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「新種の巨大深海魚! ヨコヅナイワシ」(くらし☆解説)

名越 章浩  解説委員

海底2500メートルあまりの深海で見つかった魚が、新種の深海魚だと判明しました。
「新種の巨大深海魚! ヨコヅナイワシ」というテーマで、名越章浩解説委員とお伝えします。

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【どこで発見?】

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発見されたのは、静岡県の駿河湾です。「日本で一番深い湾」として知られる場所です。
海洋研究開発機構などのチームが、2016年、水深およそ2100メートル~2600メートルの深海を調査して見つけました。
調査は、同じ年に2回行われ、あわせて4匹釣り上げました。
最も大きなものは、体長が1.4メートル近く。重さは、ほぼ25キロありました。
ことし1月、新種として研究論文が発表されたのです。

海洋研究開発機構の海洋生物環境影響研究センター、藤原義弘・上席研究員によりますと、何しろ、未知の魚が揚がってきたので、最初は船上が騒然としたそうです。
「一時は“生きた化石”とも呼ばれるシーラカンスでは?という情報が入ってきてとてもびっくりした」と話していました。

【どんな特徴の魚? なぜヨコヅナイワシ?】

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研究チームが遺伝子を解析したほか、骨格などの構造は、CT検査用の機器で調べました。
その結果、大相撲の関取が名前の由来ともいわれるセキトリイワシ科に分類されることが分かりました。

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「イワシの仲間?」と思われる方も多いと思いますが、名前は似ているものの、イワシの仲間ではありません。コイとかナマズに近い分類になるそうです。
そもそもセキトリイワシ科の魚は、食用ではないので、一般の人が目にすることはほとんどありません。
その一般的なセキトリイワシ科の魚は、体長が30センチ~40センチほどです。
しかし、今回見つかった魚は、1メートルを超える大きさ。セキトリイワシ科の中では最大だったので、研究チームは「ヨコヅナイワシ」と名付けました。
関取の中でも一番格が上の横綱ということです。

さらに、これまでに見つかっているセキトリイワシ科の魚と比べると、「背びれが尻びれより体の前にある」とか、「うろこの列が多い」とか、「体の大きさの割には目が小さい」「口は大きい」といった特徴もありました。さらに遺伝的な違いもあったことから、研究チームは新種だと結論付けました。

【ほかの深海魚とは別格】
そして、もう1つ分かったことがあります。
体全体の形に注目してみてください。
今回見つかった水深が2000メートル以上の太陽の光も届かない、暗い海域の場合、生息する魚の多くが、ヒョロヒョロ長いか、やたらと頭だけが大きな形のものが目立ちます。
これは、そもそも深海はエサが少ないので、進化の過程で口を大きくするか、胃袋を大きくするような形になり、なおかつ、あまりエネルギーを消費せずに捕食できるように、最小限の動きができるような体つきになっていると考えられています。
それが、今回のような形状を保ち、それでいて大型という魚が、2000メートル以上の水深で見つかるのは、とても珍しいことなんです。

【駿河湾の深海の食物連鎖の頂点にいる魚】

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さらに、口の中を調べてみると、上下のあごに細かく鋭い歯が多数並んでいるなどの特徴がありました。
体が大きくて、鋭い歯が並んでいる。
いかにも強そうですよね?
そうなんです。このヨコヅナイワシは、駿河湾の深海の食物連鎖の頂点に立つ魚だということも分かったのです。
まず、ヨコヅナイワシの胃からは比較的大きな他の深海魚を食べた痕跡が見つかりました。
さらに、筋肉のアミノ酸に含まれる窒素を分析することで、食物連鎖のどの位置にいるのかが分かる最新の研究方法があり、それで調べてみると、駿河湾の深海の頂点にいることが科学的にも確認されました。
研究チームの藤原さんは、次のように語っています。
「駿河湾で我々の生活のすぐ足元の所でもまだ1メートルを超えるような巨大な魚が全く見つからずに残っている。世界を広げて見ると、まだ私たちが知らない生物の多様性がそこにはある」

【謎の多い深海魚 研究の意義】

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深海の世界も、そこにすむ生物も、まだ謎だらけです。
地球の表面の7割は海ですが、その平均の深さは3700メートル以上もあります。
中でも深海は水圧が高く、水温も低い暗黒の世界で、あまりにも過酷な環境のため、そもそも19世紀の前半には、「深海には生物が存在しない」という学説が提唱されたほど、未解明なことが多いのです。
そこに生息する生物を調べるということは、進化の不思議を解き明かしていくことにつながります。

さらにこうした研究は、漁業資源の管理に役立ちます。
簡単な言葉でいうと、魚を獲りすぎないようにすることです。
実は、漁業の技術の進歩もあって、その漁獲の範囲は、面的な広がりだけでなく、次第に水深の深い場所へも広がっていて、藤原さんによりますと、世界の平均で10年で60メートルずつ深くなっているそうです。
深海の生物が、偶然にも網にひっかかってくるということもあります。

しかし、そもそも深海の生物は、水温が低いので成長が遅いのです。
ですから、繁殖する数が多いものと、そうでないものをしっかりと私たち人間が把握しておかないと、いずれ生態系が崩れてしまう危険性をはらんでいます。世界を見ると、すでに枯渇している魚もいるほどです。

しかも、今回、見つかったヨコヅナイワシは、駿河湾の食物連鎖の頂点に立っています。
トップにいるということは、自分を食べる敵がいないということです。
ということは、その頂点がいなくなると、食物連鎖のバランスが崩れ、生態系が一気に崩壊すると言われています。
もしかしたら、今まで私たちが食べられていた魚が食べられなくなってしまうかもしれません。
つまり、ヨコヅナイワシが、どの程度の繁殖力を持っているのか、寿命はどれくらいなのか、などを研究することで、実は生態系全体を守ることになるのです。
深海魚の存在を知り、その生態を知るということは、私たちの食卓の豊かさにもつながっているということを知っておきたいものです。

(名越 章浩 解説委員)

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