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「どうする?子宮頸がんワクチン ~今知っておきたいこと~ 」(くらし☆解説)

飯野 奈津子  専門解説委員

子宮頸がんの予防を目的にしたワクチンを知ってもらおうと、国が新たにリーフレットを作り、接種の対象となる人たちに送り始めています。ワクチンの効果やリスクを巡る新たな情報を紹介しながら、このワクチンとどう向き合えばいいのか考えます。

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Q1 私の友達にも子宮頸がんにかかった人がいますが、女性にとって本当に怖い病気ですよね。

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A1 年間およそ1万人の女性が子宮頸がんにかかり、およそ2800人が命を落としています。他のがんに比べて比較的若い世代の患者も多く、治療のために子宮を失って妊娠できなくなってしまうこともあるんです。この病気、多くの場合、ヒトパピローマウイルスというウイルスに感染することで発症します。

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ワクチンはそのウイルスの感染を減らすもので、頭文字をとってHPVワクチンと呼ばれています。2013年の4月から、法律で定められた「定期接種」になっていて、接種の費用は公費で補助されます。対象は小学6年から高校1年までの女の子。このウイルスは主に性行為によって感染するので、そうした経験をする前に接種するのが望ましいとされているからです。
定期接種であれば通常、国が接種をよびかけますが、このワクチンでは「積極的な勧奨」は控えられています。ワクチン接種後に、長く続く全身の痛みや手足の運動障害など、副反応が疑われる症状を訴える人が相次いだためです。定期接種が始まってわずか2か月で、「勧奨を差し控える」という異例の措置がとられ、今もその状況が続いています。その結果、70%以上あったワクチンの接種率は、1%程度にまで激減。接種を促す通知が来ないので、自分が定期接種の対象であることやワクチンの存在すら知らない人も増えています。

Q2 この7年余りの間に、新たにわかってきたことはあるのでしょうか。

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A2 最も大きいのは、ワクチンの効果がより確かなものになってきたことのように思います。
このワクチン、世界の国々で評価されていて、WHO世界保健機関が推奨していますし、100か国以上で公的な予防接種に導入されています。
◎その中で先月、医療関係者から注目される研究成果が公表されました。スウェーデンで167万人の女性を対象に、ワクチン接種と子宮頸がん発症の関係を分析したところ、接種した女性の発症リスクが63%下がったというものです。
ウイルスに感染してがんになるまで時間がかかるので、感染が減ってもがん患者を減らせるところまで確認できていなかったのですが、実際に、がん患者を減らす予防効果が初めて示されとして、注目されているのです。
◎日本での新たな動きとしては、今使っているワクチンより効果が高いとされる新しいワクチンが、今年7月に承認され、定期接種で使えるよう検討が始まっています。
この新しいワクチンも無料で受けられるようになるかもしれません。

Q3 一方で安全性はどうなんでしょう。日本で積極的勧奨をやめるきっかけとなった接種後の副反応が疑われる訴えが気になります。

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A3 問題になったのは、全身の痛みや歩行困難、睡眠障害や記憶障害など多岐にわたる症状です。今もこうした症状が続き、学校をやめたり就職できずにいたり、将来に不安を抱えている人もいます。彼女たちはこうした症状はワクチンの成分のせいだと訴えていて、およそ130人が国と製薬会社を相手に裁判で争い、国の積極的な勧奨の再開にも強く反対しています。
これに対して、国は「国内外の研究をみても、ワクチン接種と因果関係があることは証明されていない」としています。つまり、因果関係があるという証拠も因果関係がないという証拠も、まだない状況だということです。

Q4 でも、こうした症状はワクチンを接種した後、出始めたのですよね。

A4 そうです。そのことを国も重視していて、「接種後の局所の痛みや不安などが症状をひきおこすきっかけになったことも否定はできない」としています。
このワクチンは他の注射より痛みが強いとされていますし、訴えている症状が十分理解されずに「心の問題」などとされてきたことが、不安を広げ症状悪化につながったという見方もあるからです。

Q5 その状況が変わらなけれは、これから接種する人たちも不安ですよね。

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A5 そうした不安を減らすためにも、国や医療現場での対応が重要です。
まず、注射の時の痛みや不安を軽減する対策です。医療現場を取材しますと、注射の前に接種場所を冷やしたり、細い注射針を使ったり、事前の説明を丁寧に行うなど工夫している医師もいます。そうしたところでは問題は起きていないということで、ぜひそうした取り組みを広げてほしいと思います。そして、何より必要なのは、今も続く症状に苦しむ人たちの原因を明らかにし、早く健康を取り戻せるよう、治療や生活の支援を強化することです。接種後に重い症状が出ても回復できる姿をみれば、私たちの安心にもつながります。

Q6 そうした状況の中で、実際に接種を受けるかどうか、判断しなければなりません。どう考えればいいのでしょうか。

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A6 個人にとっての効果とリスクを総合的にみて判断するしかありません。
まず、効果です。女性が一生のうちに子宮頸がんになる確率は1.3%。100人のうち1人位は、がんになるわけです。ワクチンによって、これを半分以下に下げられる可能性があるとされています。
一方のリスク。接種後に入院が必要になるような重い症状が起きる確率は0.05%。2000人に1人の割合とされています。この中には、接種との因果関係があるかわからないものも含まれていて、先ほど紹介したような多様な症状も入ります。
この二つの数字をどう考えるか。重い症状が起きる確率がこの程度なら、ワクチンを接種して、将来がんになるリスクを減らしたいと思う人もいるかもしれません。
一方、頻度が低いといっても、重い症状が出れば、その人にとっては、100%の確率です。健康な若い女の子は、将来かかるかもしれない病気のために、今の健康を損なうリスクは避けたいと、考えるかもしれません。

Q7 リスクを伴うワクチンを接種しなくても、がん検診を受けていれば大丈夫ということはないですか?友達にも検診でがんがみつかり、その後、無事出産できた人もいます。

A7 実は私も2年前に検診で初期の子宮頸がんがみつかって、治療をした経験があります。早期に発見できれば、治療は必要ですが、仕事に復帰できますし、お友達のように出産も可能です。ですが早産のリスクが高まるといわれていますし、検診でがんを見つけられる確率は7割程度、限界があることも確かです。

Q8 難しいですね。ワクチンを接種するかどうか・・・

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A8 まずは、情報を集めることですね。自治体から届くリーフレットには簡単なことしか書かれていないので、幅広くワクチンの情報を集めて、家族で話し合って納得して選択することが大事だと思います。
そして、ワクチンを受けるにせよ、受けないにせよ、大事なのは20歳になったら子宮頸がん検診を受けることです。検診も100%ではありませんが、定期的に受けることでがんやその前段階を早期にみつけて治療することができます。
私も経験してみて、本当に早期発見が重要だと身に染みて感じています。是非皆さんも検診を受けてほしいと思います。 

(飯野 奈津子 専門解説委員)

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