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「東京五輪は開催できるか~開幕まで半年」(くらし☆解説)

小澤 正修  解説委員

1年延期された東京オリンピックの開幕まで、1月23日であと半年となります。感染拡大がおさまらず、再び緊急事態宣言が発出される中、オリンピックは開催できるのか。課題を整理し、コロナ禍でのオリンピック開催について考えます。小澤正修解説委員です。

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【五輪はどうなる?】

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年末年始に感染者が急増し、再び開催地の東京を含めた11の都府県に緊急事態宣言が発出されました。半年後に開催できるのかと考える人は多いと思います。1月にNHKが行った世論調査では「開催すべき」が16%、「中止すべき」が38%、「さらに延期すべき」が39%でした。去年10月に「開催すべき」は40%でしたが、感染拡大が加速するにつれて、ことしの大会開催に前向きな見方は減少しています。国内外で感染拡大の収束が見通せない状況ですので、半年後とはいえ、オリンピックの開催に多くの人の不安や懸念が強まるのも、自然なことではないかと思います。今のところ、最終的な権限を持つIOCは開催の方針で、組織委員会やアスリートも、開催を前提に準備を続けています。

【選手の受け止めは】

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日本のアスリートはせっかくの地元開催のオリンピックで、多くの人に応援されてプレーしたいのが本音ですから、複雑な心境だと思います。「誰もが不安に感じずストレスなくできるなら開催してほしいがそうでないなら・・」と言葉を濁す選手や「“やりたい”だけでは反発が強くなってしまう」と胸中を明かす選手もいます。周囲の視線だけではなく、年末年始は、選手が感染してしまうケースも相次ぎました。高校スポーツの全国大会では選手への感染が確認されたチームが途中棄権、大相撲初場所でも、力士への感染が判明し、感染した力士らが所属する相撲部屋は全員が休場する措置が取られました。またラグビーのトップリーグでも複数のチームで感染者が出たため、開幕が延期されています。感染は試合や練習が原因なのか、試合開催に伴う移動や団体行動からなのか、それとも日常生活からなのか、はっきりしていませんが、安全安心を確保する難しさが、改めて突き付けられたと思います。

【求められる徹底した対策】

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そのためには、なによりも徹底した感染防止対策の策定が課題です。政府、東京都、組織委員会による調整会議の中間整理によりますと、まずアスリートについては徹底的に外部と隔離する方針です。テニスの全米オープンなどでも取り入れられてきた、外部と遮断された泡の中に選手を置くという意味の“バブル”という概念がベースです。選手村や競技会場などへの移動は原則公共交通機関を使わずに専用車を利用。競技会場でもゾーニングを徹底し、大会スタッフなどとの接触を最小限にする予定です。

【選手が集まる選手村は】

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選手村では原則として選手に4日から5日の間隔で検査を行うほか、行動できる範囲を組織委員会の管理する施設のみに制限することを検討しています。入村は競技開始の5日前から、退村は競技終了後、2日以内として滞在時間をできるだけ短縮します。本来オリンピックは、勝敗を争うことではなく、選手らが交流を深めて、平和の実現につなげるのが理念です。世界選手権などほかの国際大会と決定的に異なるのは、こうした理念の存在なのですが、人の交流と安全安心の確保にはどうしても相反する部分が出てきてしまいます。とはいえ、開催を目指すには、こうした理念も一定程度、犠牲にしても感染防止対策を徹底することが必要ではないかと思います。

【観客はどうなる?】

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観客について、人数の上限や、海外からの観客の受け入れは、まだ決まっていません。春ごろにイベントにおける政府の方針に沿って決める予定です。現時点では「観客を入れる」方向で検討が進められています。観客への感染防止対策はマスクの着用やこまめな手指の消毒、大声の禁止などといった基本方針に加えて、アプリを活用して健康状態の把握することや、入退場口などの混雑状況を検知できるシステムを導入し、「密」になる状態を少しでも緩和することが検討されています。ただ、アスリートに比べて観客の行動を管理するのは非常に難しいため、安全安心を確保するために、今後の状況によっては、観客数の制限だけではなく、国内に在住の人たちのみとしたり、無観客に踏み切ったりするなど、より厳しい措置も検討する必要が出るかもしれません。

【開幕までには時間がない】

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このあと3月には運営課題を探るためのテストイベントと呼ばれる競技ごとの大会、それに聖火リレーが始まります。去年は国内の聖火リレー開始の直前に史上初めての延期が決まりました。この時期までにはこうしたイベントができる感染状況になっている必要があります。特に3月から5月にかけて行われるテストイベントについては、競技特性によって異なるコロナ対策を検証する大切な意味合いがありますので、テストイベントが行えなければ、いわばぶっつけ本番でオリンピックを迎えざるを得なくなってしまうのです。また、6月末までとなっている代表選手の選考も進めなければなりません。日本代表に内定している選手はまだ全体の20%程度、世界的にも代表選考が進まない状況は同じです。日本以上に感染拡大が深刻で、外出が厳しく制限されている国もありますから、世界各地域での予選や、代表選考につながるランキング対象の国際大会は開催できるのか。できない場合、代表選手はどう決めるのか。また、大会の医療体制の構築も今のコロナ禍でなかなか思うように進んでいません。組織委員会だけでなく、IOCやそれぞれの国際競技団体は、あと半年しかない限られた時間の中で、感染拡大状況をにらみながら、こうした課題をひとつひとつ解消しなければならないのです。

【道のりは厳しいがそれでも】

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もちろん東京オリンピックは、半年後に今のような感染拡大が続く状況では開催できないと思いますし、なにより国民、それに選手の大会運営への信頼がなければやはり開催は難しいと思います。ただ、「仮に中止になれば、日本経済に与えるマイナスの影響は計り知れない」と危機感をあらわにする組織委員会の関係者もいます。また、不安や懸念が払しょくできれば、「オリンピックを楽しみたい」と考える人は増えるのではないかとも思います。IOCや組織委員会は、徹底した対策の検討を続け、課題を克服しながら社会の理解と信頼を得る努力も続ける。大変なことではありますが、これが開催実現には、不可欠です。コロナ禍での生活がしばらく続く可能性がある中、どうしたら東京オリンピックを開催できるのか知恵を絞り、その過程で得た知見によって開催が実現できれば、スポーツや文化だけではなく、ウィズコロナでの社会全般の在り方にとって参考になるのではないかと思います。

(小澤 正修 解説委員)

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