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「コロナ禍での国内の映画祭」(くらし☆解説)

名越 章浩  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大で全国各地のイベントに影響が続く中、国内最大の映画祭「東京国際映画祭」が規模を縮小して開かれました。
「コロナ禍での国内の映画祭」をテーマに名越章浩解説委員が解説します。

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【中止や延期が相次いだ国内の映画祭】
映画祭は、国内外の映画を上映したり、シンポジウムなどのイベントを開いたりする映画の祭典です。
東京国際映画祭のほかにも、全国各地に個性的な映画祭が年間100以上開催されますが、今年は新型コロナの影響で中止や延期が相次ぎました。
こうした中でも国内最大の東京国際映画祭が、規模を縮小し開催できたということで、映画関係者や映画ファンは、胸をなでおろしました。

【規模縮小の東京国際映画祭】

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今年の東京国際映画祭は、例年のような豪華な「レッドカーペット」はなく、観客のいない場所で開幕を迎えました。
11月9日までの期間中に東京・六本木などを会場に、合計138本の映画が上映されましたが、去年より40本以上少ない数となりました。

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また例年であれば、『コンペティション部門』で最優秀賞などが競われますが、新型コロナの影響で海外の審査員を呼べないことから「取りやめ」となりました。
その代わりに、「TOKYOプレミア2020」と題した部門が設けられ、新作32本の中から観客が投票で「観客賞」を選ぶ方式となりました。
その結果、大九明子監督の作品『私をくいとめて』が受賞しました。

コロナ禍で設けられた「観客賞」でしたが、結果的に観客が選ぶ賞は、“観客と一体感がある映画祭”という温かみを感じさせてくれました。
受賞作で主演した、のんさんは「映画は観客の方々に見ていただいて、初めて完成するものだと思う」と語っていました。
コロナ禍だからこそ、映画祭の存在意義を見つめ直し、そして新たな東京国際映画祭らしさとは何かを追求していく良い機会になったのではないかと思います。

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映画祭アンバサダーを務めた俳優の役所広司さんも、開幕日に「今後もコロナと共存しなければならないとすれば、みんなで知恵を絞って映画祭を続けられるように頑張っていきたい」と、「共存」「知恵」というキーワードを使って語りかけていました。

【コロナ禍での映画製作を語るイベントも】

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映画祭では、映画の製作者や俳優がオンラインで対談するイベントなど、様々な取り組みもありました。
このうち、11月5日に開かれた文化庁との共催のシンポジウムでは、映画監督やプロデューサーの実体験が語られました。

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例えば、俳優の佐藤健さん、阿部寛さんらが出演する瀬々敬久監督の作品「護られなかった者たちへ」の福島大輔プロデューサーは、撮影が一時出来なくなった体験を語りました。

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この映画は、当初、4月3日にクランクインして5月中旬まで撮影する予定でした。
しかし緊急事態宣言が出そうな状況となって、クランクインの直前に撮影の延期を決定しました。
およそ100人のスタッフのスケジュールなどは、全て見直しました。

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そして6月20日にクランクインできたものの、感染リスクを少しでも下げるために撮影日数を当初の45日から2週間短くしたり、エキストラの人数を大幅に少なくしたり、市街地でのロケをやめたりしたそうです。
結局、この映画は、もともと今年12月公開予定だったのが、来年の後半までズレ込む見通しになりました。
撮影スケジュールや予算、撮影場所となる地域住民との接し方など、これまでの常識を変えていく必要性が、コロナと共存するうえでは不可欠になっているという教訓が、シンポジウムで語られていました。

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映画祭は、このような私たちの知らない苦労話を製作者から直接聞くことができ、それが映画祭の魅力の1つになっています。
映画祭に行けば、普段は観ないような映画に出会うことができますし、イベントで、映画を観客と作り手が交流して、新たなファンが生まれたりします。
そのファンが、また映画祭を盛り上げ、「映画文化」を次の世代へとつないでいくのです。

【地方の映画祭も試行錯誤】
では、地方の映画祭はどうなっているのでしょうか。
地方の小規模な映画祭は、映画を愛する地元の有志が手弁当で運営しているところも多く、映画の作り手と観客が一体となりやすい環境なのですが、ことしは新型コロナの影響を受けてしまいました。
それでも夏以降は、オンラインでの開催に踏み切るところが目立ち、最近は劇場を使った映画祭も増えています。

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例えば、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」や「京都国際映画祭」もオンラインを活用しました。
また、「なら国際映画祭」は、劇場での上映とオンライン配信のハイブリッド型で開催しました。
さらに、「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」は、一部の映画を「ドライブインシアター」で上映するイベントを開催しました。

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来週から始まる「広島国際映画祭」は、映画の上映は劇場で、座席の間隔を空け、換気・消毒を徹底しつつ開催。
また「神戸インディペンデント映画祭」や「東京ドキュメンタリー映画祭」なども、入り口での検温の実施などの対策を取りながら劇場上映の予定です。
いかに共存するか、それぞれが知恵を絞り工夫しているのです。
共通しているのは、コロナ禍であっても何とか映画を楽しめる環境を守っていこうという映画ファンの思いです。
では、なぜ守らないといけないのか。それは、映画祭が、映画ファンの集うイベントであると同時に、映画界の明日を担う新しい才能を発掘する場にもなっているからです。若いクリエイターが育たないと、将来、私たちの心に残るような上質な作品は生まれてきません。
そういう意味で、映画祭は、映画文化を支える土台でもあるのです。
新型コロナウイルスのさらなる感染拡大が心配される時期、引き続き万全の対策をとったうえで、しっかりとこの文化を守っていってほしいと思いました。

(名越 章浩 解説委員)

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