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「これから牛乳が足りなくなる!?」(くらし☆解説)

佐藤 庸介  解説委員

【この夏、業界団体が異例のお願い】
おなじみの「牛乳」。この夏は足りなくなるかもしれないという懸念が指摘されています。その背景をお伝えします。

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スーパーにはふだん通りに並んでいる様子の牛乳。夏の状況について、一部のメーカーやスーパーに聞いてみましたが、今のところ、牛乳が欠品しているということはないようです。ただ、全国的に不足気味なのは事実。実際、7月末、業界団体の「Jミルク」が発表した資料にはこんなことが書かれています。

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この夏、9月にかけて、「飲用需給は例年以上にひっ迫基調で推移する見通し」になっているため、「牛乳売場で混乱が生じないよう、廉売の自粛や加工乳などの代替品の販売について流通小売業界に理解を得る必要がある」という指摘です。要するにこの夏は牛乳が足りなくなるおそれがあるので、スーパーなどの小売店に特売しないようにしてほしいと異例のお願いをしたということです。

【足りない理由① 牛の夏バテ】
そんなお願いをするほど、牛乳が足りなくなっている理由、その1つは、牛の夏バテです。

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夏場、暑くなると牛が夏バテして牛乳の原料、生乳の生産量が減ります。乳牛の適温は4度から24度と言われています。これ以上になるとエサを食べる量が減って、生乳の生産量が落ちてしまいます。8月の生産量は、涼しい5月に比べると8%も落ち込む見通しになっています。このところ、暑い年が続いているので、毎年、夏は不足気味になっています。

【足りない理由② 新型コロナの影響】
ことしはさらに新型コロナウイルスが追い打ちをかけました。

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具体的には牛乳がつきものの学校給食。例年なら、8月は全国的に小中学校が夏休み。学校給食がほとんどありません。ところがことしは3月から5月にかけて全国的に臨時休校する学校が相次いだことを受けて、学習の遅れを取り戻すため、多くの学校で夏休みを短縮しました。学校が始まれば、ほとんどのところでは学校給食もあり、牛乳も消費されることになります。ことし8月に生産される学校給食向けの牛乳は、去年の同じ月の2点6倍、牛乳の量全体も、6%近く押し上げる見込みになりました。例年だと夏場、牛が夏バテして生産量が減るタイミングで、学校が夏休みになって給食がなくなるので、牛乳の消費も減ってバランスが取れていました。このバランスが、新型コロナウイルスで崩れてしまったんです。

【大生産地の北海道が穴埋め】

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なんとか、供給を賄うため、生産量の多い北海道から多くの生乳を運んでいます。その量、業界団体は、7月から10月まで毎月6万トン以上に上ると見通しています。月によっては去年より、26%も多くなっています。業界団体によるとこれだけ多くの量を4か月続けて運ぶのは「過去に例がない」とのこと。いまは何とか賄っているものの、北海道からの輸送は、船が主力。台風などで海がしけて船が休んで、急に足りなくなるというリスクは常にはらんでいます。

【少し前には正反対の呼びかけが…】
でも、実はわずか数か月前には、国や業界はこぞって「もっと牛乳飲んで」と呼びかけていました。4月21日、江藤農林水産大臣は会見で、消費者にこう訴えました。

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「買い物の際に牛乳やヨーグルトをふだんよりもうひとつ買ってもらえれば、酪農家の生産を守ることになるので協力をお願いしたい」

このほか、こんな取り組みも。

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北海道の鈴木知事が、SNSなどで「牛乳チャレンジ」と銘打って、コップ1杯の牛乳を毎日飲んで欲しいと呼びかけました。実際、この時期は、生乳が余っていて、業界関係者の間では、場合によっては「廃棄せざるをえないかもしれない」という緊張が走っていました。

【余っていたのも気候と新型コロナ】
余っていた理由、それはこの夏の理由と正反対です。

春から初夏にかけてはちょうど牛にとって気候が良く、生産量が多くなる時期。それに新型コロナウイルスが深刻な影響を及ぼしました。全国的に臨時休校が相次ぎ、給食用の牛乳消費がほとんどなくなってしまいました。3月から5月の給食向けの牛乳の量は、去年の同じ時期のわずか13%から22%に激減。それに加えて観光客の減少や「外出の自粛」も響きました。外食の需要が激減することで、業務用の牛乳や乳製品の需要も急速に落ち込み。生産者団体や乳業メーカーが在庫の利く乳製品の加工を進めながら、キャンペーンの助けも借りて四苦八苦して、何とか廃棄するという事態を防ぎました。

【生産量はコントロール難しい】
消費にあわせて生産量を変えればいいんじゃないの?と思う人もいるかもしれません。しかし、それはなかなか難しいのが実情です。北海道の酪農家はこう言っています。

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「この子たちは機械じゃなくて、生きている動物。おっぱいがたまってしまって“乳房炎”という病気になってしまう。そうなると最悪、命を落とすことになりますので、われわれ酪農家としては絶対にそういうことはできない」

牛は乳を出さないと病気になってしまうため、生産を止めることはできないということ。生乳は農産物。水道の蛇口のように、増やしたり、減らしたり、都合良くコントロールできません。どうしても余ったり、今のように不足気味になったりしてしまいます。

【あわてないことが肝心】
消費者としては、どうしたら良いのでしょうか。業界団体は「牛乳が品薄になってもあわてないで欲しい」と訴えています。その理由は、牛乳は毎日、コンスタントに生産されるので、仮に店頭になくても、ごく一時的で、ある程度待てば供給されるからです。それに低脂肪乳などの加工乳は潤沢に供給されること。さらに少なくとも秋になって涼しくなれば、牛も元気になって供給量は増えることもあり、品薄は確実に解消に向かうというのです。

新型コロナウイルスの感染拡大では、マスクの品薄が続いたほか、トイレットペーパーも買いだめの動きが出て、一時、店頭から消えました。消費の現場もものすごく混乱してしまいました。生乳のような農産物は、コロナがなくても、余ったり足りなくなったりということは起こりやすいものです。それだけに北海道のような生産地にいる身としては、消費者には、実態をよく知って冷静な対応をしてほしいと思います。

(佐藤 庸介 解説委員〔札幌放送局所属〕)

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