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クマ被害 過去最悪のペース 対策は

名越 章浩  解説委員

「クマ被害 過去最悪のペース 対策は」をテーマに、名越章浩解説委員が現状と対策を解説します。

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今年度、主に本州に生息するツキノワグマに襲われてけがをする人の数が多くなっています。

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NHKが、本州で出没が確認されている33都府県に取材したところ、ことし4月以降クマに襲われてけがをするなどの被害にあった人は、今月9日の時点で138人に上っていました。
去年の同じ時期を上回っていて、このまま増えると、環境省が統計を取り始めて以降最も多かった昨年度の154人を上回る恐れがあります。過去最悪のペースで被害が相次いでいるのです。
このため環境省は、10月30日、クマの出没情報を地域住民に速やかに伝える体制を整備したり、パトロールを強化したりするよう都道府県に要請しました。

【なぜ、人里へ?】
では、なぜクマは人里へ出てくるのでしょうか。

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クマは、「奥山」「里山」「人里」のうち、普段は、奥山と里山で暮らしていて、冬眠する前のこの時期、ドングリを大量に食べます。
しかし、今年は多くの地域でドングリが不作となっていて、えさを求めて人里へ出てきている、というわけです。

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また、根本的な問題もあります。
地方の過疎化や、耕作放棄地が増えたことで、クマが暮らす場所と人間社会の境界線のような役目を果たしていた「里山」の荒廃です。
荒廃すると、草木が生い茂り、その分ツキノワグマが移動しやすくなり、その結果人間との接点も増えていると考えられています。

専門家によりますと、クマは12月上旬から中旬くらいには冬眠に入るということで、地域によって差があるものの、それまでは警戒が必要です。

【対策 どうすればいい?】
では、どうすればいいのでしょうか。
今すぐにやるべきことと、中長期的にやることがあります。

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まず、今やることは、そもそもクマが出没しそうなところには立ち入らないことです。
必要がある時には、出会い頭の遭遇を避けるために、鈴やラジオなどの音が出るものを鳴らしながら、人間の存在をクマに知らせて欲しいと思います。
また、クマを人里へ誘い込むようなものを撤去してください。
例えば、生ゴミなどの臭いのする食べ物を外に置いておかないようにしましょう。
クマは、一度、えさがある場所を認識すると、何度もやって来る習性があります。
また、柿や栗の木があると寄ってきますので、収穫するか、放置されている木の場合、伐採することを検討してください。
10月、石川県のショッピングセンターに現れたクマの胃の内容物を調べたら、大半が柿の実だったそうです。食べ物に誘われて、どんどん市街地に迷い込んだ可能性があります。

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次に、中長期的にやることをお伝えします。
1つは、クマを誘い込むようなものの撤去について、自治体や地域ぐるみでできる仕組みを整えてほしいと思います。
例えば、福井県勝山市では、柿の木の伐採にかかる費用に補助金を支給しています。
また、自分でできない人に代わって、地区の役員が伐採を請け負う取り組みも行われています。
クマは活動範囲が広く、30キロ、40キロを移動することもありますから、出没する地域全体で取り組むべき課題だという意識が大事だと思います。

また「ゾーニング」という対策も進めて欲しいと思います。
里山をきちんと整備して、クマの生息域と人間の生活圏を分ける対策のことです。
例えば、秋田県鹿角市では、クマが身を潜めやすい「やぶ」を刈ったり、畑の周りに電気が流れる柵を設置したりする取り組みを進めています。
「ここから先は人間社会だよ」と分かるようなゾーンを作り、人との接点を無くすわけです。

それでも人里へ出てくる場合に備えて、最新技術を活用した出没情報の把握も検討してほしいと思います。
例えば石川県では、小型無人機のドローンを活用し、上空からパトロールをしています。
地元自治体が中心になって、今月から始めた取り組みです。

毎朝の通勤通学の時間帯、山あいと市街地の間のエリアの上空80メートルの高さからリアルタイムで映像を確認できます。

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ドローンには通常のカメラに加えて赤外線カメラも搭載され、温度変化を感知して木の陰などに潜むクマも発見できるということです。

【対策 地域で意識の違いも】
まさに対策には地域社会全体での協力が必要です。
ただ、こうした対策には地域によって温度差があります。

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NHKがツキノワグマの出没する30あまりの都府県を取材したところ、クマを引き寄せる柿の木の伐採や、やぶの草刈りに補助金を出すなど、具体的な支援策を進めているのは19の都県でした。
さらに、その支援策がある19都県のうち、13の都県は「地域によって差がある」や「進んでいない地域が多い」という回答でした。
要は、同じ県内であっても、クマがよく出る地域とそうでない地域の住民の間で意識の差があったり、少子高齢化などで地域の協力を得ることが難しいところがあったりするわけです。
地域の人たちがみんな納得するためにも、今のうちに話し合いを始めておく必要がありそうです。
この問題は、クマだけでなく、イノシシやシカなどの野生動物についても共通しています。
今後、人口減少が進み、里山の維持がますます難しくなる中、野生動物と人間がいかに共存していくか、私たち一人一人が社会問題と受けとめるところから始める必要があります。
今年度の被害件数の増加は、その検討を促す、きっかけになるのではないかと思います。

(名越 章浩 解説委員)

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