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「どうする? コロナ禍の認知症介護~暮らしを守るには~」(くらし☆解説)

飯野 奈津子  専門解説委員

新型コロナウイルスの感染が急拡大する中で、認知症の人や介護する家族の不安が強まり生活を揺るがしています。感染対策とケアを両立しながら、どう暮らしを守っていくのか、担当は飯野専門解説委員です。

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Q1 認知症の人や介護する家族の生活、そんなに大変な状況ですか?

A1 はい。新型コロナへの対応をめぐっては、認知症であるがゆえの難しさもあって、本人や家族は厳しい状況に直面しています。きょうは自宅で過ごす認知症の人たちについて、本人や家族を対象にしたアンケートなどから見えてきた課題を考えていきます。その課題。大きく3つあります。

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感染予防の実践が難しい、認知症の症状が悪化している、本人や家族が感染した時の対応に不安、この3つです。まず、感染予防の難しさです。

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認知症が進み、感染予防の必要性が十分理解できないような場合は、マスクをするのを嫌がってはずしたり、手を洗うように言っても忘れたりすることがあります。そのためにデイサービスなどの介護サービスの利用を控えるよう求められたり、外出した時にマスクをしていないと、周りから冷たい目でみられ、注意されたりすることもあるといいます。その結果、家に閉じこもることが多くなって、孤立感を深める状況に陥っているのです。

Q2 マスクや手洗いができないと、感染への不安が大きいでしょうし、家に閉じこもってばかりだと、ストレスもたまりますね。

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A2 そうした状況が長く続いていることが、二つ目の課題、認知症の症状の進行につながっています。それを示すデータがあります。
介護サービスの制限など生活が変化したことで、認知症の人にどんな影響が出ているか、在宅で暮らす人の支援にあたる全国のケアマネージャーにきいたところ、4割近い人が、影響が出ていると答えています。その主な内容をみると、認知機能の低下や暴言・暴力、妄想などの行動心理症状の出現、悪化など、認知症状の悪化を示すものが多く、身体機能が低下していることを示す内容も目立っています。

Q3 高齢者が、自宅に閉じこもってばかりいると、筋力や認知機能が衰えるという話をききますね。

A3 その中でも、とりわけ認知症の人は生活環境の変化に弱いとされていますから、介護サービスが受けられなくなったり、外出できなくなったりして、生活のリズムが崩れると、身体機能だけでなく心も不安定になりやすく、それが症状悪化につながっている可能性があると専門家は指摘しています。
そして3つ目の課題。第3波ともいわれる感染拡大の中で、家族がもっとも不安に感じているのが、本人や家族が新型コロナに感染した時の対応です。

Q4 感染した時の対応。具体的にどういうことですか?

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A4 ひとつは、認知症の人が感染した時、すぐに入院先が見つからないのではないかという不安です。環境の変化に弱い認知症の人が入院すると、認知機能や心理状態が不安定になりやすいので、対応が大変だからと受け入れに消極的な病院もあるからです。実際新型コロナに感染した人が、認知症を理由に入院を断られ、入院先を探すのに2日も3日もかかったというケースも出ています。

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もうひとつは、家族が感染した場合です。家族が入院すると、自宅に残る、感染が確認されなかった認知症の人を誰が看てくれるのかといった不安があるのです。普段は家族が急病になったら、一定期間介護施設に滞在して看てもらうこともできます。ですが新型コロナの場合は、本人が感染していなくても濃厚接触者なら、2週間の自宅待機を求められ、そうしたサービスの利用が難しくなっているのです。家族に代わる介護の支援がないと、本人の命に関わることになると、不安が広がっています。

Q5 本当に深刻な問題ですね。そうした不安を取り除く方法はないのでしょうか。

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A5 いくつかの自治体で、認知症の人や家族を支援する取り組みを始めています。
まず、認知症の人が新型コロナに感染した場合の対応です。
広島県では、今月から、コロナに感染した疑いのある、認知症の人など自宅で過ごす精神疾患のある人への対応を始めています。
本人の精神症状の重症度とコロナによる肺炎の重症度に応じて、適切な対応ができる病院をあらかじめ決めておいて、そこで受け入れようというのです。県内の精神科の医師がいる病院とコロナに対応する病院、行政も連携して実現したということです。

Q6 こうした体制があれば安心ですね。家族が感染して、濃厚接触者となった認知症の人が自宅に取り残された場合は、どんな支援があるのですか?

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A6 大阪の堺市では、認知症だけでなく、介護が必要な高齢者や障害者のために、福祉的なケアが受けられる宿泊施設を設けています。同時に、引き続き自宅にいて訪問介護などのサービスが受けられるような支援も行っています。訪問する介護事業者に対して、堺市が、感染防止の指導を行い、防護服や手袋、フェースシールドなどの物資を提供。要介護者1人当たり15万円の協力金も事業者に給付しています。

Q7 認知症の人は環境の変化に弱いということですから、自宅で過ごせる状況なら、そのほうが有り難いですよね。

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A7 そう思います。どこに住んでいてもこうした支援が受けられるよう、それぞれの地域にあった取り組みを自治体で進めてほしいですし、自治体の取り組みが進むよう国のリーダーシップも欠かせないと思います。

Q8 新型コロナの感染が拡大する中で、認知症の人や介護する家族は、どんな点に気をつければいいですか?

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A8 日々の生活で心がけるポイントをまとめたパンフレットを広島大学や日本老年医学会などが作成して、ホームページで公開しています。ダウンロードして誰でも読めるので参考にしてほしいと思いますが、その中から4つポイントを紹介します。

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○本人の状態に合わせた感染予防の工夫。
マスクの着用や手洗いは大事ですが、無理強いすると本人が混乱することもあります。たとえば、手洗いを嫌がるなら手を握りながらアルコール消毒液を広げるのを手伝うとか、マスクを嫌がるなら、人通りが少ないところを散歩するとか、本人の状態にあわせた工夫が必要です。

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○小さな変化に気づいて、早めに医療機関を受診。
認知症の人は感染しても症状を自覚しにくく、体調の悪さを訴えるのが難しいこともあります。発熱や呼吸器の症状以外にも、食欲がない、ぼーっとしているなど,いつもと違う変化があれば、早めに医療機関を受診することをすすめています。

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○本人や家族が感染した場合の備えを。
感染は突然やってくるので、いざという時に備えておこうということです。連絡先や入院中に必要なことをメモにまとめたり、家族が感染した場合、誰がどのように本人の生活を守るか、あらかじめ検討しておくことも重要です。

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○できるだけ普段通りの生活を。
生活のリズムを整え、散歩にでかけるなど身体を動かし、親しい人との交流も続けるよう心がけます。それこが認知機能や身体機能の低下を防ぐことにつながるからです。

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そして、本人に暴言や暴力などいつもと違う行動がみられることがあるかもしれません。その背景には、本人の不安や混乱があるとされていますから、そんなことがあれば、何に困っているのか、じっくり本人の声に耳を傾けてほしいと思います。そして家族も困ったことがあれば、問題を一人で抱え込まずに、かかりつけの医師やケアマネージャーなど周りの人に相談してみてください。感染が広がって不安に思うことが多いでしょうが、上手に息抜きする方法を見つけて、どうにかこの厳しい状況を乗り越えてほしいと思います。

(飯野 奈津子 専門解説委員)

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