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「広がるか?裁判支援のクラウドファンディング」(くらし☆解説)

山形 晶  解説委員

インターネットを通じて不特定多数の人から資金を募る「クラウドファンディング」が広がっています。
最近では裁判の費用をクラウドファンディングで集めて支援しようという取り組みも行われています。
こうした動きは広がっていくのか、そして裁判を支援してほしい人や、寄付をする立場の私たちはどんなところに注意すればいいのかを考えます。

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【クラウドファンディングとは】
クラウドファンディングは、コロナ禍の中で医療機関や飲食店の支援にも使われるようになり、身近になってきました。

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このことばは、「Crowd(群衆)」から「Funding(資金調達)」するということから作られました。
一般的には、専門の事業者が窓口になって寄付を仲介します。
寄付文化が根付いている海外で始まり、インターネットの普及に伴って急速に広がりました。
日本でも東日本大震災をきっかけに普及してきたと言われています。

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さまざまな形の寄付がありますが、例えば、新製品を開発したいけれど資金が不足している企業が開発費用を募って、製品が完成したら出資してくれた人たちに提供するといったケースがあります。
これは新製品というわかりやすい見返りがあります。
裁判の場合はどうでしょうか?
裁判所に納める印紙代や弁護士費用などが必要なので、やはり何十万円、何百万円ものお金がかかります。
その費用を私たちが支援しても物理的な見返りはないので、少しイメージしにくいかもしれません。
ただ、裁判で取り上げられた社会的な問題に関心があれば、資金を支援するという形で社会に対して自分の意思表示をすることができるので、私たちにもメリットがないわけではありません。

【クラウドファンディングに向いている裁判とは?】
それでは、どんな裁判が向いているのでしょうか。
ポイントは、見返りがなくても、寄付をすること自体に意義を感じられるかどうかです。

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キーワードは、「公共性」と「共感」です。
「公共性」というのは「裁判の目的が公のもの」だということです。
「共感」というのは、多くの人がひと事ではないと感じるような内容だということです。

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具体的なケースのうち、特に多くの寄付が寄せられた例を見てみます。
「公共性」があると言えるケースは、同性どうしの結婚を認めるよう求めている人たちが国を訴えた裁判です。
全国5つの地裁で争われています。
形の上では原告たちが受けている精神的な損害に対する賠償を求めていますが、実際は、裁判に勝訴することで、国の制度を変えることが目的で、裁判に参加していない人たちにも関わる話なので、「公共性」があると言えます。
国が争っているので、訴えが認められるかどうかはわかりませんが、クラウドファンディングの事業者を通じて支援を呼びかけたところ、500万円という目標に対して、1000万円あまりが集まりました。
最近はLGBTの人たちに対する理解が急速に広がっていますから、そうした流れも寄付の後押しになったのかもしれません。

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「共感」を呼んだとみられるのは、刑事裁判で、いったんは有罪が確定したものの、えん罪かどうかが今も争われているケースです。
昭和54年に鹿児島県で42歳の男性が死亡しているのが見つかった「大崎事件」は、500万円の目標に対して1200万円あまりが集まりました。
昭和41年に静岡県で会社役員の一家4人が殺害された「袴田事件」も1000万円の目標に対して1800万円近くが集まりました。
これらは、裁判のやり直し、「再審」を求めているケースですが、弁護側が無罪を示す証拠を提出しなければならないので、専門家に鑑定を依頼したりするのに費用がかかります。
以前は弁護士が自費で支払ったりカンパを募ったりしていましたが、様変わりした感があります。
なぜこの2件にはこれだけの寄付が集まったのでしょうか。
共通しているのは、少なくとも一度は裁判所が無罪を示す証拠があるとして再審を認めていて、広く知られている事件だということです。
その後、再審を認めた判断が取り消されたので、最終的にどうなるかはわかりませんが、これだけの寄付が集まったのは、えん罪事件だと考えて、支援が必要だということに共感した人が一定数いるということだと思います。

【私たちが注意すべきは】

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いくつかのケースを見てきましたが、私たちが寄付をするとしたら、どんなところに注意すればいいのでしょうか。
やはり「公共性」、つまり多くの人に関わる社会的な課題の解決を目指す裁判、いわば「課題解決型」の裁判なのかどうか、というところが一番のポイントです。
こうした裁判は、国の制度や政策の是非を問うものが多いので、基本的な事実関係は明確です。
それなので、裁判を起こした人たちに共感できれば支援するし、共感できなければ支援しないということで、判断しやすいと思います。
ところが、多くの裁判は、個人や組織の利害に関わるトラブルです。
言い分が食い違っていると、第三者の私たちがどちらの言い分が正しいのかを判断するのは極めて困難です。
間違えて支援したら、後で「失敗した」と後悔することになってしまいます。
クラウドファンディングの事業者や団体をいくつか取材すると、やはり、公共性のあるもの、社会的な課題の解決につながるようなものを支援の対象にしているという回答が寄せられました。
そこで、今後、普及していくかどうかについて、クラウドファンディングに詳しい「日本ファンドレイジング協会」の鵜尾雅隆 代表理事に聞きました。
鵜尾さんは、課題解決型の訴訟は、社会的な弱者の立場に置かれている人たちが起こすことが多いので、資金の負担を軽くすることには意義があると指摘していました。
そして、今後の普及の「カギ」については、事業者が今のように社会的な課題に関する裁判を中心に扱うというのは、定着の上で重要だと話していました。

社会の仕組みや制度に関する課題を解決するのは、本来は行政や立法の役割かもしれません。
しかし、裁判をきっかけに解決につながったケースも過去にはいくつもあります。
今はSNSといったツールが発達しているので、その課題が多くの人に共感されるようなものであれば、多くの支援につながり、結果として、社会にとってプラスになるかもしれません。
ただ、やはり注意しなければいけないのは、私たちが望む形でその寄付金が使われるかどうかです。
前提となる事実関係が間違っていたり、意図的にうその説明がされていたりすれば、寄付の意味がなくなります。

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個人の利害に関するようなものは、寄付を求めている人や事業者の言っていることが信用できるかどうか見極めるのが難しいので、慎重に判断した方がいいと思います。
結局、裁判への支援が広がっていくかどうかは、これからクラウドファンディングがどう運用されていくのかにかかっていると言えるでしょう。

(山形 晶 解説委員)

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