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「銀行再編!手数料値上げ!暮らしに与える影響は?」(くらし☆解説)

神子田 章博  解説委員

長引く低金利とコロナ禍で銀行の経営状況が悪化する中で、私たちの生活にも影響が及ぼうとしています。経済担当の神子田解説委員です。

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Q 神子田さん、銀行は私たちのよくいく身近な存在ですが、手数料と書いてあるのがきになりますね?

A これまで銀行を利用するのに、無料=ただが当たり前だった銀行のサービスにお金を払わなければならなくなるという動きが出ています。

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具体的に言いますと、三井住友銀行は、来年4月以降に新たに口座を開設した18歳から74歳までの顧客のうち、パソコンやスマートフォンなどを使ったネットバンクキングを利用しない人のなかで、2年以上入金や出金がなく、口座の残高が1万円未満の場合、年間1100円の手数料をとることを決めました。
またこれとは別に、同じく、来年4月以降に新たに口座を開設した18歳から74の顧客を対象に、紙の通帳の発行を受けた場合は、年間550円の手数料をとるとしています。
 この紙の通帳の手数料をめぐっては、今年8月みずほ銀行も、来年1月から70歳未満の人が新たに口座をつくる場合、通帳の発行に1100円の手数料をとると発表しています。ここにお示しした手数料、いずれも税込みの数字です。

Q 新しく口座を作る人には、負担になってしまいますね?

A 銀行が様々な手数料をとるようになった背景には、長引く低金利で銀行の経営がそれだけ苦しくなっているということがあります。
銀行の経営の仕組みです。銀行は、預金者から集めたお金を企業などに貸し出しています。そして、預金者には利息を支払い、企業からは利息を受け取っています。

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Q 私たちが受け取る利息は雀の涙という感じですが、企業からの利息は多いですね

A これは企業には長期間にわたって貸すことが多いからです。長い間貸すとなると、その間に、経済の状況が急に悪くなって会社の経営が悪化し貸した金が返ってこないリスクも高まるため、貸出金利も高くなっているんです。そして、銀行の預金と貸し出しの利息の差、これを利ザヤというんですが、銀行はこの利ザヤで利益の大半をあげています。

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ところが、日銀はいま景気を支えるために、金利を極端に低く抑え込んでいますので、私たちが受け取る利息は雀どころか蟻の涙なんですが、企業からの利息も以前のようにはとれなくなっています。ということで、利ザヤが非常に薄い、つまりもうからなくなっているんです。
 こうした経営状況、地方の銀行にとってみるとさらに厳しくなっているんです。

Q 地銀の経営はどうして厳しいのですか?

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A 地方経済は人口減少による市場の縮小や地場産業の衰退などで、貸出先の企業が減っています。そうした中で、複数の銀行が貸し出しを増やそうと競争して、金利を下げてでも借りてもらおうとするので、利ザヤはますますとりにくい状況となっています。とりわけ、最近では、新型コロナウイルスの影響で貸出先の企業の経営が悪化していて、こうした企業が倒産して融資が返済されない時に備えておくための費用も膨らんでいまして、それが利益を一段と減らす要因ともなっています。このように地銀の経営状況が苦しい中で、注目されているのが、地銀同士の再編、別々の銀行が合併したり経営統合したりすることです。

Q 再編と言えば、菅総理大臣も地銀の再編の必要性に言及したというニュースがありましたね

A はい。菅総理大臣は、「個々の銀行の経営判断の話になるが、再編もひとつの選択肢になる」と発言しました。地方銀行には、地域経済によりいっそう貢献してもらいたいという思いがあるようです。そして政府は、政策面でも手を打っています。

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同じ都道府県内にある地方銀行の経営統合する場合、県内の貸し出しシェアが高くなる場合がありますが、そうなると、競争原理が働かなくなり貸し出し金利が高くなって、お金を借りる側が不利益をこうむるおそれがあります。このためこれまでは独占禁止法に基づいて簡単には認められなかったんです。それが、来月27日からは、ある程度の競争は保たれるなど一定の条件を満たせば独占禁止法の適用を除外するという改正法が施行され、再編が進みやすい環境が整います。
こうした動きを先取りする形で、今月1日、長崎県内の二つの地方銀行が合併した「十八親和銀行」が新たに発足しました。新たな銀行は合併に伴って預金残高が5兆円と九州で3番目の規模となるほか、現在182ある店舗のうち68の店舗を実質的に閉鎖する計画で、経営基盤の強化や合理化の効果が期待されています。
ただライバル同士だった銀行が一緒になるのは容易なことではありません。全国地方銀行協会の大矢恭好会長は、「再編も選択肢のひとつだ」としながらも、必ずしもそれがすべての答えではないという考えを示しています。

Q 再編がすべてではないということは、他にどんな解決策があるんでしょうか?

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A 地方銀行の間では、収益源を多様化するため、金融以外の業務に進出する動きがでています。今年4月、四国四県の地方銀行が共同で地域商社を設立。地元の特産品をブランド化して全国に売り込もうしています。こうした動きは、山口や青森など全国に広がっています。また、広島銀行や、大阪の池田泉州銀行は、それぞれ人材紹介業に参入。後継者不足や従業員の確保に悩む中小企業を対象に人材を紹介し、手数料をとるビジネスを軌道に乗せているといいます。いずれのビジネスも銀行が蓄積してきた取引先企業の情報を有効に活用し、新たな付加価値を生み出そうというものです。

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 さらに、業界の垣根を超えた提携=合併などとは違うゆるやかな連携の動きもでています。島根銀行、福島銀行、福岡の筑邦銀行、静岡の清水銀行は、大手ネット証券のSBIホールディングスと相次いで資本業務提携に踏み切りました。SBIから、地銀がとりそろえていない金融商品の提供を受けるなどして、サービスを向上させたいとしています。SBI側には地銀との連携を通じて、地方の顧客を開拓したい思惑があるようですが、地方銀行にとっても大手との資本提携は信用の補完にもつながり、今後参加する地銀が増えることも予想されます。
 
Q 銀行の生き残り策も大事ですが、地方の経済への影響はどうなるんでしょうか?

A そこが大事なポイントだと思います。コロナ禍でインバウンド需要がぱたっと止まった観光をはじめ、地方の経済は一段と疲弊しています。このまま経済が衰退すれば、それだけ雇用も減る、就職先にも困るということで、その地域で暮らす人々の生活にも大きな影響が及ぶことになります。

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いま大切なのは、コロナで苦しむ企業に適切に融資を行っていくことです。銀行にとっても融資先の企業が倒産してしまえば、自らの収益源を失なう。つまり共倒れになってしまいます。さらにポストコロナに向けても、地方銀行にとって大事なのは、取引先の企業の生き残りを助け、新たな産業を育てて地域経済の底上げをはかることです。そして、そのために必要なお金だけでなく知恵をだし、地域との共存共栄をはかっていくことが必要です。それが翻って銀行の経営基盤の強化にもつながっていくことになるのではないでしょうか。
政府に対しても、そうした銀行の支援を後押しするような政策を期待したいと思います。 

(神子田 章博 解説委員) 

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