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「非正規の『格差』 何が見直される?」(くらし☆解説)

山形 晶  解説委員

ボーナスや退職金、家族の扶養手当などは、非正規雇用の人たちも、もらえるのでしょうか。
最高裁は、いわゆる「同一労働同一賃金」に関わる裁判について、今週、5件の判決を言い渡しました。
賃金や休暇などについて、まとめて判断を示した形です。
この判決が格差の見直しにつながるのか、そして、私たちの暮らしへの影響について考えます。

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【一連の裁判とは】
5件の裁判は、いずれも、非正規雇用の人たちが、正社員や正職員と同じ仕事をしているのに待遇が違うのはおかしい、と訴えたものです。
当事者や争われた内容はそれぞれ違います。

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ボーナスをめぐる裁判は、大阪医科大学、今の大阪医科薬科大学で、フルタイムで事務の仕事をしていたアルバイト職員の女性が起こしました。
退職金をめぐる裁判は、東京の地下鉄の売店で長年働いてきた契約社員の女性たち。
そして扶養手当などをめぐる裁判は、日本郵便で配達などの仕事をしている契約社員たちが起こしました。
日本郵便の契約社員は各地で裁判を起こしていて、今回は3件まとめて判決が言い渡されました。

【背景には「同一労働同一賃金」】

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正規雇用の人たちと非正規雇用の人たちの待遇に「不合理な格差」を設けることは、法律で禁止されています。
ただ、何が「不合理」なのかということについては、解釈の余地があって、仕事の内容や、責任の程度、配置転換の範囲などに違いがあるかといった個々の事情をもとに判断することになっています。
こうした点が大きく違えば、格差があっても仕方ない、ということになりますが、今回、裁判を起こした原告たちは、仕事の内容などが同じ職場の正規雇用の人たちと同じだと感じていたため、法律で禁止されている「不合理な格差」にあたるとして、裁判を起こしました。
これが、「同一労働同一賃金」をめぐる裁判と呼ばれている理由でもあります。

【最高裁の判断は?】

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最高裁はボーナスと退職金についての訴えは、認めませんでした。
高裁は、ボーナスについては正職員の60%、退職金については正社員の25%をそれぞれ認めました。

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しかし最高裁は、ボーナスの裁判では、大阪医科大学では正職員は別の業務も担っていたことや、人事異動の可能性があったことなど、仕事の内容や配置転換の範囲に一定の違いがあったことなどを挙げて、「格差は不合理とまではいえない」として訴えを退けました。
退職金の方も同様でした。
最高裁は、正社員は複数の売店を統括し、指導やトラブル処理などの業務にもあたっていたことや、正社員は正当な理由なく配置転換を拒否できないことなど、やはり一定の違いがあったとして訴えを認めませんでした。
「一定の」という言葉からは、最高裁も「大きく違うわけではない」と考えていたことがうかがえますが、高裁のように一定の割合で認めることはしませんでした。
仕事の内容や責任の範囲などが同じかどうかということを、かなり厳密に判断したという印象を受けます。

ただ、ほかの会社でも、一律にボーナスや退職金は認められないということではありません。
今回は、あくまでこの2件についての個別の判断にとどまりました。
大阪医科大学と東京メトロの売店という、それぞれの職場の事情を細かく検討して、総合的に判断した結果、「認められない」という結論になりました。
しかし、どの程度の違いがあれば「格差は仕方がない」と言えるのかという統一的な判断基準は示しませんでした。
判決の中では、一般論として、ボーナスや退職金を支払わなければならない場合もあり得るということも述べています。
これからも裁判が起きて、判断が積み重ねられる中で、認められる範囲が定まってくることも考えられます。
このため、今はボーナスや退職金をもらえない職場で働いていたとしても、必ずしもあきらめる必要はありません。

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一方、扶養手当などの裁判では、最高裁で判断の対象とされた、5つの手当や休暇に関しては、いずれも認められました。
これらが認められたのは、制度の趣旨に照らせば、そもそも正規と非正規で差をつけるのがふさわしくないと判断されたからです。
日本郵便では、契約の更新を繰り返して長期間働く人も少なくないので、その前提に立てば、家族を養うための扶養手当や、リフレッシュのための夏休みや冬休みについては、必要性に差はないという判断です。
これを受けて、日本郵便は、18万人あまりにのぼる契約社員の待遇の改善に向けて労働組合と協議を進めることになりました。
これは日本郵便の個別の事情に基づく判断ですが、扶養手当や夏休み・冬休みについては、同じような形で雇用している企業では、見直しの必要が出てくるかもしれません。

【依然として大きい賃金格差】
今回の5件の判決を見ると、認められたものもありますが、ボーナスや退職金といった大きなものは認められませんでした。
「同一労働同一賃金」を進める流れに水を差したようにも見えます。

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ただ、最高裁は「同一労働同一賃金」の考え方を否定したわけではありません。
そして国は「同一労働同一賃金」を推進しています。
考え方を具体化したガイドラインも設けられ、仕事の内容などが同じなら同じ待遇を、違いがあるのなら違いに応じた適切な待遇にすることが求められています。
背景にあるのは、賃金の格差の大きさです。

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正規と非正規の賃金の違いを年代ごとに示したグラフでは、40代くらいから格差が一気に広がります。
この状況が続いて、低い賃金で働かなければならない人たちが増えれば、貧困や少子化、経済の成長の阻害など、さまざまな面で影響が出ます。
今では非正規雇用の人たちは、2165万人、労働者全体の4割近くにのぼっています。
非正規雇用の人たちの働きがなければ成り立たない、という職場も珍しくないと思います。
それぞれの企業では、非正規雇用の人たちの待遇について、不合理な点があるという声が上がれば、法律や国のガイドラインの趣旨を踏まえて、見直しを進めていってもらいたいと思います。

(山形 晶 解説委員)
 

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