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バリアフリー義務化 みんなの学校へ

竹内 哲哉  解説委員

今年4月から施行される改正バリアフリー法。この法律で初めて公立小中学校のバリアフリーが義務化されることになりました。学校のバリアフリー義務化の意義は何か。

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【義務化されてこなかった学校のバリアフリー】
Q.公立小中学校のバリアフリー、義務ではなかったんですね。

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A.バリアフリー法では、公共施設であってもバリアフリーを義務付けている建物とそうでないものに分けていますが、学校は義務付けの対象外。新築や改築などの時に車いすトイレやエレベーターなどをつける努力は求められていますが、法的拘束力はありませんでした。
A.また「障害のある子は施設が整備された特別支援学校で学ぶのが前提という文部科学省の考え方があったから」、と文部科学省の学校のバリアフリー推進会議に参加した東洋大学名誉教授の高橋儀平さんは指摘しています。

【義務化の理由】
Q.なぜ、いま義務化となったんでしょうか?

A.一つは、2014年に日本が批准した障害者権利条約のなかにある“インクルーシブ教育”、障害のある子もない子も一緒に学ぶという概念が、ようやく浸透し始め、重要だとされるようになったということ。
A.もう一つは2016年の障害者差別解消法の施行です。この法律では、障害者が社会的不利を受けるのは社会の問題だとされており、その障壁を取り除くのは社会の責務だと考えられています。
分かりやすくいうと、階段や段差で車いすが動けないのは本人の責任ではなく、それを作り出した社会の責任。なので、その障壁・バリアは取り除かなければならなくないということです。
A.実態としても、公立小中学校のおよそ8割に特別支援学級があったり、避難所としておよそ9割の公立小中学校が使われていたり、学校のバリアフリーは必然性が増したと言えます。

【バリアフリーの現状】
Q.現状、公立小中学校のバリアフリーはどうなっているんでしょう。

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A.去年5月、初めて文部科学省は全国の公立小中学校のバリアフリー化について調査を行いました。これによると、
2階建て以上の校舎がある学校でエレベーターが設置されているのはおよそ26%。
車いす利用者が使えるトイレが校舎に一つ以上ある学校がおよそ65%。
校舎の出入り口から同じ校舎にある教室までスロープなどによって段差が解消されている学校が、およそ57%となっています。
ただ、エレベーターはすべての校舎についているということを示していませんので数字以上に進んでいないのではないか、との指摘もあります。

【2025年度末までの目標】
Q.いつまでに整備されるんですか?

A.2025年度末までに目標値では、
エレベーター40%。
車いすトイレ95%。
スロープなどによる段差解消は100%となっています。
エレベーターは、ほかの設備に比べ費用がかさむなどの問題もあるので、優先順位をつけてと行うということですが、移動に配慮が必要な子や教職員がいる学校についてはすべて整備するとしています。また、新入生に移動の支援が必要な子がいる場合も設置を求められていますので、目標値以上に整備が進むことが期待されます。

Q.整備資金はどうなっていますか?

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A.文部科学省はバリアフリー化を緊急かつ集中的に整備を行っていくということで、改修の国の補助をこれまでの3分の1から2分の1に引き上げるとしています。これらを含めた学校設備の整備における新年度の予算要求は今年度のおよそ2倍(1295億円)としており、これまで以上の本気度がうかがえます。

【ほかにも進められるバリアフリー】
Q.整備はエレベーターとか車いすトイレだけでしょうか。視覚や聴覚などそのほかの障害のある子たちについても何かありますか?

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A.義務化されてはいませんが、
視覚障害のある子には、点字ブロックや音声などによる案内の設置。
聴覚障害のある子には、緊急時であることを光が点滅することで知らせる警報装置や、補聴器や人工内耳を使っている人が、音や声をより聞き取りやすくする設備の設置。
発達障害などの子がパニックになった時に、落ち着くためのスペースの設置など、障害の特性を踏まえて設備を整備していくことも求められています。

【設備整備で変わること】
Q.設備が整備されると変わることはありますか?

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A.なんといっても、地元の学校へ通えるようになるということです。これまでは親や本人が要望しても学校がバリアフリーでないことを理由に入学を断られるというケースは多々ありました。
A.そうなると、地元から離れたバリアフリー化された学校に通わなければなりません。これでは友達と一緒に登下校をしたり、学校が終わった後に遊んだりというごくごく当たり前の交友関係がつくれません。

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A.しかし、今後はバリアフリー化が義務化されますから、現状バリアフリーでないことは入学が断られる理由にはなりません。地元で学べるようになれば、先ほどお話ししたようなことも含め様々な経験ができるようになり、学校での生活だけに留まらない友人関係を作れる可能性が広がります。

【一緒に過ごすことが未来の社会を作る】
Q.竹内さんは車いすで生活を送っていらっしゃいますが、地元の学校では学べたんでしょうか?

A.私が小学校に入学したのは、もう40年以上前ですが、地元の学校で学ぶ障害のある子はほとんどいませんでした。私も地元の小学校に通うためには松葉づえで歩けることが最低条件でしたから、1年8か月のリハビリによって歩けるようにして入学しました。

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Q.これ、当時の竹内さんですか?

A.授業はもちろんですが、運動会や遠足などの学校行事はほとんどすべて参加しました。バリアフリーの学校だったら、もっと生活は楽だったと思いますが、友人や先生の支えがあって楽しく過ごせました。「竹内と付き合ったことで障害者への壁がなくなった」という友人もいますし、その経験がいまの生活につながっていると思います。

Q.日常の交流が大事だということですね。

A.日常的に障害のある子と一緒に過ごせば、当たり前に、普通に接することができるようになります。そのなかで障害のある子はどういう手助けをしてほしいか周りに伝える術を学びますし、障害のない子はどんな配慮が必要かを考え工夫するようになります。
A.たとえば視覚障害の子がいれば、日常的に声をかけて誘導する仕方を当事者から教わりながら学ぶことができます。聴覚障害の子がいれば、手話を覚えるかもしれませんし、ノートを貸すなど聞こえないことを助ける支援を当たり前のようにできるようになれると思います。それは、学校を卒業して社会に出てもきっと役に立つはずです。

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A.学校のバリアフリーの義務化は遅きに失した感はあります。しかし、幼少期から障害のある子とない子が一緒に過ごせる学校になれば、共生社会とか多様性を認め合う、といった言葉を使わなくても、人を人として尊重しあえる未来を創れるのではないでしょうか。

Q.そういう意識が芽生えると良いですね。

A.今回の指針では学校施設の整備は一人一人に対応したサポート体制と連携させることが重要とされており、ハード面と合わせて人的支援も含めたソフト面の整備も求められています。“仏作って魂入れず”にならないよう、誰もが学べる学び舎になっていくことを期待したいと思います。

(竹内 哲哉解説委員)


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