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「パラリンピックまで半年 開催への課題は?」(くらし☆解説)

竹内 哲哉  解説委員

一年延期された東京パラリンピックまで半年。果たして本当に開催はできるのでしょうか。

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【パラリンピックはオリンピックの開催次第】
Q.パラリンピックの開催、大丈夫でしょうか。
A.オリンピックが開催されれば、パラリンピックも開催となります。パラリンピックだけやらないという選択肢はありません。というのも開催都市契約で「パラリンピックはオリンピック終了のおよそ2週間後、組織委員会が実施する」と取り決めているからです。

【開催は競技団体も不安】
しかし、NHKが国内のパラリンピックの競技団体に今年の開催についてアンケートを行ったところ、6割以上の団体で不安を感じていることが分かりました。

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理由としては新型コロナウイルスの影響が最も多く、「多くの人が集まることでの感染拡大の恐れがある」や「試合と感染対策の両方に集中しなければならず大きなストレスになる」といった声がありました。

【課題は大きく2つ】
パラリンピック開催に向けて解決を急がなければならない課題が2つあると考えます。1つはパラリンピック特有のルールである「クラス分け」。もう1つは感染症対策です。

【壁となるパラ特有のルール】
Q.「クラス分け」とは何でしょうか?

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A.「クラス分け」とは、障害の種類や程度の異なる選手が公平に競いあうための仕組みで国際競技団体が認定した専門家が判定し、選手に参加資格を与えるものです。
しかし、この判定が進んでいません。大きく理由は3つあります。
・国際大会の多くが中止や延期になっている。
・選手が渡航による感染リスクを恐れ、国際大会への参加を見合わせている。
・専門家に医療従事者が多く、それぞれの国の事情によって大会に参加できない、ということです。
先日ドバイで開かれた陸上の国際大会では、クラス分けは行われたものの、専門家が不足していたため、国ごとに人数制限が設けられたとのことでした。

Q.どのくらいの選手のクラス分けができていないのですか。
A.日本だけでも、先ほどのアンケートによると半数以上の団体が「クラス分けを受けられていない選手がいる」と回答があり、そのなかには内定を得ている北京パラリンピック金メダリスト、車いす陸上の伊藤智也選手ら有望選手が含まれています。
世界となると、国際パラリンピック委員会(IPC)が、その人数を把握していないので、どれだけいるか分かりません。

【特例措置も】
Q.多くの選手が窮地に立たされているんですね。

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A.この状況を打開するため視覚障害者の国際競技団体は来月、特例として陸上やゴールボール、柔道など7つの競技を対象に合同でクラス分けを行うことを決めました。
本来、クラス分けは不正が行われないよう、国際大会で日本人選手に対して複数の外国人専門家が行います。しかし、今回はオンラインで海外の専門家が立ち会い、医師と選手の会話もすべて英語で行うとしています。
海外の専門家の立ち合いや会話が英語というのは、不正が行われないように講じられた策です。というのも、かつて韓国の柔道選手が視覚に障害があると偽って国際大会に出場していたという事実があるからです。
どのように専門家の目をすり抜けられたのかは現在も精査中ですが、今後、日本だけでなく各国でも同じようにクラス分けが行われると考えられますので、今回のクラス分けがモデルになるよう、できる限りの策を講じて公平公正を担保して欲しいと思います。

Q.この特例措置ですが、視覚障害の選手のみですか?
A.身体障害、知的障害の選手たちのクラス分けの対策は打ち出されていません。代表選考会などとの兼ね合いもあり、残された時間はほとんどありません。「各競技団体とともにあらゆるシナリオを検討している」とIPCはしていますが、一刻も早く指針を示してほしいと思います。

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【大会の感染防止ルールの「プレーブック」】
Q.感染症対策はいかがでしょうか?
A.障害がある人は新型コロナウイルスに感染しやすいというデータはありませんが、障害の種類によっては重症化するリスクは高いとされていますので、より注意が必要です。
組織委員会は、先日、IPCと国際オリンピック委員会と共同で、来日前、滞在中、帰国時の新型コロナウイルスの基本的な感染防止ルールをまとめた「プレーブック」を公表しました。

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こちらがその「プレーブック」。アスリートやメディアなど4つの関係する人たちに向けてまとめられています。
例えばどんなことが書かれているかというと、
・参加者には出発14日前からの健康観察や検査の義務付け
・大会期間中 最低4日に1度 新型コロナの検査
・許可なく公共交通機関の利用の禁止 などです。
パラリンピックに関することも記載されており、
・支援が必要な人への接し方と対応」
・車いすユーザー以外の人が車いすに触れた時の対応」などがあります。

【ワクチン接種は義務付けられているか】
Q.ワクチン接種についてはいかがですか。

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A.強く推奨はしていますが、義務付けられてはいません。理由としては、どんな障害のある選手にどんな副反応が出るかはまだ分かっていないからです。ワクチンを接種しなくても安全・安心な大会を目指すのというのが、今回の方針です。
このプレーブックは「初版」で、より詳細で具体的なものを4月、最終的なものを6月に発表するとしています。いま、観客やボランティア向けのプレーブックはありませんが、選手同様安全・安心を保証するものを作るのは組織委員会の責務だと考えます。

【共生社会ホストタウンとの交流の懸念】
Q.海外の選手が各地を訪れる交流も予定されていますよね。
A.大会の前後に受け入れを予定している共生社会ホストタウンは全国95か所。ホストタウンでは政府のガイドラインに沿って、選手たちの安全と地域の住民の安全の両方を守るために、いま、受け入れマニュアルを作っている真っ最中です。しかし「本当に安全は担保できるのか」「支援が必要な選手が感染した場合、地元の医療機関で対応できるか」など、様々な課題に直面しています。

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Q.全国に海外の選手たちが行くというのは、現状だとそもそも厳しい感じがしますが…。
A.その通りだと思います。たとえば目的地に行く作業一つとっても、駅などでの対策をどうするのか、といった物理的な問題があります。加えて、変異ウイルスなど、ホストタウンの人たちが心配になる種も出てきています。
ホストタウン事業は、大会とは別に政府が行っている事業ですので、そこは政府が責任をもってすべての国民に科学的にも心情的にも安全・安心を担保できるよう施策を講じて欲しいと思います。

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【まとめ】
パラリンピックの開催には様々なハードルがありますが、開催に向けて、例えば感染症対策もそうですが、いままではなかった障害者への対応という新しいものが生まれています。そのハードルを越えるプロセスも含めてパラリンピックのレガシーです。
そういった点から見ると、パラリンピックの開催が決定してから、学校ではパラリンピックを通して多様性を学ぶ機会が増え、公共施設のバリアフリーが進むなど多くのものを残してきました。その歩みはコロナ禍にあっても止めてはならないと思います。その歩みこそパラリンピックの価値であり、開催されたときに大輪の花を咲かせると思います。

(竹内 哲哉 解説委員)

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