NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「聖火リレーはどうなるの?」(くらし☆解説)

小澤 正修  解説委員

来年に延期された東京オリンピック。12月15日で聖火リレーのスタートまであと100日となりました。オリンピックを象徴する聖火リレーはどうなっているのか。そして開催に向けての課題はなにか考えます。

201217_0.jpg

【国内聖火リレーの開始直前に決まった大会延期】
東京大会の開催延期が決まったのは、国内で聖火リレーが始まる2日前でした。聖火はギリシャのオリンピアで採火され、リレーも現地でいったんスタート。女子マラソン金メダリストの野口みずきさんが日本人最初の聖火ランナーを務めましたが、感染拡大が懸念されて途中で中止となりました。その後、聖火は日本に運ばれ、国内で聖火リレーが始まろうとした矢先、1年延期が決まったのです。聖火は、改めてギリシャで採火することはなく、国内で保管されることになりました。今は全国を回って展示され、来年2021年に聖火リレーが始まるのを待っている状態です。

【延期されたリレーは延期前の大枠を維持して実施】

k201217_01.jpg

来年の聖火リレーは、日数やルートなど延期前の計画を基本的に維持して実施することになっています。これを受けて、スタートまであと100日となった12月15日、聖火リレーが実施される859の市区町村が改めて発表されました。47の都道府県すべてで行われ、スタートはことしより1日前倒しになった来年2021年の3月25日。原発事故の廃炉作業の拠点となったサッカー施設「Jビレッジ」をスタート地点に、121日間かけておよそ1万人のランナーが聖火をつなぐ予定です。聖火リレーが実施される都道府県の順番も変更はなく、それぞれの都道府県の中での詳細なルートは2月中旬ごろに公表されることになっています。

【パラリンピックの聖火リレーも大枠は維持】

k201217_02.jpg

パラリンピックの聖火リレーは仕組みがオリンピックと異なりますが、こちらも延期前の計画と大枠は変わりません。パラリンピックではオリンピックの閉幕後、8月12日からすべての都道府県で採火が行われ、聖火リレーはその後、競技会場のある東京、埼玉、千葉、静岡の4つの都県で行われます。最終的に東京で、パラリンピック発祥のイギリス、ストークマンデビルで採火された炎とともに1つの聖火となる予定です。およそ1000人のランナーや3人1組で走る方式も、維持して実施されることになっています。

【最大のポイントは感染拡大をどう防ぐか】

k201217_03_0.jpg

聖火リレーの実施で最大のポイントになるのか、感染拡大をどう防ぐかです。感染防止対策の検討は今、徹底して進められています。まだ具体的な対応は決まっていませんが、政府、東京都、組織委員会での会議では、現時点でランナーやスタッフらの体調管理などは前提にした上で、沿道でマスクの着用を呼び掛けたり、聖火ランナーがほかの人と距離を確保して走行したりすることなどが方向性として示されています。聖火リレーの実施で感染が広がるようなことはあってはならないのはもちろんです。その時々の感染状況に応じた対応をどうとるのか、またタレントなどの著名人が聖火ランナーを務める時をはじめ、沿道に集まる人たちが「密」の状態になるのを防ぐにはどうすればいいのか、など課題は山積みです。組織委員会では近くガイドラインを策定して、各都道府県の実行委員会に示す予定です。

k201217_03_1.jpg

聖火リレーは本来、多くの人に参加してもらいたいものですので、難しさはあると思いますが、安全・安心な聖火リレーを実施するためには、細かいところまで想定した対策が必要だと思います。

【聖火リレー実施を目指す背景】

k201217_04.jpg

聖火リレーは、オリンピックの中でも数少ない全国の人が参加できるイベントです。延期を受けて組織委員会は当初、実は日程の短縮も検討していました。しかし、競技が実施されない地方を中心に「オリンピックに関わる貴重な機会なので従来通り実施してほしい」という意見が多く、延期前の計画が基本的に維持されることになったという経緯があります。オリンピックの競技が行われる自治体は限られていますが、聖火リレーが実施される市区町村は、全国のおよそ半数にあたります。組織委員会ではリレーの実施場所から車や電車などの交通手段で1時間以内の距離の人口は、日本の人口のおよそ98%だとしています。感染拡大につなげないことが前提ですが、本来の趣旨から考えると、聖火リレーは自分の住む町が世界とつながっていることを実感できるイベントなのです。

【前回の東京五輪で聖火リレーを体験した人は】

k201217_05.jpg

ソフトボール女子の日本代表監督を務め、シドニーオリンピックで銀メダルを獲得した宇津木妙子さんは小学5年生の時に前回昭和39年の東京オリンピックで聖火ランナーを務めました。宇津木さんは今でも聖火を持って自分の通う小学校の校庭を1周した記憶が鮮明に残っているということで、「あの経験でオリンピックという存在を強烈に意識したし、スポーツに取り組んで将来出たいと思った」と話しています。宇津木さんは、テレビを通して、バレーボールの“東洋の魔女“など、アスリートの活躍に胸を躍らせたそうですが、その思い出をうかがいながら、直接参加した聖火リレーも、選手たちの活躍と同じくらい人生に影響を与えたのだなと感じました。前回の東京オリンピックを体験した世代の方にお話しをうかがうと、聖火ランナーとして走ったり、沿道から応援したりしたことを一番の思い出にあげる人は、たくさんいます。

【聖火リレーの意義】

k201217_06.jpg

聖火リレーは、大会のシンボルである聖火を掲げることで、平和・団結・友愛といったオリンピックの理想を体現することが役目のひとつです。感染拡大の影響で先行きが不透明な今、聖火リレーにどのような意義があるのか。地域振興にくわしい日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介さんは、「全国で行われる聖火リレーは最もオリンピック精神を生かしたイベントと言える。“これからも楽しくやっていくぞ”という思いを込めて聖火リレーができるようになれば、小さくても地味でも意味がある」と話していました。

【実施に向け求められることは】
今後の感染状況によっては聖火リレーの実施に何らかの制限を設けたり、規模を縮小したりすることなど、難しい対応が迫られる可能性もあるかもしれません。「希望の道をつなごう」という聖火リレーのコンセプトを実現し、オリンピックの無形のレガシーを1人1人の心の中に残すためにも、まずは感染防止に向けた課題をひとつひとつ解消し、聖火リレーをどうしたら安全・安心に実施できるのか、検討し続けなければならないと思います。

(小澤 正修 解説委員)

キーワード

関連記事