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「どうなる?不妊治療」(くらし☆解説)

藤野 優子  解説委員

くらしきらり解説です。
政府が少子化対策の柱の一つに掲げている「不妊治療への支援」。
今月から、治療を受けている人への支援が強化され、今年、公的な医療保険で受けられる治療の拡大に向けた議論も本格化します。藤野解説委員です。

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【不妊治療のいま】
不妊治療を受けた経験のあるカップルは5~6組に1組。背景には結婚や出産が遅くなっている事もありますが、高度な不妊治療を受けて生まれてくる子どもも、一年に生まれる子どもの6%あまりを占めています。ただ、高度な治療ほど費用が高く、経済的な理由で治療を諦める人も多いのが現状です。

そもそも不妊症というのは、健康な男女が避妊をせずに1年以上妊娠できない場合とWHOなどで定義されていて、原因も男性・女性半々といわれています。

治療法は様々あるのですが、大きくわけるとこのようになります。
一般的な検査・原因の治療が行われ、「タイミング法」「人工授精」「体外受精」「顕微授精」と下にいくほど高度になっていきます。「男性の不妊」に対する治療もあります。
ただし、保険で受けられるのは「一般的な検査・原因の治療」と「タイミング法」まで。「人工授精」「体外受精」などは保険外で基本的に全額自費となっています。

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【費用はどのくらい?】
体外受精は一回につき平均およそ38万円。顕微授精は43万円。ただ、費用に開きもあって、体外受精は1万円余り~110万円。顕微授精は6万円弱~115万円。
このように費用に開きがあるのは、治療法や使う薬の種類、量の違いにもよるのですが、自由診療で病院ごとに価格が決められていることもあります。患者団体の調査によると、治療費の総額が100万円以上かかった人は半数を超えています。

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【なぜ、保険対象になっていないものが多いのか】
政府が不妊を疾病とは認めてこなかったことが大きな理由としてあげられます。高度な不妊治療は、希望を叶える医療で病気を治すものではないと話す医師もいます。
しかし、高度な治療を受ける人は毎年増え続けていて今45万人以上。保険の対象を拡大してほしいと患者からの強い要望もありました。
そこで政府は今月から、高度な治療を受ける人への助成金を拡充し、来年4月からは国の医療保険で受けられる治療を増やす方針を決めたのです。

【助成金はどうなる?】
1回の治療につき30万円までとなります。
これまで所得制限がありましたが、これは撤廃されます。回数も、これまでは生涯6回でしたが、子ども一人あたり6回までになります。また、事実婚のカップルも対象になっています。こうした内容を盛り込んだ補正予算案が国会で成立した後、今月終了する治療分から増額となります。
ただし助成をうけられるのは、女性の年齢が42歳まで(43歳未満)。ここは、これまでと同じです。年齢が高くなると治療しても妊娠できない確率が高くなるため制限が設けられています。ただし、これらの支援は、保険で受けられる治療が拡大されるまでの一時的な対策。

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【来年からの保険対象の拡大の内容は、いつごろ決まる?】
専門医でつくる学会が治療のガイドラインを作成した後、今年秋ごろから政府の審議会で本格的な検討が始まり、来年の年明けに内容が決まる予定です。
審議会では、▼どの治療法を保険対象にするかに加えて▼年齢制限、回数制限をどうするか、▼それぞれの治療の価格、▼保険財政への影響(保険対象の治療が増えるとそれだけ保険料などの引き上げにもつながるので、財政への影響も試算される)などが論点になるとみられます。

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【助成金ではなく、保険対象を拡大するメリットは?】
保険の対象になると治療費の3割で済むようになるので、経済的な理由で治療を諦めていた人、特に若い世代が治療を受けやすくなるといわれています。
価格も治療方法や検査ごとに統一されることになります。
また患者団体からは、国が治療の中身をチェックできるようになり、病院ごとの治療の質のばらつきも改善されるのではないかと期待する声もあります。

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【心配な点・治療の質の低下も?】
しかし、心配な点もあります。
一つは、これまでのように、それぞれのカップルの条件にあわせた柔軟な治療が受けにくくなるのではないか、という懸念が患者や医師から出ています。
実は、保険診療というのは、有効性や安全性を確認して、治療のやり方や使う薬などに関して標準的なルールが決められます。これは、国の医療保険は国民が支払う保険料や税で運営されているからです。
ところが、専門の医師の話では、不妊治療は、それぞれのカップルの組み合わせによって有効な治療法が異なるため、長年、自由診療で海外の先進医療などもいち早く採り入れてそのカップルに応じた治療を行ってきたというのです。
このため、保険診療になって標準的なルールが決められると、治療の自由度が失われ、質が低下してしまうのではないかという懸念が出ているのです。

【負担増になるケースも?】
二つめは、保険外の治療や保険外の薬が必要なカップルにとっては、助成金がなくなると全部自費になってしまうので、かえって負担増になってしまうのではないかという心配もあります。政府は、保険外の治療であっても、一定程度の安全性、有効性があると判断されるものについては、保険診療と組み合わせて受けられる制度の活用を検討していますが、負担増になるケースは少なくないと見られています。

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今、治療を受けている人への影響の大きさを考えると、丁寧な制度設計が必要だと思います。例えば、保険対象を拡大した後も、当面は助成金を残して、保険でカバーする部分を段階的に増やしていくことも混乱を避ける一つの案ではないかと思います。

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【不妊治療にはこの他の課題も】
また、患者の人たちの話を聞くと、経済的な問題の他にもいろんな問題があります。
頻繁に通院が必要になるので、治療と仕事を両立できるような休暇制度を整えることや、病院ごとに治療方法が違うので病院選びも大変難しいとのことで、治療を希望する人が安心して病院を選べるような情報の開示の方法なども考える必要があると思います。

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それに、不妊治療を受けている人は、若い時に仕事が忙しかったことや経済的な理由で出産のタイミングを遅らせてきた人も多いのです。
▼希望する人が若いうちに子どもを産んでもキャリアを築けるような環境づくりや▼子育ての費用に対する経済的な支援こそが少子化対策であって、今回の不妊治療への支援をきっかけにそうした対策にももっと力を入れてほしいと思います。

(藤野 優子 解説委員)

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