NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「問われる本気度 縮められるか? 男女の格差」(くらし☆解説)

飯野 奈津子  専門解説委員

<岩渕>
辞任を表明した東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森会長の発言に対して、女性蔑視だという批判の声が相次ぎました。きょうは、改めて問われている社会の男女格差について考えていきます。担当は飯野専門解説委員です。

i210218_00.jpg

Q1 タイトルには「問われる本気度」とありますね。

A1 そうですね。男女が対等に活躍できる社会を目指そうと、政府が取り組みを始めて20年以上たちますが、いまだに目指す社会からは程遠い状況だからです。森会長の発言も性差別に対する意識の低さの現れですし、今回のコロナ禍でも、立場の弱い女性たちにより大きな影響が及んでいます。

i210218_01.jpg 

新型コロナの感染拡大で、解雇や雇止めに見舞われているのは、多くが非正規で働く人たちです。その非正規で働く人が前の年の同じ時期に比べてどのくらい減ったのかみてみると、感染が広がり始めた去年3月以降、10か月連続で減少しています。男女別にみると、女性が男性のおよそ2倍。非正規で働く女性により多くのしわ寄せ及んでいることがわかります。
中でも深刻なのが、母と子で暮らす母子世帯です。非正規で働く母親が多く、支援団体などの調査では、コロナ前より就労収入が減ったという人が43%余り。家計が苦しく、食べ物や子供の学用品を購入できない、光熱費や家賃を払えないといった切実な声が上がっています。
こうした現状について、以前から社会にあった男女格差の構造的な問題が、コロナ禍によってあぶりだされたと専門家は指摘しています。

Q2 以前からあった男女の格差、具体的にどういうことですか

i210218_02.jpg 

A2 そもそも処遇の悪い非正規で働くのは女性の方が多いですよね。女性は、働く人全体の56%に対して男性は23%です。これが、男女の賃金格差にもつながっています。働く人全体の男性の賃金を100とした場合、女性の水準は74です。
一人親家庭の状況をみても、母子世帯は123万世帯と父子世帯の6倍以上です。離婚した後母親が子供を引き取ることが多いためですが、母子世帯の就労収入は、年間平均200万円と父子世帯の半分程度。父親から養育費を受け取っている世帯も4分の1程度にすぎません。子育ての責任が女性に偏っていることが、母子世帯の困窮につながっています。

Q3 そうした立場の弱い人たちの生活を新型コロナが、直撃したということですね。

A3 そういうことです。コロナの影響で生活に困窮している人たちへの支援を急ぐことがまず必要ですが、社会の構造的な問題を解決しないと、いつまでたっても、男女が対等に活躍できる社会は実現しません。

Q4 そのために具体的に何が必要なのでしょう?

A4 これまでの取り組みをもう一歩前に進めようと、政府が新たな行動計画を去年暮れにまとめていて、新年度から計画に沿った取り組みが始まります。その内容をみながら今後何が必要か、考えていこうと思います。

i210218_03.jpg 

第5次男女共同参画基本計画。2000年に初めて計画が作られて今回が5度目の計画です。新年度から5年間に進める取り組みをまとめています。
この中で注目されたのは、2003年に政府が掲げた202030目標、2020年までに、社会のあらゆる分野で、指導的な地位に占める女性の割合を30%程度にするという目標をどう設定しなおすかでした。2020年が過ぎても目標の達成が見込めない状況だからです。今回は、「2020年代の可能な限り早期に30%程度とする」と目標の実施時期を最長10年先送りにしています。

Q5 衆議院議員は9.9%、企業の管理職もまだ14,8%ですよね。30%からは程遠い。本当にこれから10年で目標を達成できるのでしょうか。

A5 そのために、今回強調されているのが、社会のルールや政策を決める政治の場に女性議員を増やすことの重要性です。配偶者からの暴力を防ぐDV防止法なども超党派の女性議員が積極的に動いてできました。政治の場に女性が増えれば、立場の弱い女性たちにしわ寄せがいく社会のありようを変えることにもつながると期待されているのです。問題は、女性議員の数をどう増やしていくかです。

i210218_04_1.jpg

日本の衆議院と、各国の下院、または一院制の女性議員の割合を比べると、多くの国が30%以上なのに対して日本は9,9%。193か国の中で167位です。日本以外の国に共通しているのは、女性の割合を引き上げる踏み込んだ仕組みを取り入れていることです。「クオータ制」英語で割り当てという意味です。メキシコがその仕組みで大幅に女性議員を増やして注目されています。すでにおよそ120の国と地域が導入していて、国政レベルの議員選挙で、候補者や当選者に性別の割合を割り当てています。たとえば「どちらの性も40%を下回らない」などと法律で定めたり、政党が自発的にルールを設けたりしています。

Q6 日本でもこのクオータ制をとりいれることになるのですか?

A6 今回の計画では、国政選挙の候補者に占める女性の割合を2025年までに35%にする目標を掲げ、各政党に「候補者クオータ制」の導入を要請するとしています。
その要請に、各政党がどう応えるのか、今年は、秋までに衆議院選挙がありますから、私たち有権者が見ていく必要がありますし、もし取り組みが進まないようなら、海外のように、強制力のある候補者クオータ制の導入など、踏み込んだ対策も検討が必要だと思います。

Q7 ただ、いくら女性の割合を引き上げる仕組みを作っても、そこに参加しようと思う女性が増えないと、変わりませんよね。

A7 そうですね。企業を取材していても、女性管理職を増やしたいけれど、なり手がいないという声を耳にします。
なぜ女性の登用が進まないのか。根本的な問題として、女性は家庭、男性は仕事という固定的な役割分担意識が根強く残っていることが大きいと思います。

i210218_05_2.jpg

共働き世帯の一日当たりの家事や育児の時間を調べた調査がありますが、夫婦のみの世帯では、妻は2時間1分と、夫の2、6倍。就学前の子供がいる世帯では、妻は4時間38分で夫の2、4倍です。このように、女性に家庭内の負担が偏っていることが、企業の中で正社員として働き続けることを難しくしています。出産を機に仕事を辞める女性も多く、それが女性管理職が増えない要因の一つですし、再び仕事をする時には非正規でしか仕事ができず、非正規の多さにつながっています。さらに女性の政治参加の壁にもなっています。地方議会の女性議員を対象に、なぜ女性議員が増えないかきいたところ、最も多かったのが、家庭生活との両立が難しいという回答でした。

Q8 今回の計画で、こうした現状を変える対策は示されていますか?

A8 社会に根強く残る意識を変えるのはそう簡単ではありませんが、現状を変えるきっかけになるのではと注目していることがあります。子供の誕生直後に、父親が休みをとりやすくする新たな制度の導入と、休みの取得を個別に働き掛けることを企業に義務付けるとしたことです。ポイントは、子供の誕生直後という点です。子供が生まれて間もない時期に、ある程度まとまって休みをとった父親は、その後も子育てや家事に関わる傾向が強いという海外の研究もあるからです。政府は、今の通常国会に育児介護休業法などの改正案を提出する準備を進めていて、民間企業で働く男性の育児休職取得率を2025年までに30%にする目標を掲げています。

Q9 コロナの感染拡大で、テレワークも広がってきていますから、男女が共に、仕事も家事や育児も分かち合えるようになればいいですね。

A9 そうなることを期待したいですね。
男女の格差をなくすには、女性だから男性だからとひとくくりにして役割を決めつけずに、一人一人の思いや価値観を尊重して認め合うことが何より重要だと思います。それを大事にしていけば、男女にとどまらず、年齢や国籍、性的指向に関することも含めて差別をなくし、誰もが活躍できる社会へとつながっていくのではないでしょうか。

(飯野 奈津子 専門解説委員)

キーワード

関連記事