NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「コロナ禍の避難所運営は」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

災害時の避難所についてです。
今、3年前の西日本豪雨の被災地で、新型コロナの感染対策を取りながら、住民自身が避難所を運営しようという取り組みが行われています。

k210129_1.jpg

【避難所運営は誰がする?】
Q:避難所を住民が運営するということですが、行政がやってくれると思っている人も多いのではないですか。
A:内閣府のガイドラインは「原則」として「被災者自らが行動し、助け合いながら避難所を運営する」ことなどと書かれています。もちろん行政の支援も欠かせませんが、大規模な災害になるほど、実際に行政の手が届かなくなります。このため住民が自分たちで避難所の運営をせざるを得なくなるケースが少なくありません。
そこで、西日本豪雨で大きな被害が出た愛媛県では、当時の被災地など4カ所をモデル地域にして、住民による避難所運営がスムーズにできるように取り組みを始めています。
スタートに使われたのはカードゲームです。

【カードゲームで体験】

k210129_2.jpg

愛媛県西予市野村町の体育館に集まった40人ほどの人たち。行われているのは、避難所の運営を疑似体験できる「HUG」と呼ばれるカードゲームです。
参加したのは、すべて地元に住む人たちです。
使うカードは、2種類。1つは、避難してきた人の年齢や家族構成など属性が書かれた避難者カード。例えば、Aさんの場合、ぜんそくがあることが分かります。もう1種類は、イベントカード。避難所で起こる様々な出来事が書かれています。
例えば、着替えスペースを作ってください、など。2種類のカードを進行役がランダムに読み上げプレイヤーへ渡します。
足をケガした高齢者の場合、移動しやすさを考えてトイレの近くへ。実際の避難所のように、次々とやってくる避難者。イベントも立て続けに発生する中運営する人の立場になって難問を解決していくゲームです。

ゲーム序盤、なんと地震でトイレが壊れ使えなくなってしまいました。トイレをどうするか悩んでいる間にも次々、避難者がやって来ます。結局、トイレ問題は解決できないまま。避難所運営の大変さが分かりました。
さらに今、災害が起きたらまず考えないといけないのが新型コロナ対策です。
熱がある人が避難所にやってきました。新型コロナに感染しているかもしれないと体育館ではなく理科室へ避難してもらうことに。
次に来たのは・・・。県外の旅行者30人が一気に避難所へ。さらに25人のアメリカ人旅行者も押し寄せました。
最初は、密な状態で配置。悩んだ末、1人1人の間隔を空けたところ、多くの教室が必要だと分かりました・・・。

【ゲームを元にマニュアルを作る】

k210129_3.jpg

Q:ゲームとはいえ、大変ですね。
A:勝ち負けを競うより、どんな課題があるかを体験し、避難所運営をリハーサルすることが狙いです。だから必ず正解があるわけではありません。このゲームは静岡県が開発し、一般でも販売されています。
Q:特に新型コロナへの対策は課題がたくさんありましたね。
A:これで終わりではありません。ゲームを元に今度はさらにこんな取り組みが行われました。

避難所運営ゲームの2か月後。自主防災組織のメンバーが再び集まりました。
取り組みを監修している愛媛大学防災情報研究センターの森脇 亮教授がゲームで分かった課題を元に避難所運営マニュアルの「案」を作ってくれました。
これがマニュアル案の一部です。
▼検温所の設置や名簿の作成。それにゲームでも課題になった▼体調が良くない人の部屋の準備。さらに▼トイレの問題も。ゲームで苦労した経験がマニュアルに盛り込まれました。

ところが、参加者からはさらにアイデアが寄せられます。最初はゴミ置き場について。ゴミ置き場は入り口からずっと離れたこの場所です。もっと近くに、という要望が寄せられ、ゴミ置き場の位置を見直すことにしました。さらに避難者の名簿についてもさまざまなアイデアが出ました。
こうした意見を元に、さらにマニュアルを改善していくことになりました。

【感染対策と避難所運営の準備を】

k210129_4.jpg

Q:みんな積極的にアイデアを出していましたね。
A:ここまでゲームを通じて課題に気づきました。それを元に感染防止策を含むマニュアル案を作りました。今度は、マニュアルを元に実際に避難所運営の訓練をやってみる予定です。
こうした訓練では、どれだけ多くの住民が参加して役割分担できるかが鍵になります。一連の取り組みで、災害に備えた準備が整うわけです。愛媛県もモデル地域のノウハウを各地で活用したいと考えています。
Q:避難所ごとの運営マニュアルはまだ整備されていないところも多いでしょうから、参考になりそうですね。

k210129_5.jpg

A:3月で東日本大震災から10年になります。地震、津波、大雨など、災害時の避難では、当面、新型コロナの感染対策は欠かせません。
国もコロナ対策に配慮した避難所運営をポイントとしてまとめています。
こうした情報も参考にしながら、自分たちの住んでいる場所の避難所では、災害時のためにどのような準備が必要か。今から、地域で検討を進めてほしいと思います。

(清永 聡 解説委員)

キーワード

関連記事