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菅政権初の本格論戦 国民の意識は

曽我 英弘  解説委員

11月のNHK世論調査がまとまった。菅政権は発足して2か月近くが経ち、アメリカ大統領選挙ではバイデン前副大統領が当選を確実にした。国民の意識はどうなのか。

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【アメリカ大統領選挙】

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世論調査は11月6日から3日間、全国の18歳以上を対象に行った。調査期間中、投票から4日が経った日本時間の8日未明に結果がようやく判明し、バイデン氏が勝利を宣言したが、トランプ大統領は訴訟で対抗する姿勢を示している。新しい大統領が決まらない異例の事態となっている状況が日米関係に及ぼす影響をどの程度懸念しているか聞いたところ「懸念している」は50%、「懸念していない」は40%だった。
混乱した事態が長引くことで、日本にとってとりわけ懸念されるのが安全保障面だ。いわゆる「権力の空白期間」を狙った中国による東シナ海や南シナ海での海洋進出や、北朝鮮のミサイル挑発などがそれにあたる。

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バイデン氏の当選確実が伝えられると菅総理は、数時間後には早速自らのツイッターでお祝いのメッセージを投稿した。2人は安倍政権で官房長官、オバマ政権で副大統領と同じ時期に政府の要職を務めた間柄だ。

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政策面でも地球温暖化問題にともに関心が高く、菅総理が表明した「2050年までに、温室効果ガスの排出実質ゼロ」には、世論調査でも6割余り(62%)の人が「評価する」としている。またバイデン氏も同様の目標を掲げ、大統領に就任したらトランプ大統領が離脱した「パリ協定」に直ちに復帰するとしている。

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個人的な信頼関係を構築し、日米共通の課題にともに取り組みたいというのが菅総理の考えで、バイデン氏と直接顔を合わせた会談を早期に実現するため、タイミングを探ることにしている。

【内閣支持率】

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菅総理が就任して2か月近くが経ち、内閣支持率は、「支持する」は1ポイント上がって56%、「支持しない」は1ポイント下がって19%で、10月からそれぞれほぼ横ばいだった。内訳を見ると、与党支持層からの支持は高い水準を維持しているものの、有権者の4割を占める「無党派層」は減少傾向が続いている(43%→41%)。また男女別支持で依然差があり、男性の6割近く(59%)が支持しているのに対し、女性は52%にとどまっている点も目を引く。

【日本学術会議】

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政策面で内閣支持率に影響を与えているとみられるのは、日本学術会議をめぐる議論だろう。発端は学術会議側が推薦した会員候補105人のうちいずれも人文・社会科学の学者6人が任命されなかったことで、事態が明らかになってから1か月以上が経つ。そこで菅総理のこれまでの説明は十分だと思うかどうか聞いたところ、「十分だ」は17%、「十分ではない」は62%で、与党支持層でも半数以上(56%)が「十分でない」と答えている。
野党側は、「任命を拒否した今回の政府の判断は違法」であり「学問の自由を脅かす重大問題だ」と対決姿勢を強め、今回の人事に関与した杉田官房副長官にも国会で経緯を説明するよう求めている。これに対し菅総理は、任命しなかった理由を問われ「人事に関することであり(答弁は)控えたい」としつつ、「法律に基づき適切に対応した結果」であり、政府の法案に反対したからというのは「あり得ない」としている。また「会員の大学などに大きな偏り」があり「閉鎖的で既得権のようなものになっている」という問題意識も明らかにした。
一方で政府・自民党が学術会議のあり方を検証することに「適切だ」と答えた人は45%に上り、「適切ではない」は28%だった。
今後の国会論戦でも、政府による人事権の行使の是非にとどまらず、学術会議の組織のあり方など論点が多岐に渡っていきそうだ。

【Go Toトラベル延長・年末年始の帰省旅行は】

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国会論戦で、学術会議と並んで多くの時間が割かれているのが新型コロナウイルス対策。菅内閣は感染防止とともにとりわけ経済や雇用の回復を重視している。こうした中、政府内で検討されているのが観光需要の喚起策「Go Toトラベル」の延長だ。具体的には来年1月末がめどとされている代金の割引が受けられる旅行商品の販売を来年春の大型連休まで続ける案が出ている。そこでこの案に賛成か反対か聞いたところ「賛成」は44%、「反対」は36%で、「分からない」も20%だった。年代別にみると「賛成」と答えた人は高齢層ほど少なく、18歳から39歳までは62%となっているが、70歳以上では35%となった。

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新型コロナをめぐる政府のこれまでの対応を6割の人が「評価する」と答え、観光庁によると「Go Toトラベル」を利用した人は10月中旬(15日)までにのべ3138万人に上るということだが、この政策を延長すべきかどうかは、年齢やその人の置かれている状況で考え方は様々ということかもしれない。

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一方で年末年始に帰省や旅行をするか聞いたところ、「帰省や旅行をする」は8%、「まだ決めていない」が20%だったのに対し、「帰省も旅行もしない」は67%に上った。自分や家族が感染する不安を「感じる」と答えた人も8割近く(79%)と、依然として高いことが背景にあるのは間違いない。7割近くの人が「帰省や旅行をしない」のであれば、ことしはいつもとは違った年末年始となりそうだ。
ここにきて国内で1日の感染者数が1000人以上確認され、クラスターも各地で相次いで起き、政府の分科会も9日夜、適切な対策を取らなければ急速な感染拡大に至る可能性があるとする緊急提言を行っている。国内で感染が確認されたのは1月。終息のめどが見えない中、インフルエンザとの同時流行も心配される冬を迎え、臨時国会でも引き続き重要なテーマだ。

【政党支持率】

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いま何党を支持しているか尋ねたところ、自民党は36.8%、立憲民主党は4.9%などとなっている。
衆議院議員の任期が残り1年を切る中、最近も自民・公明両党の幹部が相次いで来年1月の通常国会冒頭の解散総選挙の可能性に言及した。議員心理として次の選挙が気になるのは仕方ない面もあるが、内政外交、課題は山積している。まずは国会で課題の解決につながり、なおかつ国民の判断にも役に立つ論戦を求めたい。

(曽我 英弘 解説委員)


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