディズニーシー。3月に価格変動制を導入しました。それまで、例えば、1日券の大人用といえば、8200円でした。それが、土日、祝日、長期の休み期間など、混雑が予想される時期については、休日料金として8700円になりました。

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【変動といっても、休日料金を値上げする形で、価格は2種類なのですね】
初めてなので、とりあえずは、お客さんにわかりやすく2種類にして、今後、効果などを検証していくということです。

【複雑なものは?】
例えば、最近、導入が広がっているプロ野球のチケットの例ですが、概ね
▼ 前の方の席は高く、後ろの方の席は安く。
▼ 通路に面した席は高く、通路から離れるほど安く。となっています。

【隣の席でも、価格が違うのですね】
そうですね。その上、同じ席でも、
▼ 対戦相手(人気チームとの試合だと、価格が上がります)や
▼ 試合の日程(休日やキャンペーンの対象試合だと、価格が上がります)
▼ チームの成績(この試合に勝つとトップに躍り出るといった試合になると、価格が上がる)
▼ それだけでなく、誰が出るか(人気のある選手が先発ピッチャーとわかると、その段階から価格が上がる。一方、スター選手がケガで欠場するとわかると、価格が下がる)
こうした要因で15分おきに価格が変わる。こんな仕組みをとっているチームもあります。
▼ 周りの席が埋まって、一人分の席が余っていると、安くなったりするケースもあります。

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【複雑ですね・・】
これは、複雑な例ですが、こうしたスポーツ観戦をはじめ、音楽ライブのチケットや一時利用の駐車場、長距離を走る高速バスの運賃などでも、価格変動制を導入する動きがこのところ相次いでいます。そして、ここへきて、コロナで経営が厳しさを増している
▼ 大都市の鉄道やタクシーの運賃についても、国土交通省が、価格変動制について検討を始める方針を打ち出しました。

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【大都市の鉄道やタクシーというと、これまでの例より利用する頻度が違ってきます。どのような仕組みになるのか、気になります】
公共料金ですから、慎重な意見もあると思います。まだ、導入するかどうかを含めて、これから検討を始める段階ですが、鉄道の場合は、
▼ 通勤定期が検討の柱になるとみられます。平日のラッシュ時間帯に利用できる定期券は、同じ区間でも割高にして、ラッシュを避けた時間しか利用できない定期券は、割安にすることが考えられます。通勤定期代を負担する企業がコストを抑えるために、時差出勤など、働き方を見直すことで、混雑の緩和につながることが期待できるというのです。

【この場合だと、価格が違う2種類の通勤定期ができるということですね】
そういうことになります。その上で、通学用の定期、あるいは、一回ごとに買う切符も対象にするのか。それも、今後の検討になります。
時間をずらせると割安になりますが、乗る時間の都合がつけられなくて、定期代が自分持ちの場合、料金が高くなる可能性がでてきます。

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【タクシーは?】
これも今後の検討ですが、例えば、
▼ 金曜日の夜や雨の日など、需要が多い時は、割高にして、多少高くても乗りたいという人がタクシーをつかまえやすくする。一方、平日の昼間など、需要が少ない時は、割安にして、病院通いのお年寄りなどがタクシーを利用しやすくする。こうしたことが、考えられるとしていますが、
▼ 需要の多い時に割高にしますので、結果的に、多くの人の料金が高くなるということになります。

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【メリットもありますが、デメリットもある。検討課題は多くありそうですね】
料金が高い時と低い時と、どのくらいの差をつけると期待する効果がでるのか。一方、特に公共料金の場合、値上げ幅がどのくらいまでなら、利用者の理解が得られるのか。
ということに加え、割高な時間帯に利用せざるをえない立場の人やネットでのサービスを使いこなせない人。こうした人たちが一方的に不利益を被ることにならないよう、配慮も必要になってくると思います。

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【なぜ、今、価格変動制を導入する動きが広がっているのですか?】
もともと、ITやAI=人工知能の普及でビッグデータから需要の予測ができるようになってきた。という点に加えて、コロナの感染拡大で、企業の経営が厳しさを増しているという事情も背景にあります。例えば、
▼ スポーツ観戦やテーマパークは、感染防止のために入場制限をせざるをえない。
▼ 鉄道やタクシーは、利用者が大幅に落ち込んで、赤字に苦しむ企業もでています。鉄道の場合、コロナが終息した後も、テレワークやオンライン会議の定着で、利用者が元には戻らないという見方もでています。そこで、収益改善の手段のひとつとして、価格変動制の導入を検討する動きがでているのです。

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【収益の改善というと、全体的に値上げということになるのですか?】
確かに、スポーツやテーマパークなど、限られたお客さんで全体の収入を増やしたいという考えから、料金の値上げにつながるケースもあります。
▼ それだけでなく、鉄道のケースでは、コストの削減が一番の目的だとしています。というのも、各社、ラッシュのピーク時にあわせて、車両や改札を増やしています。ピーク時間帯の利用客を減らすことができれば、車両や改札の数、それにメンテンナンスなどのコストを減らすことができるという考えです。
▼ さらに、タクシーのケースでは、割安の時間帯に新たな利用客を増やすことで収入を少しでも増やしたいという狙いもあります。

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【利用する側としてどう考えたらいいでしょうか?】
サービスが多様化して、自分が納得できる価格で買うことができるという面もありますので、仕組みを理解した上で、上手につきあうことが大事になると思います。その上で、今後、新たに価格変動制の導入を検討する上では、業種やサービスによっても、いろいろな受け止め、いろいろな考えがあると思いますので、ひとつひとつ丁寧に議論をしていくことが求められると思います。

(今井 純子 解説委員)

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