一日中、駅員がいない「無人駅」が全国各地で増えてきています。この駅の無人化、新型コロナウイルスの影響により鉄道会社が減収となっているいま、「無人駅」がさらに増えることを危ぶむ声もあります。駅の無人化は私たちの暮らしにどんな影響を及ぼすのでしょうか。
【増える無人駅・時間帯によって改札に人がいない駅】
Q.いま「無人駅」はどのくらいあるのでしょうか。
A.国土交通省によると、今年3月末の時点で全国に9465ある鉄道の駅のうち、48.2%にあたる4564駅が、無人駅だったということが分かりました。これ10年前は4120駅でしたから、400駅以上増えているんです。
Q.地図を見ると地方の割合が非常に高くなっていますが、東京や大阪といった大都市圏は少ない感じですね。
A.ただ、ここには含まれていないんですが“時間帯によって改札に人がいない”、つまり利用者が少ない時間、早朝や夜間、日中など、改札に駅員がいなくなってしまう駅もあるんです。
たとえば、JR東日本管内では、国立競技場の最寄り駅である千駄ヶ谷駅や信濃町駅のほか、1日の乗降者数の平均が5万人を超える国立駅など、東京駅から30キロ圏内に23か所、JR東日本の管内だと、およそ300あるということなんです。
【無人駅が増える理由とサービスの低下】
Q.なぜ、無人駅や時間帯によって改札に人がいない駅が増えてきているんでしょうか?
A.背景には、人口減少に伴い将来的に鉄道利用者が減ることや、併せて社員の確保が困難になるため限られた人的資源で鉄道網を整備・維持するということがあります。
ただ、無人駅になれば、これまでよりもサービスが低下することは否めません。例えば、急病のとき。駅員がいなければすぐには対応できませんよね。また、券売機の故障など機械のトラブルに対応できないことも想定できますし、ベビーカーで動いているときに助けが欲しくても、助けてもらえないといったこともあるかもしれません。ほかに治安の心配もありますよね。
【安全と利便性は確保できるか】
Q.いろいろ想像すると不便がありそうですね。
A.なかでも最も影響を受けるのは、列車の乗り降りに介助が必要な人、障害のある人たちです。どんな影響を受けるのかというと、大きく分けると2つあると思います。1つは「安全面」。もう1つは「利便性」です。
まず「安全面」についてです。これは特に視覚障害のある人に大きな影響があります。視覚障害者にとって駅のホームは「欄干のない橋」や「柵のない絶壁」といった形で例えられますが、日本視覚障害者団体連合によると、視覚障害者のおよそ4割がホームからの転落を経験しているといいます。
Q.先日も視覚障害者の方がホームに転落されて死亡されましたよね。
A.そうですね。事故が起きた東京メトロ東陽町駅は有人駅ですが、改札で駅員が白い杖を持っていた人に気づけなかったということです。駅員がいてもホームからの転落は起きるわけですから、無人駅だと尚更ですよね。
無人駅、インターホンがついていて、別の駅にいる駅員を呼び出して頼める仕組みになっています。しかし、そもそもインターホンがどこにあるか視覚障害者には分かりません。そのため機能していないという声もあります。
Q.そうなると、視覚障害者にとって、人がいることが駅を使う上で安全を確保するには大事なことなんですね。事前に連絡してということで解消できませんか?
A.おっしゃる通りです。安全確保のためには連絡するというのは必要なことだと思います。ただ、この事前連絡を求められるのは、「利便性」を大きく低下させます。
これは視覚障害者も車いすユーザーも変わらないのですが、たとえば「今日の何時」に「○○駅から△△駅」と連絡します。すると、駅員からは「ちょっと、調整します」と言われます。人がいればその場で対応できたものが、無人駅になったことで調整に30分とか1時間とか、場合によっては希望の時間に間に合わないなど、これまで以上に長時間待たされます。「利用するなら1日前に連絡して欲しい」というようなことを言われることもあります。
Q.それでは、急な予定変更とかできないですよね。
A.加えて「帰りの時間は?」と聞かれ、利用者は「帰りの時間…?」となるわけです。予定はしても変更は起こりますよね。仕事や勉強、買い物、そして通院など、生活が様々制約されてしまうんです。そして、これを鉄道を利用するたびにしなければならないのは、かなりの負担になります。
駅の無人化によって、大分市に住む吉田春美さん※ら男女3人は当初、利用使用していた駅の変更を求めたり、無人駅を急きょ利用しようとして断られたことから、今年9月「駅の無人化は移動の自由を侵害する」などとして、JR九州に対し訴訟を起こしました。
訴えについて、JR九州は「訴状の内容をしっかり確認し、真摯に対応させていただきたい」としていますので、今後の対応を注視したいと思います。
※吉田さんの「吉」は「土」に「口」です
【無人駅、ガイドライン策定へ】
Q.無人駅への対応、国はなにか対策を考えているんでしょうか。
A.今年5月に成立した改正バリアフリー法では、無人駅で鉄道会社が障害者のために取り組むべきガイドライン、たとえば、介助を希望する障害者に対しては乗降時にすぐに対応できる支援体制を整備すること、あるいは介助を必要としない障害者に対しては、一人で列車に乗り降りできるように駅やホームを整備するようにということが付帯決議に盛り込まれました。
先月には、国土交通省が駅の無人化に関して鉄道会社と障害者団体が参加する検討会を立ち上げ、来年の夏までに鉄道会社向けのガイドラインを作る方針でいます。
【安全と利便性をどう確保するか】
Q.安全と利便性が確保される方針がだされるといいですね?
A.安全を確保するのも利便性を提供するのも鉄道会社であり、公共交通機関としての責務があると私は思います。そして無人化するなら最低限バリアフリーは必須だと考えます。しかし、費用の面からすべての鉄道会社が整備するのは難しいというのも事実だと思います。だとすれば、ほかに方策を探る必要があると思います。
たとえばですが、JR九州は利用者から要望もあって宮崎県の川南(かわみなみ)駅で、初めて自治体の職員が対応できるようにしました。これまで安全性を理由に車いす利用者の乗降の介助を認めてこなかったんですが、条件として、JR九州が定めているマニュアルに沿って研修を行うなどすることで可能にしました。時間的制約などがあり、利便性が十分に確保されているとは言えませんが、地域の実情にあわせて、自治体や民間企業と業務提携する。あるいは、都市部であれば学生ボランティアなどとも協力体制を組むのは検討の余地はあると思います。ただ、これだけでは解決できない課題もあるでしょうから、より最善な策を講じていく努力を鉄道会社には求めたいと思います。
Q.私たちにもできることはありますかね。
A.欧米のように周りの人が、支援が必要だと感じた人に声をかけ、手を貸す意識を持てるようになる。そして、障害者も受け身ではなく助けを求められるようになる。そうなることで、誰もが安心して自由に使える鉄道への一助となるのではないでしょうか。
(竹内 哲哉 解説委員)
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