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東日本大震災10年 消えゆく"遺構" 記憶と教訓どう伝える

米原 達生  解説委員

2万2000人余りが犠牲となった東日本大震災からまもなく10年となります。
時間の経過とともに消えていくのが、震災の爪痕を今に伝える建物などの「遺構」です。
震災の記憶と教訓をどう伝えていくのか、おととしまで仙台で被災地取材に関わってきた米原委員の解説です。

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■消えゆく遺構
今回取り上げる震災の遺構は、津波の脅威や教訓を伝えようと残している建物などのことですが、震災から10年が経過する中で、関係者が努力して残してきたものも判断を迫られています。

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こちら、10年前の岩手県大槌町の写真です。民宿の屋根に観光船が屋根の上に乗り上げ、津波の威力を伝えました。しかし、先月1日、解体工事が始まりました。町とNPOが保存のための費用の寄付を全国に募ってきたんですが、目標額に届かなかったため、断念したんです。

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こちらは、宮城県名取市の住宅です。津波で一階部分が流されました。アメリカのバイデン大統領も、かつて見学したことがあります。しかし企業誘致に伴う土地の買収で、取り壊すことになりました。

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持ち主の鈴木英二さんは。津波の脅威を伝えたいと自宅を残してきました。建物が倒れないよう、300万円以上をかけて筋交いや柱を入れて補強工事をしてきました。震災後、被災地を訪れたボランティア1万人以上に家の前で当時のことを語ってきました。しかし鈴木さんは、ことし80歳を迎える中で、後を継ぐ息子さんに負担をかけたくないと、土地を売却することを決めました。
鈴木さんは「こういう建物の状況をみて、いかに強力な災害だったかということが言葉以前にわかり、そうすると私が話すこともなおさら心に響く。残せないのは寂しい思いだが、今が潮時だと思う」と話していました。

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津波の被害を伝える建物は、語り部たちの大切な拠点で、震災から時間が経つにつれて忘れてしまいがちな災害への備えを伝え続ける役目を果たしてきましたが、この間、次々と姿を消してきました。代表的な建物が大槌町の役場です。残すかどうかが長い間議論されましたが「庁舎を見たくないという感情に寄り添う」として町がおととし解体しました。
名取市閖上のかまぼこ製造会社も、この地区の被災状況を伝える象徴的な存在でしたが、一帯を復興のメモリアル公園として整備するということで、3年前の秋に解体されました。時間の経過や被災者の感情を考えると、建物がなくなっていくのは仕方がない面もあるのですが、教訓を伝えるという意味では、難しさを増しています。

■教訓伝えていく難しさ
しかし、このままだと、こうした貴重な建物は残っていきません。国は「震災遺構」という枠組みを作って原則として1つの市町村で1つ、保存にかかる初期費用を負担しています。

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こちらがその一覧です。復興庁によりますと、整備中のものも含めて、岩手・宮城・福島の3県であわせて9件、周辺を整備する大川小学校を入れると10件となっています。
地図で見るとたくさんあるように見えますが、被災地は南北に500キロ近くあって、そこに点在しているんです。電車やバスで行こうにもアクセスが悪く、車でも日帰りで複数回るのは大変です。

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もう一つの課題は被災者の声を聞く機会が減っているのではないかということです。
こちらは被災3県の24団体が行っている語り部活動を聞きに来た人の数です。
ピークだった震災から2年後の2013年から年々減っていておととしは3分の2程度、震災の爪痕が見えにくくなって語り部を聞きに訪れる人も減っています。去年は新型コロナの影響で、さらに減っているだろうと考えられています。震災の遺構や資料は津波の力の大きさを伝えますが、それが何を奪っていったのか深く理解することは難しいのが現状です。それは津波で奪われた被災者の生活や、復興までの長い期間積み重ねた苦労そのものが、震災の記憶や教訓として私たちに伝わってくるものだからです。

一方で、増えている数字もあります。
建物が消えていく一方で、多くの自治体は資料を集めた伝承施設を作っていて、こちらの入館者は増えているんです。被災当時の状況、あるいは復興の街づくりなど、わかりやすく整理されていますから、学びたいテーマのある人にはとても便利です。ですから、伝承施設という行政中心の活動と、語り部という住民中心の草の根的な活動を、もっとうまく連携させて、被災地での伝承の両輪を回していってほしいと思います。

■新たな取り組みも
被災地では新たな取り組みも始まっています。

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まずは、オンラインで語り部活動をやっていこうという動きです。新型コロナで現地を訪れるのが難しくなったのを機会に、多くの語り部の会が導入を始めていて、地理的なアクセスには関係ないので、現地に来れない人も参加できるという利点もあります。

もう一つは民間で残している遺構や、行政の作った伝承施設をネットワーク化していこうという取り組みです。これは国土交通省や自治体で作る協議会が、申請に基づいて認定していて、これまでに271が登録されました。
これを、どんな施設なのか記載して地図上にマッピングしたり、学びたいテーマに合わせたコースを紹介したりする取り組みも行われています。例えば復興後の賑わいの創出の過程を見たい、あるいは大規模なかさ上げ工事を学びたいなら、ここに行くのが良いですよという具合です。

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先月からは実際に日帰りのツアーも始まりました。仙台駅からスタートして3つの街の震災遺構や復興してできた新しい街をめぐります。そこで語り部などから当時の話や復興の道のりについて聞きます。
ツアーを主催した3.11伝承ロード推進機構の原田吉信事務局長は、「震災遺構、施設をみて震災の教訓を学んでいただいて持ち帰っていただければその地域の防災力にもつながりますし、被災地も少しでも賑わいがでてきますのでお互いにウインウインでツアーができる。できるだけ多くの人に来ていただきたいと思っています」と話していました。

遺構や伝承施設は被災者が様々な思いを抱えながら教訓として残しているものですから、そこに心を配ることも必要ですが、教訓を伝えていくには多くの人に訪れてもらうことが必要だと思います。今は新型コロナの流行で難しいかもしれませんが、ぜひ被災地に足を運んで、遺構を見て、語り部の話を聞いていただければと思います。

(米原 達生 解説委員)


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