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「ヒアリに注意 相次ぐ発見」(くらし☆解説)【取材後記あり】

土屋 敏之  解説委員

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◆強い毒を持つ外来アリ・ヒアリがこの1か月ほどの間に相次いで確認されたと発表されている

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 ちょうど現在、全国の港湾で一斉調査をしている時期だから発見が相次いでいる面がありますが、それにしても昨年度は1年間で10件、一昨年度は12件だった確認事例が、今年度は10月26日現在で既に16件になっています。
 しかも、今年度は千匹以上の群れが3回も見つかっており懸念もあります。

◆そもそもヒアリはどう危険?

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 ヒアリはハチのようにお尻に毒針があり、刺されると激痛がするだけでなく、時には激しいアレルギー反応を起こして命に関わることもあります。実際、海外では死者も出ています。また、アメリカでは家畜を攻撃したり、電気設備に入って停電を引き起こすなどの場合もあり、経済損失は年間7千億円にのぼるとの試算があります。

◆ヒアリはどのように日本に入ってきた?

 ヒアリは南米原産で、アメリカなどには早くから定着していましたが、今世紀に入り、経済のグローバル化でアジア太平洋地域にも一気に拡散しました。中国、台湾やシンガポールには既に定着していて、コンテナ貨物などと共に日本にも入ってきています。
 国内では2017年に初確認されて以来、各地で見つかっています。今年は新型コロナの影響で春先は特に物流が大きく減ったと見られるにも関わらず、例年以上に発見が相次いでいます。

◆対策は?

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 中国などからコンテナ貨物船の定期航路がある全国65の港湾では、年2回集中的な調査を行っています。現在はちょうど秋の調査期間です。
 以前は左側のような粘着トラップを置いて、後日回収する方法が主流でしたが、これだとたまたまトラップに入ったものだけしか確認や駆除ができない、という課題がありました。そこで、現在は右側のようなスナック菓子を置いて、すぐ3、40分後にはまた人が巡回し、その場で見つける方法が中心になっています。ヒアリはこうした油分のあるスナック菓子が好きらしく、数十分で行列を作るぐらい集まってくるそうです。見つけると、そこに毒えさをおいて巣に持ち帰らせることで、まとめて駆除します。
 この他、これまでにヒアリが見つかった場所ではフォローアップ調査を続けると共に、港湾の事業者などにも啓発や注意喚起が行われています。
  
◆対策の効果は?

 環境省によると、まだ現時点では国内で繁殖を繰り返して「定着」したと言えるケースは確認されていないとしています。
 ただ、去年の夏から秋にかけ、東京の青海ふ頭で駆除してもまたヒアリの群れが見つかる、ということが繰り返されました。一般にヒアリは夏場、羽の生えた女王アリが飛び立って新たな巣を作る性質があり、そうした周辺への拡散が起きた可能性も否定できない状況でした。そのため、その後も周辺2km以上に及ぶ範囲で公園・緑地や商業施設など定期的な調査が行われています。
 外来生物がいったん国内に広がってしまうと、後から根絶するのは非常に困難ですから、今後も地道な対策を続ける必要があります。

◆他の国ではヒアリ対策は?

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 グローバル化が進む中、小さな外来生物の侵入を防ぐのは、どの国にとっても大変ですが、その中でニュージーランドは今のところ、ヒアリの定着を防ぐ事に成功してきたとされます。
 ニュージーランドでは、バイオセキュリティー法という外来生物対策の法律を整備して、全国の空港や港などで5万個ものわなを設置し水際対策を行ってきました。それでも2000年以降、少なくとも3回ヒアリの侵入が確認され、一度は港から離れた場所にアリ塚ができていて3万匹ものヒアリが見つかりました。その際は羽アリが飛んでいく可能性がある半径2km以内は、土砂や干し草などヒアリが紛れ込むおそれのある物品を動かすことを法律で制限までして徹底的な駆除を行い、なんとか根絶に成功しています。

◆日本でヒアリが見つかるとしたら、どんな場所に?

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 これまでよく見つかっているのは、港湾やそこに陸揚げされたコンテナ貨物などですが、そこからコンテナが陸送された倉庫などからも見つかっています。そして、以前、家電製品を買った人が家で段ボール箱をあけたら、中からヒアリの死骸が見つかったケースもありました。家電製品は中国の工場で梱包され、輸入・販売されたものでした。このケースは死骸でしたが、今後私たちが生きたヒアリと直面するリスクも否定はできません。
 ヒアリが定着している海外では、公園や畑などにもすみ着いています。

◆ヒアリかも、というアリを見つけたら

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 ヒアリは2.5~6ミリの小さく赤いアリです。見分け方に迷ったら環境省のHPに情報が出ていますので、参考にして下さい。
 家の中などで少数のヒアリを見つけた場合は市販の殺虫剤を使ってもいいのですが、公園などで多数の群れを見かけた場合は、危険もありますから直接手を出さず、こちら環境省の「ヒアリ相談ダイヤル」に電話するとよいと思います。
 そして万一刺されてしまった場合、多くの人は、焼けるような痛みやかゆみなどで、これは徐々に改善しますが、もし、刺されて数十分以内に「息苦しさ」「激しい動悸」などの強いアレルギー反応が疑われる症状が出た場合は、すぐに救急車を呼んで下さい。

(土屋 敏之 解説委員)


■ 取材後記

 ヒアリは日本では2017年に初確認され、「危険で凶暴な外来アリ」というイメージと共に、その名が広く知られるようになりましたが、この1,2年は話題になることも減ってきたのではないでしょうか。
 しかし、その後もコンテナ貨物などと共に断続的に日本に入ってきていて、水際の攻防が続きながら、徐々に国内定着が近づいている、あるいは既に気付かないところで入り込んでいるかもしれない、とも疑われる状況です。
 原産地である南米ではヒアリは特に問題を起こしているわけでもなく、多数の在来アリの中の平凡な一種に過ぎないそうですが、それが異なる進化の歴史を持つ他の地域、他の国に持ち込まれると、その土地固有の生物を脅かし、「生物多様性」を損ねる“侵略的な”生き物、と見なされてしまうことになるわけです。
 外来種問題はそういう意味でなかなか考えさせられる問題ですが、いざ私たちがヒアリに直面した時、慌てないよう心の備えもしておきたいものです。

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