医療従事者を対象に新型コロナウイルスワクチンの接種が進んでいます。3月12日現在、国内で使われているのはファイザーのmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンです。今回はこのワクチンについて詳しくみていきます。
◆そもそも mRNAワクチンとは?
今、国内で使われているワクチンは、ファイザーのmRNAワクチンという新しい技術を用いたものです。実は新型コロナウイルスはトゲのような突起部分を使ってヒトの細胞に入り、増殖しますが、ワクチンはこの突起を作る遺伝情報mRNAを材料にしています。今回のワクチンは筋肉注射で、ヒトの細胞の中にmRNAが入ると、突起と同じタンパク質が作られ、血液中の免疫細胞が新型コロナウイルスと戦う武器・「抗体」を作るなど、次に新型コロナウイルスが侵入してきたときに攻撃してくれたりするのです。
ワクチンには、いくつかの効果が期待されています。まずウイルスが私たちの細胞に侵入・増殖するのを防ぐ「感染予防効果」。(これは自分自身が感染しないだけでなく、他の人にもうつさないということでもあります。)また、感染したとしてもウイルス量がある程度は抑えられて症状がでない「発症予防効果」。そして発症したとしても「重症化するのを抑える効果」などです。これらの効果があるか、臨床試験などで調べられています。
◆新型コロナウイルスワクチンの効果とは?
薬が承認されたときの、アメリカ・ブラジルなど16歳以上の約4万人を対象とした臨床試験でいくつかの効果がわかりました。臨床試験では、ランダムに、ワクチン接種するグループと偽薬(=生理食塩水)を接種するグループに別けられました。そして、参加者に普通に生活してもらいました。ワクチンは2回接種、1回目と2回目の間は3週間あけます。
累積発症率を2つのグループで比較したところ、発症予防効果が95%。ワクチンを接種しなかった人の発症率よりも 接種した人の発症率のほうが 95%少ない結果がでました。また、この臨床試験では様々な人種が参加し、アジア系の人では「発症予防効果」は74.4%でした。
2月末に発表されたイスラエルの研究では、他の効果も確認されています。この研究では、ワクチン接種した人およそ60万人とワクチン接種していないおよそ60万人を比較した所、「感染予防効果」が92%、発症予防効果は94%、また「重症化するのを予防する効果」も92%ありました。発症予防効果をもう少し具体的にみてみると、70歳以上の高齢者 98%でした。また肥満、糖尿病、高血圧などの持病のある人でも効果がありましたが、持病が3つ以上ある人は89%と少し低くなっています。
今、妊婦さんや12歳以上の子どもを対象にした臨床試験も始まっています。今後、さらに長期的な有効性があるのか、追加接種は必要なのかが、確認されていくことになります。また世界的に拡大している変異ウイルスについてはどのタイプにどれだけ有効なのかが確認されつつあります。
◆副反応・有害事象は?
ワクチンは異物を体内に入れるので、どうしても副反応も起こると言われています。アメリカCDC疾病予防管理センターがファイザーのワクチンを接種した1200万人以上の副反応についてレポートを出しています。
接種後1週間以内に見られた副反応は、グラフのように、多いものから、接種した所の痛み、だるさ、頭痛、筋肉痛など様々です。また、1回目より2回目接種の後の方が副反応の割合が多いことがわかります。
また、最近、ニュースなどで「アナフィラキシー」という言葉をよく聞くかと思います。これはひどいアレルギー症状で、例えば全身のじんましんとせきが組み合わさるなど様々な症状の組み合わせがありえます。
アメリカCDCによると、ファイザーのワクチンを接種した994万3234人で50人にアナフィラキシーが起こりました。およそ100万人に5人の頻度になります。どんな人たちがアナフィラキシーを起こしているかというと、94%が女性、80%は過去にアレルギーを指摘されていました。また24%は過去にアナフィラキシーを経験し、これらのほとんどの人が接種後30分以内に発症していました。
アレルギーのある人は注意が必要ですが、ぜんそく・花粉症、アレルギー性鼻炎などのアレルギーは接種可能といわれています。アナフィラキシーは適切に対処できるので、ともかくワクチン接種前にアレルギーがあれば、きちんと伝えることが大切になります。
日本の副反応の大規模な調査結果は、まだ出ていません。3月11日時点で、のべ18万1184人の医療従事者が接種しましたが女性35人男性2人が、アナフィラキシーを起こしたかもと「副反応の疑い」例として報告されていました。100万人あたりで計算するとおよそ204人。アメリカに比べると多いのですが、接種人数がアメリカに比べて少なく、またこれらは「副反応の疑い」例なので本当なのかわかりません。診断も難しいので、今日12日、厚生労働省の専門家部会で、本当にアナフィラキシーなのか、ワクチンとの関係があるのかなど検討予定です。
ワクチンの接種は始まったばかりです。副反応は目に見えやすく、どうしても報道されることも多くなります。一方、効果についてはまだ目に見えず、実感できないと思います。ワクチンの効果や副反応についての情報を幅広く知り、ワクチン接種をどうするのか考えていただけたらと思います。
(矢島 ゆき子 解説委員)
■取材後記
当初、37人と報告されていた「アナフィラキシー」疑い例のうち、1件については医療機関が報告を取り消しました。3月12日に開かれた厚生労働省の専門家部会では、疑いのあると報告された36人のうち、3月9日までに報告された17人について、アナフィラキシーの国際的基準に基づいて分析評価した所、アナフィラキシーに該当したのは7人のみで、残りの10人は、十分な情報がないため判断できないか、アナフィラキシーではないと評価されました。厚生労働省専門部会の部会長 東京医科歯科大学森尾友宏教授によりますと「まだ欧米に比べアナフィラキシーの頻度が多く感じられますが、一方、アメリカの2万6000名程度の医療関係者を対象とした調査では、100万回あたり270例という報告もあります。今後、日本でもさらに国際的な基準で評価を重ねることが大切です。」とのことでした。今後、さらなる分析評価の結果に注目していきたいと思います。
この委員の記事一覧はこちら