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2度目の緊急事態宣言 消費の変化は?

今井 純子  解説委員

2度目の緊急事態宣言を受け、消費がまた落ち込んでいます。今井解説委員です。

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【消費。また、落ち込んでいるのですね】
まず、政府の統計。家計調査を見てみますと、去年、新型コロナの第一波、第二波で消費が大きく落ちこんだ後、10月、11月には、一年前と比べて、プラスの水準まで回復していました。確かに、一年前は消費増税の後で消費は低調。その影響もありますが、それでも、GoToキャンペーンで旅行や外食などが回復したことで、今週、発表された10月から12月のGDP成長率は、前の3か月と比べ、年率換算でプラス12.7%と、2期連続の大幅な伸びとなりました。
ただ、家計の消費。12月には、マイナス0.6%とすでにブレーキがかかっていました。

【感染が再び急速に拡大してきた時期ですね】
はい。まだ、緊急事態宣言が出る前ですが、感染拡大を受け、パック旅行、遊園地、外食への支出が大幅に減りました。

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【再び宣言が出た1月以降はどうなったのでしょうか?】
1月の家計調査の結果はでていませんので、別の調査ですが、クレジットカードの利用情報をもとに算出した消費の動向を示す指数で見てみたいと思います。
▼ この統計では、12月は、一年前と比べて11.7%の落ち込みでしたが、今週公表された1月の数字は、マイナス16.5%。と、さらに悪化しました。

【実家に帰省するのをやめたという人も多かったですね】
具体的に見ていくと、航空、鉄道、旅行への支出、そして、外食、デパート、遊園地への支出も大幅に減りました。

【厳しい数字ですね。こうした項目は、1回目の緊急事態宣言のころと比べるとどうなのですか?】
去年の4月の数字です。

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【今も厳しい状態ですが、一回目の緊急事態宣言のころほどは消費が落ち込んでいないのですね】
前回は、緊急事態宣言の対象が全国になりましたが、今年1月は、11の都府県でした。
また、前回は、多くの大型の商業施設や遊園地が営業を自粛しましたが、今回は、営業時間の短縮や人数制限はしても、多くが営業はしています。そのような違いが背景にあるように思います。

【自粛疲れというのもあるのでしょうか?】
一部、あるかもしれません・・ただ、それだけでなく、デパートや遊園地に行っても、どうしたら感染のリスクを減らせるのか、春のころよりわかってきた。そのような影響もあるように思います。
例えば、ゴルフ場。去年の4月は、1年前と比べてマイナス30.7%と大幅に落ち込みましたが、この1月は、7.6%の減少にとどまっています。ゴルフ場のコースへも、一人で行ってプレーをして、ロッカールームや風呂を使わず、食事もせず、すぐに帰れば、感染のリスクは抑えられるということで、ひとりでプレーをする人も増えているというのです。
限界はありますが、感染リスクを減らしながら行動するノウハウは少しわかってきたように思います。

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一方、別の意味で、前回と違う消費の動き。前回の緊急事態宣言のころは、消費が大幅に増えたのに、今回はそれほどでもない、という分野もあります。

【どのような分野ですか?】
例えば、スーパーやディスカウントショップ、酒屋。一回目の緊急事態宣言のころは、食べ物や飲み物、日用品を買う動きが、前の年と比べて大幅に増えました。それが、今年の1月は、このように、前回ほど増えていません。

【ディスカウントショップでの買い物は、むしろ減少しているのですね。これは、どう考えたらいいのでしょうか?】
一つには、前回のように食料品や日用品のパニック的な買いだめが起きていない。消費者が冷静に必要なものを買っていることが考えられます。
例えば、ヨーグルト。去年の4月には、免疫力を高めるとされ、前年より15%あまり消費が伸びたのですが、今回は、逆に4.1%減っています。冷静に行動しているという現れです。

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【前回の経験が活きているということですね】
そうですね。ただ、心配なのは、それだけでなく、全体的に節約志向が強くなっているのではないか。そのような指摘もあがっている点です。こちらは、スーパーの食料品や日用品の物価の動きですが、このように、1回目の緊急事態宣言のころと比べて、下がってきています。スーパーの現場からは、秋以降、お客さんが価格に敏感になり、節約志向が強まっているように感じられる。そのような声が聞こえてきます。

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【お客さんが買わないから、価格を抑えざるをえないということですね。なぜ節約志向が強まっているのでしょうか?】
コロナの影響が長期化していることで、雇用や収入を取り巻く環境が一段と悪化していることが背景にある、とみられています。
▼ まず、雇用ですが、コロナの影響で、解雇や雇い止めで職を失った、あるいは、その見通しの人は、8万7000人を超えていますし、
▼ コロナの影響で倒産した企業も1000社を超えました
▼ また、これまでなんとか雇用を守ってきた大企業の中からも、希望退職を募る動きが相次いでいます。今年に入ってすでに、35社、8700人。ペースが加速しています。
▼ また、仕事がある人も、12月の世帯の収入は、1年前より1.3%減りました。多くの企業で年末のボーナスが減ったことが響いています。

【先行きに不安になりますね】
ところが、おカネがないわけではありません。去年は、一人10万円の特別定額給付金などの収入があった一方、支出が大幅に減ったことで、年間でみると、サラリーマン世帯の平均で、月17万5000円、貯蓄が増えた計算になります。

【え!そんなにですか?】
もちろん、すでに貯蓄が底をついてしまい、生活に困っている方が増えているのも事実です。こちらは、あくまでも、サラリーマン世帯の平均の数字で、旅行や外食に行けなくなったりして支出が減った分も含めての数字です。ですが、実際、貯蓄が増えた人も、この先への不安から、できるだけ節約して、将来に備えているのではないか。そのような見方がでているのです。

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【不安がなければ、もう少し買い物をしたいという方もいるでしょうね】
はい。雇用や賃金への不安から節約の動きが強まると、今後、緊急事態宣言が解除された後も、去年の秋のようには消費が戻らす、景気回復の足を引っ張る心配もでてきます。世の中におカネが回らず、不安がいつまでも回復しない。という悪循環になりかねません。

【どうしたらいいのでしょうか?】
感染拡大の波がいつまでも繰り返すようでは、長期的に不安が強まるばかりです。今週から、ワクチンの接種が始まりました。ここまできたら、少しでも多くの人が早く、接種を受けられるよう、政府は、取り組みを早めてほしいと思います。私たちが安心して外出して消費できるようになること。

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それがなにより、雇用や賃金への不安を和らげ、経済全体の回復につながる、一番の近道ではないかと思います。

(今井 純子 解説委員)


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