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「ガソリン車が消える? 近づく脱炭素社会」(くらし☆解説)

二村 伸  解説委員

地球の温暖化を防ぐために菅総理大臣は2050年までの脱炭素社会の実現を宣言しました。そのためには電気自動車など温室効果ガスを排出しない車の普及が不可欠です。脱ガソリン車の動きが進む世界の動きと日本の今後を考えます。

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Q.ガソリン車が消えるというのは衝撃的なタイトルですが、近い将来現実となるのでしょうか?

はい。10年から15年後には新車の販売店からガソリン車が消える国も少なくないようです。

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イギリス政府は先週17日、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を2030年までに禁止すると発表しました。当初2040年としていた目標を今年2月に2035年に前倒ししたばかりですが、今回さらに5年早める野心的な方針を打ち出しました。発表ではハイブリッド車も2035年までに禁止するとしています。その前日にはカナダのケベック州が2035年までのガソリン車の新車販売を禁止すると発表しました。
それだけではありません。すでにこれらの国や地域でガソリン車の規制が打ち出されています。

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Q.けっこう多いですね。

これはICCT・クリーンな輸送に関する国際委員会が作成したリストの一部です。ガソリンやディーゼル燃料の軽油など化石燃料を使った車を禁止する動きは5年ほど前に環境保護に熱心な北欧で始まり、ノルウェーでは2025年までに禁止することで主要政党が合意しています。地図には政府の最終決定ではないものも含まれていますが、アイスランドやスロベニアなどでも2030年まで、フランスは2040年までに新車販売を禁止する方針です。アメリカもカリフォルニア州が2035年にはプラグイン・ハイブリッド車も含めて禁止すると発表しました。欧米だけではなく、インドも2030年までにガソリン車とディーゼル車を禁止する方針を打ち出し、世界最大の自動車市場である中国も2035年までに新車の販売を電気自動車や燃料電池車、ハイブリッド車など環境への負担が少ない車に限定する方向で検討が進められています。中国は世界の電気自動車の4割近くを生産し、燃料電池車にも力を入れています。こうした各国の脱ガソリン・ディーゼル車の動きは、パリ協定を受けて二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量削減を迫られていることが背景にあります。

Q.ガソリン車やディーゼル車をすでに持っている人はどうなるのですか?

禁止されるのはあくまでも新車の販売で、今買ったばかりのガソリン車が10年や15年後に運転できなくなるわけではありません。中古車の販売も対象から外れます。
ただ、ディーゼル車は多くの都市で走行が禁止されます。パリやマドリード、アテネなどで2025年までに市内の走行が禁止され、アムステルダムは2030年にディーゼル車、ガソリン車ともに市の中心部の走行が禁止されます。

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Q.日本も禁止されるのですか?

日本政府はガソリン車やディーゼル車の販売禁止は今のところ打ち出していませんが、2050年に脱炭素社会を実現させるには二酸化炭素を排出する車の販売だけでなく使用もできなくなると考えられます。ただ、当面は燃費を向上させることで排出量を減らすことに重点を置き、燃費規制を今のリッター20キロから2030年度には1.5倍に引き上げる方針です。これも簡単に達成できる数字ではありません。

Q.ガソリン車やディーゼル車に代わる車と言えば、ハイブリッド車は街中でもときどき見かけますが電気自動車はあまり見ませんね。

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電気でモーターを動かして走行する電気自動車と、水素をエネルギー源にして発電しながら走る燃料電池車が、走行中に温室効果ガスを出さない、いわゆるゼロ・エミッション・カーです。この他、ガソリンを燃焼させてエンジンを動かし走行中に発電された電気で走行するハイブリッド車や、電気自動車のようにバッテリーを外部電力で充電し、必要に応じてガソリンで走るプラグイン・ハイブリッド車、これらが環境への負担が少ない電動車です。経済産業省によれば、新車販売台数のうち電気自動車とプラグイン・ハイブリッド車は、去年は全体の1%にも満たなかったのですが、2030年には20%に、燃料電池車も2033年には3%に増やしたいとしています。

Q.電気自動車や燃料電池車はなぜ増えないのでしょうか?

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3つの要因があげられます。
▼1つは、充電施設などインフラの整備が追い付いていないことです。電気自動車の充電スポットは全国で増えていますが、マンションやアパートなど集合住宅に設置するのは簡単ではありません。燃料電池車となると水素ステーションは全国で120~130か所にとどまっています。
▼次に車両価格の高さです。国の補助金を引いても電気自動車は300万円を超え、燃料電池車となると500万円以上します。電気自動車の価格の3分の1はバッテリーです。また、燃料電池車は水素と酸素を化学反応させる際の触媒にプラチナを使うために価格が跳ね上がります。政府は電気自動車への補助金を引き上げる方向で検討を始めましたが、量産化によってバッテリーがどれだけが安くなるかが普及のカギです。
▼3つ目は走行距離です。燃料電池車は短時間の充電で600キロ以上走行できるのですが、電気自動車はガソリン車の半分にも及びません。世界で最初に量産化された電気自動車三菱アイ・ミーブは11年前に販売を始めて以来、販売台数は2万3千台にとどまっています。車自体の評価は非常に高いのですが販売台数が伸びなかったのは満充電しても百数十キロしか走行できないことが大きな要因と見られます。

Q.そうした状況でガソリン車とディーゼル車の新車販売禁止は可能なのでしょうか。

ヨーロッパではノルウェーのように電気自動車が全体の4割をこえている国もあり可能でしょう。ただ、アフリカやアジアの多くの国では完全に禁止されるのはまだ先ではないでしょうか。日本も二酸化炭素の排出量のうち車などの運輸部門が占める割合は2割弱で、ガソリン車の販売を禁止するだけで脱炭素社会が実現できるわけではありません。電気自動車の電気も再生可能エネルギーによって生み出される必要があります。脱ガソリン車だけでなく社会全体の改革の中でクリーンな車の開発・普及に取り組んでいくことが重要だと専門家は話しています。

Q.日本の自動車メーカーは難しい対応を迫られそうですね。

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日本の各メーカーはこのように電気自動車や燃料電池車、ハイブリッド車などいわゆる電動車の販売目標をこのように掲げ、電動化が進んでいるヨーロッパや中国などを中心に生産や販売を強化することにしています。これに対し、ドイツの各メーカーはガソリン車廃止の時期を設定し電気自動車への転換を急いでいます。今後競争が激しくなるだけに生き残りには各メーカーの努力にまかせるだけでなく日本全体での取り組みが求められます。

Q.新型コロナウイルスで経済が低迷し環境対策まで手が回らないので?

発想を変える必要があります。経済を回復させるために何に重点を置くか、環境政策に投資することで新たな職が生まれるとともに、世界の自動車産業のけん引役となり続けることもできるのではないでしょうか。

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EUはコロナ後の経済復興で環境政策を最重要項目に位置付けています。それがグリーンリカバリーです。日本も経済の立て直しと脱炭素社会の実現に向けて電気自動車や燃料自動車などの普及にこれまで以上に力を入れることが重要になっています。同時に私たちも車の購入や利用にあたって常に環境への影響を意識することがたいせつだと思います。

(二村 伸 解説委員)

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