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「求む!次世代日本人宇宙飛行士」(くらし☆解説)【取材後記あり】

水野 倫之  解説委員

野口聡一飛行士が宇宙滞在を初めて間もなく1か月。その活躍ぶりなどを見て宇宙飛行士にあこがれる人たちが今注目しているのが、13年ぶりの宇宙飛行士の募集。
どうしたら宇宙飛行士になれるのか、水野倫之解説委員の解説。

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野口さん宇宙に到着後すぐに任務について忙しい日々。
おもな仕事は実験と宇宙ステーションの運用で、今週は、新たに届いた実験装置で細胞の培養実験などを開始。そのかたわら、船内のようすなどをユーチューブで紹介してくれている。
その中には美しい地球の映像も。これを生で眺めることができるのは宇宙飛行士の特権で、あこがれる人も多いが、その宇宙飛行士についてJAXA宇宙航空機構が来年秋頃、若干名募集すると発表。
なぜ募集することになったのか。理由は2つ。

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まず日本がアメリカ主導の月探査へ参加を決めたこと。
アメリカは2024年に宇宙飛行士を月面に送り、その後各国と協力し継続的に月面で活動する計画を進めており、今週候補となる飛行士18人も発表。
日本も参加することを決めNASAと交渉中で、ステーションへの物資の補給などを日本が担うかわりに、2020年代後半にも日本人飛行士が探査に参加できる見通しが得られつつある。
ところが肝心な時に日本人宇宙飛行士が足りなくなってしまう。

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募集2つ目の理由となるが、高年齢化が進んでいるから。
日本の宇宙飛行士は、民間出身の秋山豊寛さんから始まって、シャトルに搭乗した毛利さんや向井さんらあわせて12人。
ただ毛利さん以降宇宙飛行士もJAXAの職員、60歳で定年なので、現役の飛行士は7人だけ、平均年齢は51歳。
NASAなどほかは平均年齢40歳代ですので、日本が最も高年齢化が進んでいる。
実際野口さんは今回55歳、日本人最高齢での飛行。
また今57歳の若田さんが2022年頃に、また56歳の古川さんが2023年頃宇宙滞在をすることが決まったが、いずれも還暦目前での飛行。
宇宙ステーションいつまで運用されるかはっきりしなかったこともあり、世代交代してこなかった結果、10年後には2人になってしまうことから、募集となったわけ。

新たな選抜について、JAXAは今後企業の人材育成のノウハウを活用して選抜すると説明し、詳細は決まっていない。
ただ前回油井、大西、金井の3飛行士の選抜試験をみると、宇宙飛行士にどんな資質が必要なのかが見えてくる。

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前回応募資格は理科系の大学を卒業し3年以上の研究開発の経験があることなどで、963人が応募。
で、このあと書類で英語力などが審査されて230人に。
次に、宇宙では実験をこなす必要があり、物理などの専門知識が問われ、50人に。
さらに100項目以上の医学検査や精神科医の面接があり、最終候補が10人に絞られた。
多かったのがパイロットで4人。油井、大西両飛行士もパイロット。
次に医師が2人。金井飛行士も医師。そして科学者、技術者が4人。

最終試験は宇宙ステーションの閉鎖空間を模したJAXAの施設で、2DKほどの狭いところに10人が1週間共同生活。
そしてカメラですべての行動や会話を、心理学や人間工学の専門家、それに現役の飛行士ら審査員がチェックし、その資質を見極めた。
まず候補者たちに与えられたのが、電子機器やブロックなどの部品。
候補者への指令は「心を癒やすロボットを12時間で作れ」というもの。
宇宙飛行士に求められる第一の資質はリーダーシップ。
アイデアが煮詰まったとき、チームをまとめていけるか見ようというもので、この時チームを引っ張った油井さんが高く評価。
一方で、小さなミスを指摘された候補者も。
全員がアルファベット順にゼッケンをつけることになっていたが、Hの候補者が横につけてしまいIに見えてしまっていた。
宇宙ではちょっとしたミスが命取りに。
審査員はゼッケンだからといってミスは良くないと評価。

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次に与えられたのは折り紙で、「鶴を折れ」との指令。
逃げ場のないステーションは大きなストレスがかかる環境で、それでもミス無く任務をこなさなければ。ストレスに強いことも資質。
鶴簡単そうに見えるが毎日1時間ずつ4日で100羽、計算上2分ちょっとで1羽、しかもきれいに折らなければならず、ストレスかかる中、ミスをする候補者がいないか心理学者がチェック。

さらには生活習慣の違いからステーション内ではいさかいが起きる可能性もあり、共同生活を円滑に進める力も問われた、その指令は「特技で仲間を楽しませよ」。
最も高い評価を得たのは大西さんで、ひとりミュージカルをやって皆の心をつかんだ。

このほかにも緊急事態に対応できるかなどの試験も行われ、最終的に3飛行士が選ばれた。
今回も同じような資質が問われることになるとみられるが、それに加え今回は月面で水を探査したり探査車を走行させたりという新しい任務が想定。
こうした様々な任務に対応できる幅広い能力も求められることになるとみられる。

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さらに飛行士には忍耐力も必要。
というのも選抜試験のあとも、2年間航空機の操縦や語学訓練が行われて正式に宇宙飛行士に認定され、その後も2年以上かけてステーション滞在に向けた技量を高める訓練が行われるので、宇宙飛行には最短でも4年。
実際には競争や巡り合わせもあって、野口さんも初飛行まで9年。13年かかったケースも。
このように宇宙飛行士も楽ではないが、人々に夢を与えることができる特別な存在なのは確か。
今回1年近い準備期間があるので我こそはと思う人は、まずは野口さんの活動をチェック。
JAXAも次世代にふさわしい多様性ある人材を選んでほしい。

(水野 倫之 解説委員)


■取材後記

放送でもお話しした通り前回応募したこともあり、今回の募集の発表をきいてぜひ解説したいと思っていました。当時を思い起こすと応募の関係書類を書くだけでもかなり時間がかかる作業で、例えば自分一人だけでこっそり応募するのは困難です。宇宙飛行士は命にかかわることもあるため自分に最も近い人、例えば家族が応募に対してどう思っているのかも書いてもらわなければならず意外と大変でした。
前回までは応募は理系に限られ、最終的にはパイロットや医師、技術者から多くが選ばれてきました。今回応募要件はまだ決まっていませんが、様々な背景を持った多くの人が応募できるような要件をJAXAには検討してもらいたいと思います。

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