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「対中感情悪化 日中のすれ違い」(くらし☆解説)

神子田 章博  解説委員

日本と中国の共同意識調査で、日本人の中国に対する印象が悪化していることがわかりました。神子田解説委員です。

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Q 神子田さん、この調査、どういうものなんでしょうか?

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A これは日本の民間団体「言論NPO」と、中国の外国向けの出版発行機関である「中国国際出版集団」が、毎年行っているものです。
今回は日本全国の1000人 中国の北京や上海など10の主要都市の1571人に有効な回答を得ているんですが、日本ではアンケート用紙を渡してあとで回収する方法で、中国では面談方式で行われました。

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 その結果なんですが、まず中国人に、日本への印象を聞いたところ、「良い、またはどちらからといえば良い印象をもっている」人の割合と、「良くない、またはどちらかといえば良くない」がいずれも去年と今年でほぼ変わりなかったのに対し、日本人に中国に対する印象を聞いたところ、「よい」のほうが去年は15%とただでさえ少なかったのに、今年はさらに5ポイント減って10%に減少し、悪いという人の割合は、去年の84.7%からさらに5ポイント増えて、89.7%に増えました。

Q 対照的な結果となっていますが、なぜ日本人の中国に対する印象が今年悪化したのですか?

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A 調査では、よくない印象の理由について複数回答で聞いているのですが、「尖閣諸島周辺の日本領海や領空をたびたび侵犯しているから」という理由を挙げた人が、57.4%と最も多く、去年に比べて6ポイント増えています。沖縄県の尖閣諸島周辺では、中国当局の船が領海に入ったり、領海のすぐ外側にある「接続水域」を航行したりしていて、このうち接続水域での航行日数は、今年過去最高に上っていますので、安全保障上の観点から、中国によくない印象をもつひとが増えているということのようです。

Q 「共産党の一党支配という政治体制に違和感を覚えるから」というのは、どういうことなんでしょうか?

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A はいこちらも、去年より4ポイント増えて47%に達しています。
背景には、中国が「香港国家安全維持法」の導入を決定し、香港政府当局が反政府的とみなす動きへの取り締まりを一段と強化したことがあります。政府に反対する立場の民主派の人たちは、これまでデモや集会などで民主化を求める声を上げてきたわけですが、こうした抗議活動はいまほぼ姿を消しています。こうした自由な言論が認められない政治体制への違和感がこの答えの背景にあると思います。
もうひとつ、私は、新型コロナウイルスの感染が中国の武漢市で始まった際の、中国当局の対応もこの数字に影響したのではないかとみています。

Q それはどういうことでしょうか?

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A 武漢では、発生当初の去年12月末、市内の病院の医師が「SARSのような病例、つまり感染力の強い症例が複数確認された」と、仲間の医師らにSNSを通じて発信し注意を促しました。ところがネットを監視していた当局が1月初めにこの医師を、デマを流したとして訓戒処分にしたのです。そして、武漢市内の正確な感染状況の公表が遅れたことが、感染を拡大させたと指摘されています。このことは、習近平指導部の言論統制の弊害を物語るものだという見方もあり、こうしたことも中国への印象を悪化させたと見られます。

Q 中国の人はこうした結果をどう受け止めているんでしょうか?
A 先月30日から今月1日にかけて、この調査を行った「言論NPO」などが主催して、日本と中国の有識者が日中の課題について議論するフォーラムが開かれました。

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その中で、この調査結果についても議論が交わされました。中国側の発言からは、日本人の中国に対するイメージが改善しないことを、かなり気にしている様子がうかがえました。中国の有識者の中には、日本の中国に対するイメージが悪いのは、メディアが、中国の悪い面をことさら取り上げて報道し、良い面をとりあげないからではないかという意見も出されましたが、これに対して日本の有識者からは、最近は日本以外の先進国でも中国に対するイメージが相当悪くなっているという指摘が出ました。中国側の有識者の中には、日本での中国でのネガティブな報道が多いことについて、政治家による働きかけが必要だ、という発言も出て、日本には言論の自由がありますから、これには私も強い違和感を覚えました。

Q 様々な価値観が違う日中両国ですが、今後どう変わっていくんでしょうか?
A 調査では日中関係向上のために何が有効か聞いたところ、日本と中国で意識の差がみられたなかの一つが、首脳間の交流についてです。
実は日本政府は去年大阪でG20サミットが開かれた際に、習近平国家主席を国賓として招く考えを示し、今年の桜の咲くころをめどに、習主席が訪日する方向で話が進められていました。ところが、コロナ禍で、この春の訪日は実現せず、現在宙に浮いた形となっています。

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この首脳同士の相互訪問について、両国の国民がどう考えているかと尋ねたところ、「新型コロナウイルス感染拡大が収束した後にすべき」とする人が日中とも同じくらいいたのですが、「両国間に様々な懸案がある今だからこそ、なるべく早く首脳の相互訪問を実現すべき」と答えた人が、中国側が30.7%なのに対して、日本側は18.8%。一方、「両国間に様々な懸案がある困難なタイミングなので首脳相互訪問はいったん白紙にすべき」と答えた人は、日本が15.9%、中国が9.5%でした。中国側のほうが日本に比べて早期の首脳の相互訪問をのぞんでいる人が多いように見えますね。

Q この違いの背景には何があるのでしょうか?
A 中国の人々が首脳の相互訪問の実施により前向きになっている背景には、中国政府の外交姿勢があると思います。中国はいまアメリカとの関係が悪化し、経済的にも悪影響が出ている中で、日本との関係を強化したいという思惑があるとみられます。一方、日本の人々は、中国当局の船が尖閣諸島周辺の領海に頻繁に侵入するというニュースが伝えられる中で、習主席の国賓としての来日に慎重な考えをもつひとが少なくないようです。
このようにすれ違いの多い両国関係なんですが、最後にこちらをごらんください。

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 これは中国の武漢市で感染拡大していたころに、日本からから贈られた支援物資の箱なんですが、ここに「山川異域 風月同天」という文字が書かれています。これは奈良時代、天武天皇の孫の長屋王が、当時の中国 唐の僧侶に送った袈裟に刺しゅうされていた文言だと伝えられていまして、山と川が異なるつまり違う国にいても 同じ空を見ていますという意味なんですが、中国の人はこの言葉を見て感激したということなんです。
 領土などめぐって簡単に乗り越えられない問題を抱える日中両国ですが、互いに引っ越しができない隣国で、経済も密接に結びついています。また感染症対策さらに環境問題など、お互いの経験や知見を寄せ合うことで解決の道が見つかる課題もあると思います。日中間の人の往来の本格的な再開は、コロナの収束を待たなければなりませんが、今後も地道に官民双方のレベルで交流を続けていくことが、両国の関係を安定したものとしていくための大事なカギになると思います。

(神子田 章博 解説委員) 

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