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プラごみ資源化 どう変わる?

土屋 敏之  解説委員

◆今月9日、プラスチックごみを減らし資源として循環させるための法案が閣議決定された

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 プラごみと言えば去年レジ袋が有料化されましたが、今回の法案で変わることは色々あり、まず身近なところではごみの出し方が変わるかもしれません。
 ごみのルールは自治体ごとに違うので一概には言えませんが、現在、ペットボトルはほぼ全ての市町村で、それ以外のプラごみも7~8割の市町村で分別回収が行われています。 ただ、現在の法令で分別回収の対象になるのは、「容器包装プラスチック」と呼ばれるもの、例えばお菓子の袋やカップ麺の容器など、目安としてはプラスチックのリサイクルのマークがついているものに限られています。これ以外の「プラスチック製品」、例えばおもちゃや歯ブラシ、ハンガーなどは対象外で、ある自治体では「燃えるごみ」、またある自治体は「燃えないごみ」とまちまちです。法案ではこれらを全て「プラ資源」として回収することが、市町村の努力義務になります。
 強制力は無いので、全ての自治体でこうなるとは限りませんが、政府は法案を今の国会で成立させ、来年の春にも施行を目指しています。

◆なぜこうした法律が作られる?

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 大きな背景としては、世界的に海洋プラスチック問題が深刻化し、今のままだと「2050年には海の中のプラごみが魚の総量を超える」とも予想される状況があります。これはきちんと回収されないプラごみや屋外で使われているプラの一部が海に流れ込むと考えられています。
 しかも、水や大気中にもいわゆるマイクロプラスチックが多数含まれており、いま既に私たちは「毎週5g=クレジットカード1枚分のプラスチックを体内に取り込んでいる」との報告もあります。長期的に私たちの健康にどんな影響があるかはまだわかりませんが、一昨年主要20か国は「2050年には新たな海洋プラスチックごみ汚染をゼロにすることを目指す」と合意しています。

◆日本ではプラスチックはリサイクルされているのでは?

 たしかに日本のプラごみのリサイクル率は8割以上、といった数字がよく使われます。しかし、その内訳で多いのは、プラごみを燃やしてエネルギーの一部を利用する「熱回収」というものです。これは石油製品を燃やして二酸化炭素を出すわけですから、温暖化対策・脱炭素社会に向けて今後は削減が求められます。他に東南アジアなどへ言わゆる「ごみ輸出」されているものも、統計上は「リサイクル」に入っています。本当に国内で新たなプラ原料に再生されているのは1割ほどしかありません。
 今後はごみになるプラを減らして国内でリサイクルを推進しようということで、こうした法案が作られたんです。

◆ごみの出し方が変わるという以外には法案で何が変わる?

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 まずメーカーには、ごみになるプラスチックを減らしリサイクルしやすい製品を作るよう求めています。
 例えばプラ容器を薄くしてプラの使用量自体を減らしたり、プラ製品では今はプラと金属部分がくっついていたり色々な種類のプラが使われていて分けにくい物も多いですが、それを最初からリサイクルしやすい設計にするなどです。具体的にどうすべきかは国が指針を作り、それを満たした製品には、「認定マーク」をつけられるようにします。健康食品の「トクホ(特定保健用食品)」のようなイメージです。
 この他、企業による自主回収の促進も盛り込まれています。今も食品トレイやプリンターのインクカートリッジなど、お店に回収箱が置かれているものがありますが、こうしたことを広げていきます。
 さらに、私たちの暮らしに影響しそうなのが、使い捨てのプラスチック・スプーンやストローなどを大量に提供している事業者はその提供を「合理化する」ことが求められ、抑制が進まない事業者には国が勧告などを行います。
 
◆コンビニでアイスなどを買う時もらえるプラスチック・スプーンなどが有料になる?

 法案では有料化までは書かれておらず、求めているのは「使い捨てプラの抑制」です。ただ、その手段として今後有料化することも考えられますし、紙や木など再生しやすい素材に変えたり、そもそも使い捨てストローなどを必要としない提供の仕方にすることなども考えられます。これは法律が出来た後、その下の具体的なルール作りで議論される見込みです。

◆法改正でプラごみを減らす効果は?

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 例えばプラ資源の一括回収は、これまでに横浜や大阪など7都市の一部で試験的に行ったところ、容器包装プラだけの時に比べ回収できた量が35%増えました。その分、燃えるごみや埋め立てるごみに混ざっていた分が減ったと考えれば、一定の効果がありそうです。また、これらの自治体でアンケートに答えた住民の7~8割が、容器包装だけを分けるより分別しやすいとして、この方法を採用すべきだと回答しています。
 一方で課題もあります。自治体がプラ製品も一括回収するなら、量が増える分、自治体の負担が増えるかもしれませんが、それは住民の税金で行われます。実は現在の容器包装プラのリサイクルでは、メーカーなどが販売量に応じて一定の費用を負担しています。これに対し今回の法案では、新たに回収されるプラ製品のメーカーなどには費用の負担はありません。これは不公平とも言えますし、量に応じて費用負担することで企業にとっても、ごみになるプラを削減する動機付けにつながるはずで、今後の課題と言えます。

◆新型コロナウイルスもプラごみ問題に影響

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 感染対策で新たな需要も出てきていると考えられます。例えば、マスクの不織布の多くはポリプロピレンなどのプラスチックですし、お店などではプラスチックのシートで仕切ったり、持ち帰り食品などでプラ容器を利用することも多いですよね。去年1年間のプラスチックの販売量は、レジ袋有料化もあって全体では減少していますが、シート用材料のように前年より販売量が増えたものもありました。
 
◆プラごみ問題の解決には今後どういうことが必要?

 ごみ対策ではよく「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」が大事と言われます。これは優先順位も示していて、まずリデュース=必要ない使用は減らすのが最も効果的で、リサイクルするにはエネルギーも消費しますし、この中では順位は低いのです。
 今後も感染対策など使い捨てプラが必要な用途もあると思いますので、そうした分野は将来的には、燃やしてもCO2が実質的に増えず、仮に海に流出してしまっても生分解するような新たなバイオプラなどへの転換が進むことになるかもしれません。
 重要なのは、それぞれの用途で「これは使い捨てプラが必要なのか?」「再生可能な素材に変えられるか?」などを社会全体でも私たちも考えていくことだと思います。

(土屋 敏之 解説委員)


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