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「台風19号1年~水害リスク『空白地域』に注意」(くらし☆解説)

松本 浩司  解説委員

大きな被害が出た台風19号から1年が経ちましたが、この台風では水害のリスクが想定されていない、いわば「空白地域」でも被害が相次ぎました。空白の解消は進んだのでしょうか。

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Q)「空白地域」とはどういうところなのでしょうか。

A)
川の氾濫や浸水のハザードマップは整備が進んできましたが、浸水が想定される区域の調査が行われず、危険があるのにマップに示されていないところがまだ多く残されています。
主に2つあって、ひとつは中小河川の流域、もうひとつは内水氾濫の危険地域です。
台風19号ではそうした地域での被害が相次ぎました。まず中小河川について見ていきます。

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台風19号で大きな被害が出た宮城県丸森町。五福谷川が氾濫し、集落が浸水し、この周辺で4人が亡くなりました。ここは浸水想定の「空白地域」でした。

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左の地図、青色のところが浸水した範囲です。右は事前に作られていた浸水想定区域図。
本流の阿武隈川流域は浸水範囲と想定がほぼ一致していますが、五福谷川流域には色がついていません。浸水想定区域図では浸水の危険性が示されていなかったのです。

Q)なぜ示されていなかったのですか?

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浸水想定区域図は川を管理する国や県が作ることになっていて、これを元に市町村がハザードマップを作ります。
大きな川や都市部を流れる2000の川は作成が義務付けられていて、ほぼ作成済みです。
人口の多い地域はほぼカバーされていると考えてよいと思います。

ただ大きな川でも上流部や枝分かれした川など中小河川は義務付けられておらず、作成が進んでいません。ひとつひとつの川の長さは比較的短く、流域に人が住んでいない川も多いが、その数は2万もあります。台風19号では71の河川が決壊しましたが、このうち43はこうした中小河川で、五福谷川もそのひとつでした。

Q)危険があるのに「空白」になっているというのは問題ですね。

作成が進まないのは区域の指定には精密な測量や水量の把握などが必要で手間と時間がかかるためです。そこで群馬、滋賀、北海道など8道府県は中小河川について、それぞれ独自の簡素化した方法で浸水想定図を作っています。

例えば群馬県は県が管理する409のすべての中小河川の想定図を作り、これを受けて市町村がハザードマップに反映させる作業を進めています。

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群馬県館林市もハザードマップを作り直しました。この地区は大きな川から離れていて以前のハザードマップでは浸水しないとされていました。しかし新たな想定では最大規模の雨が降ると、地区を流れる小さな川が溢れ、浸水することがわかりました。そして浸水が想定される場所には特別養護老人ホームがあります。

これを受けてこの施設では今年の3月、新たに浸水を想定した避難計画を作りました。
中小河川沿いなので法律で義務付けられてはいませんが、自主的に作りました。情報収集や避難誘導など役割分担を決め、平屋建てなのでいざというときには近くの高校に避難をすることも検討することにしました。

Q)浸水のリスクがわかったので対策が進んだわけですが、中小河川の浸水想定をまだ作っていない県はどうしているのでしょうか?

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国は先進自治体の手法も参考に、6月、比較的簡素な手法で中小河川の氾濫範囲を想定する方法をガイドラインにまとめました。現地で測量をしなくても航空機によるレーザー光を使った新しい測量データを使うなどの方法です。未整備の都府県は作成を急ぐ必要があります。

ここまで中小河川の問題を見てきましたが、台風19号でもうひとつハザードマップの空白が問題になったのが内水氾濫です。

Q)内水氾濫というのは川の氾濫とどう違うのでしょうか?

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通常の氾濫は川の水が堤防からあふれたり、堤防が決壊したりして市街地に水が流れ出すものです。一方、内水氾濫は、川は越水や決壊をせずに持ちこたえていても、市街地に降った雨水が排出できずに低い場所に溜まったり、川の水位があがって下水や用水路などから逆流するなどして市街地が浸水するものです。

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神奈川県川崎市では去年の台風19号で、超高層マンションがたち並ぶ武蔵小杉駅周辺の地区を始め、市内5カ所で内水氾濫が起こり110ヘクタールが浸水する被害を受けました。

川崎市は多摩川が氾濫した場合のハザードマップは作っていましたが、内水氾濫のハザードマップは未作成でした。ただ過去10年間に内水による浸水が起きた場所を(赤い丸で)ピンポイントで示した地図を公表していました。

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例えば武蔵小杉駅周辺では数カ所、危険箇所が示されていましたが、実際に浸水したのははるかに広範囲にわたっていました。ほかの2地区では浸水の危険箇所は示されていませんでしたが。実際には広範囲が浸水した。

Q)川崎市は多摩川の氾濫を想定したハザードマップはあったのですね。
そちらで危険は示されていなかったのですか?

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多摩川など大きな川が氾濫した場合、大量の水が市街地に流れ込むので、浸水想定区域は非常に広くなります。内水氾濫の想定区域と重なる部分も出てきますが、浸水の深さは異なります。また内水氾濫は大きな川が氾濫をしなくても局地的な短時間の大雨でも発生し、比較的頻度が高いと考えられます。さらに大きな川の氾濫による浸水が起こるより前、早い段階で発生することが多く、段階に応じたリスクを別に示しておく必要があります。
川崎市は台風19号での被害を受けて、土地の高低差や想定される雨のデータなどをもとにシミュレーションを行い、内水氾濫のリスクのある地域と想定される浸水の深さを示した内水氾濫ハザードマップの作成を進めています。

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全国では内水氾濫のハザードマップの作成が必要な市町村が500近くありますが、4分の1の市町村でまだ作成・公表されていません。また川崎市のように実際の被害を反映しない簡単な地図のところもあり、整備を急ぐ必要があります。

Q)まだ台風シーズンが続く。住民はどうしたよいのでしょうか?

あらためて自分が住んでいる場所のハザードマップを見て、近くに川があるのにその周辺が何も色づけられていないところは浸水想定区域図が未整備の可能性があります。
また市町村によっては内水氾濫のハザードマップがないところもあります。低い土地や用水路などの近くは要注意です。
ハザードマップを作るのは市町村なので問い合わせをしてほしいと思います。そして未整備でも危険のあるところでは避難先やルートを確認して備える必要があります。

(松本 浩司 解説委員)

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